「あやか…」
呟いた名前。
唇を噛む愛しい人。


言葉が出てこねぇ…

何を言えばいい？


くるりと背中を向けたあやか。

「ちょっと車みせに寄っただけだから…
もう行くね。」
聞こえた冷たい声。
出ていく小さな背中。
慌てて灰皿に捨てるタバコ。
駆け出す啓介。

「あやかっ
待てよっ！」
エイトのドアに手をかけたあやか。
止まった動き。

「知り合い？」
呟く店長。
黙ったまま頷く女神。
横目で自分を貫く視線。

「藤原と付き合ってるってホントなのかよ！？」


げっ俺なに言ってんだっ

「カンケーないでしょ。」
冷たく突き放すような声。
ずきんと痛んだ胸。

「カンケーなくねぇ！
お前はそれでいいのかよっ！？」
考えるより先に出てくる言葉。
かつてない動きをする心臓。

「死んだ奴と同じ声だからって
一緒にいてっ
それでお前は幸せなのか！？」
一瞬、泣きそうな顔をしたあやか。
俯く横顔。
さらりとこぼれる薄茶の髪。

「声が同じだから一緒にいるんじゃないもんっ！」
少し震える声。

「じゃあ藤原のこと好きなのかよ！？
兄貴のことはもう忘れたとでも言うのかっ」
止まらない言葉。