もう思い出せないお前へ
世間話のついでに、高校のころ同級生だった彼が亡くなったのだと、地元を離れず就職をした友人からそう聞いた。
亡くなった彼の名前を聞くと確か高校3年生のとき同じクラスだったのは思い出せた。
でも彼の顔とかどんな話を彼としたのかとかは、ぼんやりとしか思い出せなかった。
仲が悪かったわけではないけれど、でも常につるんでいるほど仲が良かったわけではなかった。
それとなく稀にいっしょにいることもあった気もするが、互いに違うグループにいた。
顔をすぐに思い出せもしないぐらい、薄い付き合いだった。
けれど、亡くなったと聞かされたときには、今度帰ったときに線香をあげにいこうかなとは思った。
長い連休になって、俺は久々に地元に帰ってきた。
年末年始も実家には帰らなかったから本当に久しぶり。
家族との会話もそれなりに、俺は亡くなった彼の家に友人とともに行った。
移動中彼のことを細かく聞けば、数か月前彼は飛び出してきた子どもを避けようとして電柱に激突、そのまま息を引き取ったらしい。
そういえば彼は周りの空気をよく読み優しい人物だったなぁ、と少し彼のことを思い出した。
家に帰ったら高校の卒業アルバムを探し出しておこう、と思いながら友人と話ながら彼の家へと向かった。
彼の家へと向かうと穏やかで優しそうな、でも少し隈が出来て疲れている雰囲気の女性が俺たちを出迎えてくれた。
ありがとうね、と微笑む女性は彼の母親だった。きっと彼はお母さん似だったんだろうな。
自分の名を名乗りながらお邪魔します、と言った友人に続いて俺も自身の名前を女性につげた、すると何故か、ああ、あなたが。と少し動揺されたのが不思議だった。
どうしたのかと首を傾げるが、友人は俺を引っ張っられてしまったので疑問を口にすることは出来なかった。
通されたのは彼の仏壇、多くの花とお菓子が周りに沢山置かれていて、彼がよく慕われていたのか彼がどれだけ家族に愛されていたのかを物語っているよう。
その真ん中に置かれている彼の笑顔の写真。
大学を卒業した際に撮ったのかスーツ姿で、彼は優し気に笑っている。
写真の彼の顔は笑っていて、笑うとくしゃっとなっていた、ああ、確か彼はこんな感じだったな、と写真を見てやっと思い出せた。
線香をあげ、手を合わせる。
ごめんな。
こうして顔を見ても俺は、まだ思い出せていない部分のほうが多いんだ。
そう謝りながら、でも祈る気持ちは本当だから、と彼を思いながら手を合わせた。
俺と友人が手を合わせた後、女性は飲み物やお菓子を持ってきてくれた、せっかく息子の友人たちが来てくれたのだから、と優しく笑ってそう言ってくれたのでそれを断ることはなく遠慮なくいただくことにした。
とは言っても俺はそこまで彼と仲が深い訳ではなかったのですぐに話題がつき、俺たちは挨拶をそこそこに彼の家からお暇させてもらおうと思いそう告げると、
「これ、息子からあなた宛てに……中は見ていないので、なにが書かれているのかわかりません。
ですがきっとあなたへ向けて最後の手紙なので、いただいてください」
そう言いながら女性から手紙を渡された。
なにかの聞き間違えかとも思ったが、封筒には堂々と俺の名前が書かれている。
何故、おれに?
ただただ疑問だった。
言われるがままに手紙を受け取って、彼の家を出た。
友人は1人で彼に線香をあげに行った際女性から俺の名前を存じ上げないか聞かれ、知っていると言うと手紙があるのだ、と言われたらしい。
友人が何故俺の帰りを待たず、帰ってくるように急かすようにいきなり俺に彼が亡くなったことを報告したのかの理由が分かった。
亡くなった同級生が俺へ宛てた手紙を見つけたなんて、電話越しとはいえ言いにくいだろうし、出来れば俺自身が帰って彼へ線香をあげてほしいのもわかった。
でも、なぜだろう。
友人も、俺と彼はそんなに仲良かったけ?と首を傾げている。
俺だけでなく友人でさえもそこまで仲が良かったと記憶されていないのだ。
俺には彼以上に仲の良い人がいて、彼も俺以上に仲の良い人がいただろうに、なぜ1年同じクラスになっただけの、数回話しただけの俺に手紙があったんだろうか。
それに死因は事故だったと聞くから、遺書とも考えられなかった。
さすがに仲が良いと言えずとも嫌悪し合うほど悪い仲ではなかったし、亡くなった人が俺だけに宛てた手紙を友人と読むわけにもいかないので帰って1人になってから読むことにした。