「…どうしたの？」
インスタントコーヒーのボトルを手に立ち尽くす女神。
ただならぬ空気。

「あやか…ちょっと話がある。」
政子の低い声。
不安げな顔で頷くあやか。
左手に持った封筒を体で隠すワタル。
まだ腹を押さえている武田。

「なぁに？」
「言いたくないだろうけど
やっぱりちゃんと聞かせて。
いつもどこに泊まってるの？」
優しく、しかし力強い声。
目をそらして下を向く薄茶の髪。

「文ちゃんち…」
「拓海と付き合ってんのね？」
黙ったまま頷くあやか。
その頭を優しく撫でる細い指。

「それは別にいいのよ。
あやかのしたいようにするのが一番だからね。
だけど…」
サッと伸びた手が奪った封筒。

「あっ」
「ワタルにこんな決意をさせるってのは
どうかと思うわけ。」
「えっ？辞表！？」
まんまるになった薄茶の瞳。
封筒とワタルを交互に移動する視線。

「なんで？」
まっすぐに自分を見つめる愛しい人。
ぎゅうぎゅうと締め付けられる胸。
出てこない言葉。
思わず噛んだ奥歯。

「あんたが自分に会いたくないから
武王に帰ってこないと思って…
やめれば帰って来ると思ったんだってさ！」
呆れ気味に言う政子。