「彼氏が…いたんだって？」
「うん。」
「赤城の白い…」
「うん。」
思い出すのもつらい名前。
考えないようにしていた数日間。

「でも別れちゃった。」
「出会いは別れの始まりだ。」
「好ちゃん！
オッサン臭いこと教えるな。」
「あははっそうだよね。
出会わなければ別れないよね。」
笑顔の後に俯いた女神。
ユラユラと揺らすカフェオレ。

「あやかちゃん？」
「あの日…
事故らなければ…
出会わなかった。」
思い出すあの夜。
懐かしかった名前。
安心できたさわやかな香り。

「こんなに苦しいなら…
出会わなければよかったって
おもったりするの。」
カフェオレを飲んで大きく息を吐くあやか。

「一緒にいた時はすごく楽しかったし…
幸せだった。
だけど…」
なぜか吸わなかったタバコ。
別れてから思い出した苦い味。

「分からなくなるんだよ。
あの時のあたしが本当なのか
それとも今の…
このあたしが本当のあたしなのか…」
ヒップバッグから取り出すタバコ。
口にくわえると星野が差し出したライター。
大きく吸い込むあやか。

「それとも…
ぜんぶニセモノなのかも。」
煙を吐きながら自嘲気味に笑う女神。