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一本の白い薔薇を

幼馴染×乙女美形
2:57 2018/05/16


 女子も羨むほど白くハリのある肌、男にしては少し長めのいつもは結わえている、艶やかな髪。
 そして誰もが振り返るほどの美形。
 垂れ目でいつも優し気な笑顔を浮かべる咲は学校のアイドル的な存在でいつも女子に囲まれている。
 俺の隣の家で幼馴染はとんでもなくモテる。
 そんな彼が今熱心に見ているのは
 
「仁志、これかわいくね?」

 女性服専用通販サイトである。
 ちなみに今彼が指さしているのはふわりとしたロングのワンピースだった。

「…あー今の時期に合ってそうだな。」
「これ買おうかな…似合うと思う?」
「似合うと思う」
「…そう、ならこれにしよっと」
 ペイとスマホを慣れたようにスラッシュしている。
 鼻歌交じりで嬉しそうである、普通の男子ならば似合うと思うと言われたら否定するものだろうが、こいつにとっては褒め言葉である。
 今もご機嫌に忙しなく足をばたつかせている。

 学校のアイドル的な存在の咲は、女の子の格好をするのが好きなのである。



 俺がこいつの趣味を知ったのは中学のころ。
 借りていたノートを返そうと思って、自分の部屋からだと咲の部屋はすぐ隣だから、自室のベランダから隣のベランダに移って鍵空いてたから遠慮なく入った。
 …スカート姿のこいつがいたのである。
 暫くの沈黙のあと、結構大変だった。
 いつも温和な笑顔を浮かべている咲が今まで見たことのない剣幕で
「お前を殺して、僕も死ぬ!!」
と言われたときはどうしようかと思った。いや、マジで。
 机の上にあったカッターまで取り出して俺に向けてきたときには俺も顔には出なかったかもしれないが、まぁ慌てた。
 なんとか取り上げたら、返せよぉ、どうせ気持ち悪いって言うんだろお、と次はおもちゃを取り上げられた子どものように泣き出してしまった。
「言わねえよ。それにその服、似合ってるぞ。」
 落ち着かせようと思って言った言葉だが、実際似合ってた。
 そのとき短いスカートを履いていたけど、あまり露出するところじゃないから余計かもしれないが肌も白いし足も細いし正直ドキッとした。
「…ほんと?」
「おう。」
「…そ、か。なら、いいや」
 なにが、『なら』なのかわからないけど、落ち着いてくれたようだ。
 細かく聞けば、彼は乙女願望があるのだとか。
 昔から可愛いものや花が好きで、服もこういうふわふわしたのが好き。
 髪が男子よりも長いのも可愛いから。…正直学校のアイドルって言われるのが辛いこと。
 学ランよりもセーラー服を着たい。
 今まで我慢していたようで、言いたいことがポツポツと飛び出ているようだった。
 でも男の子だから、て我慢してた。
『お願いだから、仁志だけは気持ち悪がらないで。お願い、気持ち悪いって言うならこの格好辞めるから、だから』
 ボロボロと涙を流しながら懇願する咲。
 なんかその哀れな姿を見たくなくて、つい、抱きしめて
「そこらの女より似合ってる。俺も気付いてやれなくて悪かった。
気持ち悪くないから、好きなだけそういう格好しろ」
 と、言ったのである。


 放課後と休日はお姫様の時間なのだとか。
 可愛い格好して化粧して、お菓子作りをして、暇な時間は縫物をしている。
 漫画を読むときもある。…もっぱら少女漫画である。
 俺は部活がないときは咲に付き合っている。
 実際女よりも可愛らしいと思う。見た目、と言うか…いや、見た目もちょっと身長高い女なだけだが。
 中身がなんというか家庭的というか。なんというか咲を見ていて俺は楽しい。
 あの学校のアイドルがこんな格好して甲斐甲斐しくしてる、とかそういう悪趣味なのじゃなくて、もっとこう純粋に、好きなやつが楽しそうにしているのを見ると、楽しくなるだろう。
 それだ。…似たようなもの、ではなく、俺は咲に対し好意を抱いている。
 最近気づいた、弁当も作って俺の制服のボタンが外れかけてたらつけてくれるとか、どんだけあいつ家庭的なんだよ。可愛い。
 今日来たのもあれだ、こいつはどんな告白のされ方が好きなのか今日こそは聞こうと思ったからだ。
 乙女的な思考していることを秘密にするから付き合えとかそういう脅しは卑怯者みてえで、嫌だから正攻法で行こうと思う。
 …まぁこいつが読んでいる少女漫画を見る限り、なんつうかこうキラキラした奴が好きなんだろう。
 俺のことは自分をさらけ出せる良い幼馴染ぐらいが良いところなんだろうけど、少しでも好きな子に好かれたいので。
 こいつの理想に近付こうと思って聞いてみようと思う。

「なぁ、咲」
「なにー?」
「お前だったらどう告白されたい?」
「…好きな子、出来たの?」
「参考に。」
「…」

 何となく暗くなったのは気のせいだろうか。
 一瞬考えこむ仕草をして、バッと目を瞬かせて俺の目の真っ直ぐ見て
「俺だったら、バラの花999本持って片膝ついて、好きです、て言われてみたいなっ!」
「……」
 咲嬢様は何気に難易度の高いことを仰ってくる。
 壁ドンのシーンに悶えているから、てっきりそういう感じで来ると思ったが、案外古風なのが好みなのだろうか。
 でも壁ドンを実際にやられると萎えるって言う女子もいるから、自分がされるのとはまた違っているのかそうなのか。
 別にやるのは構わないけど……バラ999本、か。
 正直部活動のせいでバイトの出来ない俺にバラの花999本は金銭的にきつい。
「…わかった、ありがとうな」
「…ううん。」
 どうするべきか、そんなことで頭がいっぱいになった。正直バラ999本は予想外だった。
 とりあえずバラはいくらするのだろうか、明日確認しよう。
「今日はもう帰るな、クッキー美味かった。ありがとう」
「…うん」
 なんとなく沈んだように聞こえたけど、気のせいだろうか。
 咲の顔を見てもいつもの笑顔で手を振っていたのでなにも言わず俺は咲の部屋を出た。
 咲は驚くだろうか、それとも泣くだろうか。
 それでも、伝えたい。だって、もうかれこれ数年片思いしてるから。




 なんだよ、どう告白されたいなんて。なんで俺に聞くの。女の子の意見をすぐに聞けるから?
 多分今自分の顔を見たら醜く歪んでいるのだろう。仁志に見られなくてよかった。
 ぎゅうっと自分の着ているスカートを握りしめた。
 握りしめた手はやっぱり男の手そのもので、可憐さなんてない。
 …馬鹿だなぁ、仁志が気を使って言ってくれた似合うを真に受けて。
 っていうかさ!なんで俺が好きって気が付かないかな!!こうやってクッキー作るのもボタンを直してあげるのも、好きじゃなきゃ出来ないって!!
 ああ、もう。人のせいにするなんて、おれ、最低。
 もっと最低なのは、真剣に聞いた仁志に女の子だったらドン引きするだろう告白の仕方を真っ先に教えたのが、一番、最低。
 いや、俺的には憧れの一つだけど!!むしろ強引に来られるより俺はそうしてくれたほうが嬉しい。
 普通の女の子は引く奴らしいけどね!そこら辺の女の子より俺のほうが乙女ってなんだろうねっ!!
 女の子じゃないのに、少しでも可能性あるかな、て浮かれてた自分が馬鹿なだけで、仁志は何も悪くないのに。
 とられたくない、なんて、俺は仁志の何なんだよ。
 乙女願望のある女の子の格好する変態の幼馴染だよ!!わかってるよ!もう!!

 だって仕方ないじゃないか。
 ベットに寝っ転がり、枕に顔をうずめる。
 俺がテンパって暴挙に出たのを止めようとしてのことだろうけど、抱きしめられて、似合ってる、なんて耳元であの低音で言われたんだもん。
 それに、おれは、もう小さいころから、ずっと。
 …明日、仁志が来たら謝ろう、冗談で言ったんだって。もっと女の子のことを考えたシチュエーションにこだわって、具体的に言えるように。
 



 『もうすぐ家着く』
 簡潔にそう来たから了解の意味をするスタンプを送った。
 今日は親友としてちゃんと仁志にアドバイスするんだと、意気込むため(戒めるため)メンズモノを身に纏って仁志を待つ。
 ああ、本当は辛い。
 だって好きな人に良い告白の仕方を教えなくちゃいけなんだもん、いやだけど、でもせっかく俺を頼ってくれたからその期待を裏切りたくない訳で。
 ジレンマと戦っていると、コンっと窓を叩く音。
 …正直、部屋のドアから来るより窓から来てくれた方が俺はときめく。なんか、こう、お姫様のところに頑張ってくる姫にとっての王子様が来るって言うか、なんかこう秘密の関係っぽ…じゃなかった!
 窓を開けると「よっ」といつも通りの仁志が現れた。
 いつもと変わらない仁志にホッとした。昨日仁志に引かれて呆れられたらどうしよう、て思ってたから。
 迎え入れた俺に仁志は、ん?と首を傾げた。
 「今日はその格好なんだな?」
 「あー…うん、たまにはね」
 「そんな気分もあるのか」
 へーっと不思議そうに納得した。…そんな気分な日なんてないよー!本当は新しく買った桃色のサマーニット着たいよっ!好きな人には可愛く見られたいからね!
 心の中で叫んでみた。
 「えっと、それより、昨日のことなんだけど」
 「あ、悪い。先に俺の用事があるんだけどいいか?」
 「え、うん。なに?」
 珍しく遮られた。
 何か仁志から報告なのかな…もしかして、もう昨日言ったこと、実行、した、とか…?
 あああ、やばい、これ絶交されるの?なんか仁志真剣な顔してるし!!
 うあ、仁志の行動力甘く見てた…!こう思ったらこうする、が座右の銘だもんね…!
 俺の乙女願望を認めてくれただけで満足してればよかったのに、なんで恋人になれるかも、なんて欲張ったの、おれ…。
 せっかく俺のことを受け入れてくれた人をここで失うって…。
 あ、でも自業自得かぁ…。
 悲しいけど、受け入れなきゃ…、
 「咲」
 「…はい」
 「…こっち、見てくれ」
 どんな目をしているのか見たくなくて目を瞑ってたけど、開けるよう言ってくる仁志に抗えなくて目を恐る恐る開ける。
 「……え」
 目を開けるとそこには、蔑んだ目ではなくて、上目遣いで俺を真剣な目で見る仁志。
 え、これ、なに、これ
 混乱する俺を置いて仁志は俺をまっすぐ見ている。
 よく見ると仁志片膝をついて手には何か持ってる、何を持っているか目を向けようとしたけど、その前に仁志のほうが行動早かった。

 「咲、好きだ。」
 そういって、仁志に一本のバラの花が差し出された。 
 は、え、ええええええええ。


 「お前からしたら、俺はせいぜい趣味を理解してくれる幼馴染なんだろうけど…俺は、お前が好きだ。
 …999本、は悪い。金銭的にきつくて一本で我慢してほしい、その代わり合計999本になるよう毎月一本ずつ渡すから、だから、
 俺と、付き合ってほしい」
 「~~~!」
 腰から力が抜けて床に座り込む。
 これって、きのうのって、俺に告白するために、聞いてたってこと。
 漸く理解して顔が真っ赤になった。
 俺の理想は可愛い服でばっちりメイクしてスーツまでとは言わないけど、相手はフォーマルな格好で、瑞々しい赤いバラを999本を貰うだったけど、
 今の俺の格好はメンズ服だし、化粧もしてない、あっちも急いでいたみたいでジャージ姿だし、バラも赤い色じゃなくて何故か白い色で、1本しかない。
 何もかも俺の考えていた理想のシチュエーションとは真逆だけど、でも、現実の好きな人からの告白に、理想のシチュエーションなんて意味はないようで。
 今俺の心臓はすごい勢いで動いてる、ああ、仁志に告白されることが、何よりも幸せ。うれしい。

 心配そうに声をかけてくる仁志の手に持つバラの花を受け取って
 「…こちらこそ、よろしくお願いいたします。」
 そう答えた。






ちなみに
薔薇999本の花言葉「何度生まれ変わってもあなたを愛する」
赤いバラの花言葉「あなたを愛してます」「愛情」

薔薇1本の花言葉1本 「一目ぼれ」「あなたしかいない」
白いバラの花言葉「純潔」「私はあなたにふさわしい」
あなたしかいないしお前には俺がふさわしいと言う意味になりますね。
仁志がその意味をしていたのかどうかは想像にお任せ。多分赤いバラより白いバラのほうが似合ってると思っていたのかもしれないですね。
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