あやかが俺に会いたくない？


事務所への階段の途中で立ち止まった主任。
聞こえた声。


俺に会いたくないから

あやかが帰ってこない？

そんなに嫌われてるのか？


啓介に抱かれて

あの人と別れて

それでどうして戻ってこないのか…


不思議だった。


それが…

俺に会いたくないからだったなんて…


ウソだろっ


そんなのっ


張り裂けそうな胸。
こぼれる雫。


何も出来なくても

あやかを支えてられるなら幸せだった。


嫌われたくなかった。


このままずっと

一緒にいたかったのに…


もう…ダメなのか？


俺がいるから…


あやかは武王に帰ってこない？



足早に階段を降りるワタル。

「あっワタルさん！
こっち見てもらえます？」
「待ってろっ
ちょっと…休憩だ！」
「はっはい…」
駆け足で向かう駐車場。
キーを開けて乗り込む３４。
膝を抱いて嗚咽するワタル。
ぎゅっと閉じたまぶたの裏に
映し出されるたくさんの思い出。

「うっ…あやかっ…」
次々とこぼれていく雫。
消えない痛み。