事務所のイスに腰かけてぼんやりとタバコをふかす啓介。


何やってんだ…俺…

こんなとこにいたって

あやかに会えるわけでもねぇのに。


でも…

一瞬でもいい。


あやかに会いたい。


声が聞きたい…


我に返って落とす灰。
左手のコーヒーを一口。
カウンターの中でタバコをふかす店長。
その瞳に飛び込んできた鮮やかな赤。

「いらっしゃいませ～っ」
いつも通り出迎える池谷。
しなやかな流線型。
静かに開いた窓。

「あやかちゃんっ！」
池谷の素っ頓狂な声に反応する事務所の２人。

「来たなぁ！」
満面の笑みで出ていく店長。
事務所の前に止まった美しい赤。

「なっエイトか！」
立ち上がる啓介。


あれがあやかの次の車！

どう考えても…

早いよな。ぜってぇ

降り立つ女神。
完璧なシルエット。
暴れる心臓。

「ハイオク満タン？」
「ううん？まだガソリンは使ってないよぉ」
笑顔でこっちに歩いて来る愛しい人。
開いた自動ドア。

「まだ？」
「うん。水素で走るんだって…あっ！」
自分をとらえる薄茶の瞳。
止まった動き。
固い表情。
キリキリと痛む胸。
深呼吸した啓介。