ヒプノシスマイク♡プリキュア

◆麻天狼プリキュア
第3話『癒やしの力!キュアヘルフェン降臨』

「ぐっ…」
「今回の敵はなかなか手強いようだね…!」
地面に片膝を突き肩で息をする俺と一二三。
「スレイヴ!シャンパーニュ!」
もふもふ狼ことカロンは、先生の腕に収まりながら俺達の名前を叫んだ。
ハタラケーは俺達プリキュアの能力を学習していくのか、どんどん強さを増している気がする。
回避する体力も残っておらず、敵の攻撃は何発も身体に撃ち込まれた。
「…私にも、何か力になれる事は無いのでしょうか?」
カロンを抱き抱えながら、先生がぽつりと呟いた。
「一二三くんと独歩くんが攻撃されているのを黙って見ているだけなんて、私には出来ません。可能ならば二人を助けたい。敵に苦しむ人達を救いたい…!」
その瞬間、俺や一二三の時にも出現したキラキラが先生の前に現れた。
「この光は!人を救いたいという強い願いに反応してヒプノシスマイクが誕生したカロ!」
先生はキラキラに手を伸ばしそっと触れた。すると先生の手には、翼とイルリガートルの様な装飾がついたマイクと、同じく翼の装飾がついた十字架のネックレスが収まっていた。
「変身するカロ!」
先生は頷くと、十字架のネックレスを手に提げ、祈るように手を組み叫んだ。
「ヒプノシスチェンジ!」
その瞬間、純白の羽根が舞い先生の身体が光に包まれ、次々と衣装が変化していく。
黒いスタンドカラーシャツに白のジャケット、白いロングスカートにはスリットが入っており、足元はシンプルなパンプスだ。
「この力で安寧へいざなう─キュアヘルフェン」
ハーフアップに結われた長髪を風に靡かせ、キュアヘルフェンこと先生は倒れ伏す俺達の元へ駆け寄った。
「大丈夫ですか?独歩くん、一二三くん」
「先生……」
先生はハタラケーを見据えると、マイクを握り締めた。
「─聖なる力で制圧する。たとえ茨の道だとしても進む理由は明白。いま始まるメディカルチェック─」
すると突然周りが明るく輝き、なんとなく俺の身体は軽くなった気がした。
「…傷が治ってる?」
視界に入った自分の手足を見ると、傷は全て治癒し体力も回復している。
「まさか、先生の力…?」
隣でボロボロだったはずの一二三も、綺麗になった両手を何度もひっくり返しながら驚いていた。
そんな俺達二人の他に、我らがマスコット・カロンも興奮したように口を開く。
「これは伝説の力、“ラップアビリティー”!人によって能力が違うと聞いてるカロ!キュアヘルフェンは“仲間の回復”のようカロ!」
伝説の力とは流石は先生だ。やはり凡人とは一味も二味も違うらしい。
「発動条件はこれも人による…けど…そもそもはヒプノシスマイクを使い続けてスキルが上昇した者が出せるはずだったカロ。どうしてじゃくらいが…?」
カロンは首を傾げぶつぶつ言っていたが、何はともあれ回復した俺と一二三は力強く立ち上がり、マイクをぐっと握った。
「先生のお蔭でこのまま敵の好きにさせずに済みそうだね!」
一二三は爽やかに笑っていたが、俺は正直素直に喜べない。
言葉に詰まっていると、先生は俺の目を見てにこりと微笑んだ。
「二人の手助けをする力を得られて、私はとても光栄ですよ」
「独歩くんは責任を感じ過ぎだよ。背中を預け合える仲間が増えた、もっと喜んでも良いんじゃないかな?」
一二三の言葉に同意を示すように、先生もゆっくり頷く。
二人の優しい思いが伝わり、俺の視界はじんわり潤み始めた。
ずずっと洟をすすりながら目をこすり、誤魔化すように咳払いをして敵の前へ一歩踏み出す。
「─今日もスーツに身を包む。無休で無給のサービス残業。残酷なこの苦痛こそ不要不急だろ!静かに生きたい、余計な苦労せず普通に─」
「─宇宙を宿したように綺麗な、姫の瞳に僕は夢中さ。その瞳に僕はどう映る?さあ今宵二人でアバンチュール─」
「─この街に巣食う悪を切除する手術。いま救う、全ての人をこの手で。自身を赦す事が出来る日は果たしていつ来る…?─」
三者三様のリリックで敵を圧倒する。
当初の苦戦が嘘のように力がみなぎるのを感じた。
「チームワークはばっちりカロ!」
ハタラケーは呻き声を上げながら悶えている。
俺は再びマイクを強く握った。
「─眠らぬ街から見下ろす眺め、お前の運命(さだめ)は俺等にお任せ、かける情けお前には無ぇ!─」
「─三人揃った麻天狼に雑魚が勝てんの?怪我したくないなら降参した方が良いんじゃないの?あれあれ?もしかして泣いてんの?─」
「─『実にシンプルで陳腐な戦術』は禁句でしょうか?シンジュクディビジョンの心がリンクする。艱難辛苦も共に乗り越える─」
俺達の攻撃がハタラケーに見事命中すると、キラキラと輝きながら敵は消え失せた。
ホッとすると同時に身を包んでいた可愛らしい衣装も元に戻る。
「三人揃ってますます勢いがついたカロ!じゃくらい、ひふみ、どっぽ、改めて宜しくカロ!」
「ええ、こちらこそ宜しくお願いします」
「よろろ~!」
「二人共すみません…宜しくお願いします」
俺が二人に向けて深々と頭を下げると、一二三が笑いながら肩をばしばしと叩いて来た。
「だーから気にすんなって!な、もふっ子!」
そしてカロンに話を振ると、そいつを抱き上げ頭をわしゃわしゃと撫でまくる。
先生も微笑みながらその様子を眺めていた。

「……なんか、久々だな」
ゆっくりと瞼を開くと、リビングの天井が視界に広がる。
近くではガサガサと袋をあさる音が聞こえた。
視線を音の方へ向けると、一二三が買い物袋から商品を取り出し整理している所だった。
「お、折角の休日なのに寝てたのかよ~」
ふと視線が合った一二三に笑いながら言われる。
「折角の休日だからこそだよ。天気も良いし、絶好の昼寝日和だった」
「ほーん?俺っちには分かんないや」
手際良く冷蔵庫に食材を詰め込みながら、適当に返事をして来る。
「そんで?なんか夢は見たん?しばらく何も見てないって言ってたけど」
袋を綺麗に畳みながら、わくわくした顔で聞いて来た。俺は思わず溜息をついて答える。
「…先生もプリキュアになってしまった」
「へへっ、やったじゃんか~!これで仲間は揃った感じ?」
言いながらスマホを操作する一二三。もしかして…。

「これは早速せんせーに報告せねば~ってね!」
「おい一二三!仕事中だったら迷惑だろ!それにわざわざ伝えなくても」
「あっ、せんせー!?いま大丈夫スかぁ?聞いて驚かないでくださいよ~。なんとせんせーもついに!プリキュアの仲間入りを果たしたんスよ!長かったスよねぇ。これも独歩が全っ然夢を見なかった所為で、え、休憩終わりッスか?りょ~今度ゆっくりお話でもしましょうね~!はーい!」
「先生はなんて?」
「低音イケボで『ありがとうございます』って言ってた!」
「本当かよ……?」


─ END ─


【あとがき】
麻天狼プリキュア、三人揃いました!
先生のラップを考えるのは難しいです。
2024/06/23
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