「たっくん…起きてる？」
何度か試みるノック。
全く無い反応。

「せめて…顔だけ見たいので
おじゃましますよ。」
囁く声。
慣れた手つきで開けたドア。
ひどく懐かしさを覚える女神。

「うそ…」
見開かれる薄茶の瞳。
あの日と何一つ変わらない部屋。


テーブルの上の灰皿。

重なったメンソール。

並んだ化粧品。

食べかけのアポロチョコ。

壁に掛かる黒いキャミソール。


「たっくん…どうしてっ」
あふれる涙。
ずきずきと痛む胸。
ゆっくりとのぞき込むベッド。
明らかにやつれた幼なじみ。
青白い寝顔。

「あ…これっ」
頬の下に敷かれた布。
最後の日に自分が着ていた拓海のＴシャツ。

「たっくん…ごめんね…」
呟いて撫でる頬。
こぼれていく雫。

「ん…」
眉をひそめる拓海。
手を引くあやか。

「たっくん…？」
「んん…」
小さく囁く女神。
動いた体。
ゆっくりと開いた瞳。

「たっくん…」
「あやか…
もどって…きてくれたんだね…」
寝ぼけまなこな甘い声。
噛んだ唇。
頬に触れた熱い大きな手。

「泣かないで…
俺は…あやかの笑顔を見ていたいんだ…」
「たっくんっ」
ぎゅっと瞑る瞳。