最低条件は最高難易度


僕らは双子。
一卵性で顔も身長も体重は勿論のこと、好きな食べ物も嫌いな食べ物も学力や体力でさえも全て同じだった。
好きなタイプだって嫌いなタイプだって、挙句喧嘩の強ささえもおんなじ。
僕はマイペースとよく呼ばれて自己主張が控えめであり、彼はぐいぐい前へ行くタイプであり自己主張が激しい、と性格と好む服装は違うことぐらいだろうか。
制服を彼がすぐに堅苦しいと言って着崩すのに対して僕は前をしっかりしめてないと落ち着かない。
彼は外で遊んだり友人と騒ぐのが好きに対して僕は中で本を読んで1人でいる方が好きだ、それでも彼のほうが学力が低い訳でもないし、僕が運動神経が悪い訳でもないんだから不思議だ、と2人で首を傾げた。
大体おんなじだけど、決定的に違う部分があったので周りは見分けがついていた。だから僕らはそれぞれ個々の人間であると思っていた。
けれど、中学のときにふと、ほんの小さないたずら心が芽生えたことによってその考えは真っ向から否定されてしまった。

中学のとき、彼には彼女がいた。
僕はとくにそれを羨ましいとも思っていなかったし、そうなんだ、ぐらいにしか思わなかったので特に彼と仲が悪くことは無かったのだけど。
彼は言った。俺はお前になり切るからお前は俺になり切ってみてドッキリを仕掛けよう!と。
彼がいたずらするときは僕を必ず巻き込む。僕がしないと言うと彼はしない、曰く2人でやるのが楽しいと昔からの口癖。
基本彼の言うことに僕は否定したりしない、小さいころはこれからおやつだからやだとか、疲れたからいいや、とか言って断っていたときもあったけど小学校上級生以降断ることはない。
彼なりに僕が一人でいることを気にかけているのだと。
どうも彼は僕が一人でいたいと言うのを理解していないようだった。僕もわざわざうるさいところを好む彼がわからなかったからきっとお互い様なんだろうけど。
でも、彼の気遣いに気付いてしまえば蔑ろにするわけにもいかない訳で。性格や服装は理解出来ないけど僕は彼が大好きで、きっと彼も同じなんだろうから。だから断らなかった。今回の彼の『いたずら』を。
今回もいたずらついでに彼女のことを紹介するつもりだったんだと思う。
…もし、ここで、僕が断っておけばこんなことにならなかったのかな。

僕は彼の真似をして茶髪のウィッグを着けていつもは学ランの制服をきっちりしめているのを第三ボタンぐらいまで開けて中には黄色のTシャツ。メガネの代わりにコンタクト。
彼は僕の真似をして1日黒戻しのスプレーを髪にまいていつもは学ランの制服を着崩しているのを第一ボタンまできっちり閉め学校指定のYシャツ。目がいい彼は伊達メガネを付けた。
いつもの僕が目の前にいるのは変な感じ。僕が笑みを張り付けて、彼は口をきっちり閉めれば、まるで僕は彼で彼は僕みたいだった。
堅苦しいーうけるーと彼は言った、首元がすーすーする落ち着かないと僕は言った。
『いたずら』はうまくいきそうだな!とにかっと彼は笑う。僕はそうだね、と淡々と彼に言う。
つまらなそうに言う僕を気にした様子はなくて、彼は昼ネタばらしをしよう!と高らかに言った。
まずは朝の両親、気が付いた様子はない。
学校について彼ならばこういうことを言うか、とあらかじめ考えていたのでそれを言えばうまいこと周りは騙されている。
彼も彼でイメトレしていたようでまるで黙って一人で読書をしている、僕が1人でいるような錯覚を覚えた。僕もまるで彼になったかのような錯覚だった。
周りの目を盗んでチラッと彼を見れば、目が合う。バレてないな!と言っているような笑みを僕に向けた。
1時間目は僕も正直楽しかったりした。僕らは周りを騙して周りは僕らに騙されている、と思っていたから。
でも、2時間目3時間目になってくると徐々に不安になっていった。
予想以上に周りの人は僕は彼と思われていて、彼も僕と思われていた。
予定としては2時間目ぐらいには少しずつあいついつもと違くないか、と思われ始めてもいい頃合いだと思っていた。
彼を見れば、少し焦っているようにも見えた。きっと僕も同じ表情なのだろう。ある疑念が生まれつつも無視をした。僕は耐えられるけど、彼にはきっと耐えられないことだから。
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