「貴之と…同じ声…」
右手を口に当てて考えこむ政子。
ショックを隠しきれないワタル。


声？

貴之と同じ声…


あやかは


新たな一歩を踏み出したんじゃなくて


過去に一歩下がったってこと？


貴之のことなんて


思い出にしなきゃダメよ！


「政子さん？」
「それ…拓海は知ってんのか？」
「それって？」
「自分の声が原田貴之にそっくりだって事！」
「あ…知ってるみたいだった。
そんなに似てますかって聞かれたし…」
「ふぅん…」
「それがどうかした？」
返事もせずに考えこむ妻。
代わりに答えたワタル。

「あんまり…よくないですよね。たぶん…」
「よくない？」
「えぇ、声が同じだなんて…
あやかは嫌でも原田さんを思い出すだろうし。
本人が同じ声だって知ってるって事は
それで苦しむ事になる気がします。」
「苦しむ？拓海が？」
コーヒーを口にする武田。

「ちっとも似てない俺ですら
原田さんの代わりでしかないのかって悩んだりしました。
声が同じなんて言われたら…
俺以上に悩むんじゃないかな…」
「悩んだのか？お前も…」
「一時期…ですけど。」
照れくさそうに笑うワタル。
俯く武田。