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愛を嚥む
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愛する人を忘れるとき、人間は声から忘れていくらしい。
お気に入りの曲げ椅子に深く腰掛けながら、黄ばみが目立つ古書の一節を、そっと指でなぞる。月日を経てすっかり酸化してしまった紙の表面は予想以上に粗く、少し爪を立てるだけでボロボロと剥がれていきそうだ。
「…りりぃ」
彼の声に思わず古書から顔をあげる。見れば、ベッドシーツに広がる黒髪の間から、黒曜石の瞳と視線がかち合った。しかしそこに光はない。彼は両の目を悪くしていた。完治することは、未来永劫、絶対にありえないらしい。老いた癒者が淡々と告げたその病状を、僕は今でも鮮明に思いだせる。
けれどその残酷な宣告を覆すかのように、あの綺麗なオブシディアンは僕の姿を愛おしげに映すものだから、愚かな英雄はたまに勘違いを起こしてしまう。……皮肉なものだ。
そして、僕の心情を知ってか知らずか、彼は眠そうに眼 を擦りながら一つ大きなあくびをもらす。先程まで深く寝入っていたからだろう。思考はまだ覚醒しきっていないようだった。
僕は、手元の古書を静かに膝の上へと預ける。
「おはよう。今日の朝食はブランマンジェだよ」
好きだったでしょう?
彼の骨張った手を、両手でやわらかく包む。すると、触れてくるとは思わなかったのか指先がぴくりと震え、瞬きを数回くり返した彼は、少しの沈黙の後 に「昔のことだろう」と微笑んだ。
お気に入りの曲げ椅子に深く腰掛けながら、黄ばみが目立つ古書の一節を、そっと指でなぞる。月日を経てすっかり酸化してしまった紙の表面は予想以上に粗く、少し爪を立てるだけでボロボロと剥がれていきそうだ。
「…りりぃ」
彼の声に思わず古書から顔をあげる。見れば、ベッドシーツに広がる黒髪の間から、黒曜石の瞳と視線がかち合った。しかしそこに光はない。彼は両の目を悪くしていた。完治することは、未来永劫、絶対にありえないらしい。老いた癒者が淡々と告げたその病状を、僕は今でも鮮明に思いだせる。
けれどその残酷な宣告を覆すかのように、あの綺麗なオブシディアンは僕の姿を愛おしげに映すものだから、愚かな英雄はたまに勘違いを起こしてしまう。……皮肉なものだ。
そして、僕の心情を知ってか知らずか、彼は眠そうに
僕は、手元の古書を静かに膝の上へと預ける。
「おはよう。今日の朝食はブランマンジェだよ」
好きだったでしょう?
彼の骨張った手を、両手でやわらかく包む。すると、触れてくるとは思わなかったのか指先がぴくりと震え、瞬きを数回くり返した彼は、少しの沈黙の
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