ヒプノシスマイク♡プリキュア
◆麻天狼プリキュア
第2話『美しき友情!幼馴染みはキュアシャンパーニュ』
パチッ!ガバッ!
夢を見る事も無く暗闇を漂っていた意識が急に浮上し、俺は目を開くと勢い良く起き上がった。
「寝過ごした…!」
アラームは機能していた様だが、全く俺の耳には届いていない。
ドタドタと寝床から飛び出し、洗面所で顔を洗って歯磨きをする。着替えの為に自室へ向かう途中で、朝食を作っていた一二三に声を掛けられた。
「お、独歩ちんやぁっと起きたか~?せんせーもうすぐ着くって」
「すぐ仕度する」
いつもと同じスーツに身を包んでリビングに向かうと、食卓には出来立ての朝食が並んでいた。
椅子に腰を落ち着けた所でインターホンが鳴る。「はいはーい」と一二三はパタパタと小走りで玄関に向かった。
「いただきます」
俺は手を合わせて呟くと、こんがりと美味しそうな焼き色がついたホットサンドをひとくち囓った。
「ささ、せんせーどうぞ~。良かったら朝食食べてきますかぁ?」
もぐもぐとホットサンドを咀嚼していると、一二三が先生を招き入れて戻って来た。
急いでコーヒーを口に含み、ごくりと飲み下す。
「食べて来たので大丈夫ですよ。おはよう、独歩くん。忙しかったと聞いたけど、昨晩はよく眠れたかい?」
俺の向かい側の椅子に腰をおろして、先生は優しく微笑んだ。
「おはようございます、先生。…すみません、泥の様に寝ていたみたいで、実は起きたのもついさっきでして…」
自然と尻すぼみになって行く言葉。視線も思わず下を向いてしまう。
しかし、先生はふふっと笑って答えた。
「ぐっすり眠れた様で何よりですよ。時間はまだあるから、朝食もしっかり摂ろう。せっかく一二三くんが用意してくれたのだしね」
「先生…ありがとうございます」
ふぅ、と詰まった息を吐き出して、俺は再びホットサンドに囓りつく。
「ほい、せんせーどうぞ。休みだけど会社に呼び出されるかも知れないから~って近場に決めてて良かったッスよね~!寝坊助独歩~!」
コーヒーを淹れたカップを先生の前に置くと、一二三は俺の隣の椅子に座りつつそんなイヤミを挟んで来た。
俺達はこれから近場の釣り堀にて釣りを楽しむのだ。
珍しく三人の休日が合った今日。
なんとしてでも休日出勤を避けるべく、死ぬ気で仕事を片付けて来た昨日。
疲労でくたくただったがなんとかシャワーを浴び、だいぶ遅くなった夕飯を済ませ、ベッドにダイブし秒で寝落ち。そして現在に至る。
そんなこんなで朝食を終え、俺達は先生の運転で目的の釣り堀へ向かった。
「三人で釣りなんて久々ッスね~!」
移動中は一二三がずっと一人で喋っていた。
俺はというと、ショルダーバッグの中に居る生物に気が気ではなかった。
「こら、出て来るなよ!」
バッグから頭を出そうとするもふもふを小声で制す。
「息苦しいカロ、外の景色見たいカロ」
ひょんな事から行動を共にしている、狼の姿をした妖精・カロン。二人には話していない為、とりあえずショルダーバッグの中に隠れてもらっていたのだ。
「そんでこの前~、って独歩、なーにコソコソしてんだよ~?」
「はぁっ!?な、なんでもないよ、別に!」
「独歩くん、体調が優れないなら遠慮せずに言ってくださいね?」
「すみません、ほんと、大丈夫なんで、なんでもないんで…!」
俺はバッグをポンポンと軽く叩きながら、あははと空笑いをした。
「むっ!嫌な気配がするカロ!」
「だから大人しくしとけって…!」
もぞもぞ動いてついに顔を出して来たカロン。
それと同時にペラペラ喋っていた一二三が何かを叫び、ルームミラーに映った先生の顔は驚きに目を見開いていた。
前方を見ると、見覚えのある黒く大きな塊がのしのし歩いていた。
呻き声を上げながら車を踏み潰し、こちらに向かって移動している。
「せんせー、なんスかあれ!?」
「とにかく私達も逃げた方が良さそうですね」
先生はハンドルを切ろうとするも、行き交う車や逃げ惑う人々に為す術を無くしている。
「おいカロン、あれって」
「ハタラケーが出たカロ」
「敵には休日も関係無いのかよ…」
「休日は会社によって違うカロ」
「…確かに」
そんなやり取りをしつつ、俺ははたと気付いた。
「もしかして、変身?」
「その通りカロ!」
俺は意を決して車のドアを開けた。
「二人は早く安全な場所へ逃げてください!あいつは僕がなんとかします!」
車から勢い良く降り、敵の方へ走って行く。
俺はジャケットの内ポケットから変身アイテムを取り出しカードをセットした。
「ヒプノシスチェンジ!」
ピロンッと軽快な音が響くと、全身がまばゆい光に包まれ衣装が変わる。フリルの付いたワイシャツに緑のリボンタイ、黒いジャケットを羽織り、首元は赤いチョーカーで飾られている。下は黒の膝丈スカート(中にはショートパンツを履いている!)。靴は可愛らしいリボンがあしらわれたロングブーツだ。
周りの車に反射した自分を見ると、髪型はポニーテールになっていた。
「残業から参上!キュアスレイヴ!」
ばっちり名乗りを決めると、早速ヒプノシスマイクを起動。ケーブルを鞭の様に振るって街を破壊しているハタラケーに向かって俺は攻撃を始めた。
「─休日くらいは休ませてくれよ無情か?充実した日を過ごす為、終止符を打つ今このフロウで─」
見事奴に命中したらしく一瞬動きが止まったものの、すぐさま立て直しこちらに鞭を振るって来た。
「かわすカロ!」
「言われなくても…ッ!?」
ハタラケーの鞭が俺のマイクに当たり、バチンと払われてしまった。
あれが無いと攻撃が出来ない。取りに走ろうにも敵のケーブル鞭攻撃が行く手を阻む。
二本、三本と鞭が増え、俺は攻撃を避けきれずまともに喰らってしまった。
「キュアスレイヴ!」
カロンが俺の名前を叫ぶ。
「うぐ……っ」
しかし車や建物に全身を叩き付けられた俺は、返事すらまともに出来ず地面に突っ伏していた。
ハタラケーはじわじわと俺に近付き、大きな足で踏み潰そうと片足を上げる。
役立たずのまま俺は死ぬのか?そんな弱音が出た時、またしても俺の名前を叫ぶ声が聞こえた。
「独歩!?」
声の主は、なんと一二三だった。
「突然飛び出して行ったかと思えばこんな…!」
「ゴホッ…どうして、来たんだよ…逃げろって言っただろ…」
一二三はひどく不安そうな表情で俺を優しく抱き起こした。
「どうしてって、そんなの独歩が心配だったからに決まってんじゃんか!!」
その瞬間、見覚えがあるキラキラと輝く何かが俺達の前に現れた。
「友達を想う優しさに反応してヒプノシスマイクが誕生したカロ!」
「ヒプノシスマイク…?」
一二三が目の前のキラキラに手を触れると、ミラーボールを模したきらびやかなマイクと、黄色い薔薇を模した香水の瓶が彼の手に収まった。
「変身するカロ!」
「…よっく分かんないけど、そうするしか無さげって感じだね」
一二三は香水を自身に振り掛けて叫んだ。
「ヒプノシスチェンジ!」
辺りに薔薇の花弁が舞うと、一二三の全身はまばゆい光に包まれた。そして瞬く間に衣装が変わっていく。フリルの付いた黒シャツに、燕尾服の様に後ろが長いシルバーのジャケット。パニエでふわふわに盛られたスカートから伸びる脚はニーハイに包まれ、厚底のショートブーツを履いていた。
「123から456、7o'clock 君にロックオン!キュアシャンパーニュ!」
キュアシャンパーニュこと一二三は、長いツインテールを靡かせてハタラケーの前に踊り出た。
「そのマイクを通してラップをする事でハタラケーに攻撃出来るカロ!」
なるほど、と呟いて一二三はマイクを握り締めた。
「─ご指名ありがとうございます!奇跡の変身、美麗の戦士、友の為に戦地、赴きHypnosis change!─」
一二三がウインクを決めると、ハタラケーは呻き声を上げて動きを止めた。
「独歩くん、大丈夫かい!?」
「ありがとう、一二三。…悪いな、巻き込んだみたいで…。先生は大丈夫なのか?」
「僕が自分で決めた事さ。先生は逃げ遅れた人が居ないか見てくれているよ」
結局皆を巻き込んでしまった。やはり俺一人で格好良く戦えるはずがなかった。
自己嫌悪に陥っている俺に、一二三は笑顔で手を差し伸べる。
「協力して倒そう。いけるよね?独歩くん」
俺は一二三の手を掴み立ち上がる。
「勿論だ」
不思議と恐怖は感じなかった。
「キュアスレイヴ!マイクを受け取るカロ!」
カロンが俺のマイクを拾って投げ渡して来た。それを受け取ると、一二三の隣に立ち並ぶ。
「─幼稚な攻撃、またとない好機、いま上げる反撃の狼煙!─」
「─友と共に心合わせ、最高の眺め!刺激的なパーティー、魅せる僕等の魂、華麗に決めるvictory!─」
二人でパチンと指を鳴らす。
ハタラケーは叫びながらキラキラと輝く星屑となって消え失せた。
同時に俺達の衣装も元の形に戻っていた。
「心強い仲間が増えて安心カロ!どっぽはなんでも一人で抱え込んでしまうカロ。ひふみ、これから宜しくカロ!」
ぺこり、と頭を下げるもふもふ。そいつの頭をわしわしと撫でながら、一二三は照れ臭そうに笑った。
パチッ!ガバッ!
突然意識が夢から醒め、俺は勢い良くベッドの上で身体を起こした。
夢の中で最初にベッドから起きていたから油断していた。
それにしても、また変な夢を見ていたらしい。思わず溜息が漏れる。
幸い今日が休日である事を思い出し再び布団に潜り込もうと考えた所で、インターホンが響いた。
「あ、せんせー。さーせん、ちゃんどぽまだ夢の中なんスよ~。声掛けてるんスけど今日はなかなか起きなくて~」
しまった!今俺は完全に夢と同じ事をしているではないか。
俺はドタドタとベッドから這い出ると、部屋着のままリビングへ土下座をしに駆けて行った。
「まぁまぁ、おもてをあげい独歩ちん」
「そうですよ独歩くん、まだ時間のゆとりはありますから」
「すみません!本当にすみません!俺みたいなのがプリキュアになる夢を見た所為で!」
「キュアジゴロは活躍してたか~?」
「…キュアシャンパーニュのお蔭でなんとか乗り越えたぞ」
「独歩が見た夢にしてはネーミングセンス超シャレてんじゃーん!」
「もしかすると、次は私が変身するんでしょうか?」
─ END ─
【あとがき】
敵の出現に居合わせた主人公がなんやかんやで変身したり、主人公の友人がピンチに駆け付けて変身したりってプリキュアっぽくないですか?
麻天狼プリキュアにはプリキュアっぽいサブタイトルもつけています。
2024/06/23
第2話『美しき友情!幼馴染みはキュアシャンパーニュ』
パチッ!ガバッ!
夢を見る事も無く暗闇を漂っていた意識が急に浮上し、俺は目を開くと勢い良く起き上がった。
「寝過ごした…!」
アラームは機能していた様だが、全く俺の耳には届いていない。
ドタドタと寝床から飛び出し、洗面所で顔を洗って歯磨きをする。着替えの為に自室へ向かう途中で、朝食を作っていた一二三に声を掛けられた。
「お、独歩ちんやぁっと起きたか~?せんせーもうすぐ着くって」
「すぐ仕度する」
いつもと同じスーツに身を包んでリビングに向かうと、食卓には出来立ての朝食が並んでいた。
椅子に腰を落ち着けた所でインターホンが鳴る。「はいはーい」と一二三はパタパタと小走りで玄関に向かった。
「いただきます」
俺は手を合わせて呟くと、こんがりと美味しそうな焼き色がついたホットサンドをひとくち囓った。
「ささ、せんせーどうぞ~。良かったら朝食食べてきますかぁ?」
もぐもぐとホットサンドを咀嚼していると、一二三が先生を招き入れて戻って来た。
急いでコーヒーを口に含み、ごくりと飲み下す。
「食べて来たので大丈夫ですよ。おはよう、独歩くん。忙しかったと聞いたけど、昨晩はよく眠れたかい?」
俺の向かい側の椅子に腰をおろして、先生は優しく微笑んだ。
「おはようございます、先生。…すみません、泥の様に寝ていたみたいで、実は起きたのもついさっきでして…」
自然と尻すぼみになって行く言葉。視線も思わず下を向いてしまう。
しかし、先生はふふっと笑って答えた。
「ぐっすり眠れた様で何よりですよ。時間はまだあるから、朝食もしっかり摂ろう。せっかく一二三くんが用意してくれたのだしね」
「先生…ありがとうございます」
ふぅ、と詰まった息を吐き出して、俺は再びホットサンドに囓りつく。
「ほい、せんせーどうぞ。休みだけど会社に呼び出されるかも知れないから~って近場に決めてて良かったッスよね~!寝坊助独歩~!」
コーヒーを淹れたカップを先生の前に置くと、一二三は俺の隣の椅子に座りつつそんなイヤミを挟んで来た。
俺達はこれから近場の釣り堀にて釣りを楽しむのだ。
珍しく三人の休日が合った今日。
なんとしてでも休日出勤を避けるべく、死ぬ気で仕事を片付けて来た昨日。
疲労でくたくただったがなんとかシャワーを浴び、だいぶ遅くなった夕飯を済ませ、ベッドにダイブし秒で寝落ち。そして現在に至る。
そんなこんなで朝食を終え、俺達は先生の運転で目的の釣り堀へ向かった。
「三人で釣りなんて久々ッスね~!」
移動中は一二三がずっと一人で喋っていた。
俺はというと、ショルダーバッグの中に居る生物に気が気ではなかった。
「こら、出て来るなよ!」
バッグから頭を出そうとするもふもふを小声で制す。
「息苦しいカロ、外の景色見たいカロ」
ひょんな事から行動を共にしている、狼の姿をした妖精・カロン。二人には話していない為、とりあえずショルダーバッグの中に隠れてもらっていたのだ。
「そんでこの前~、って独歩、なーにコソコソしてんだよ~?」
「はぁっ!?な、なんでもないよ、別に!」
「独歩くん、体調が優れないなら遠慮せずに言ってくださいね?」
「すみません、ほんと、大丈夫なんで、なんでもないんで…!」
俺はバッグをポンポンと軽く叩きながら、あははと空笑いをした。
「むっ!嫌な気配がするカロ!」
「だから大人しくしとけって…!」
もぞもぞ動いてついに顔を出して来たカロン。
それと同時にペラペラ喋っていた一二三が何かを叫び、ルームミラーに映った先生の顔は驚きに目を見開いていた。
前方を見ると、見覚えのある黒く大きな塊がのしのし歩いていた。
呻き声を上げながら車を踏み潰し、こちらに向かって移動している。
「せんせー、なんスかあれ!?」
「とにかく私達も逃げた方が良さそうですね」
先生はハンドルを切ろうとするも、行き交う車や逃げ惑う人々に為す術を無くしている。
「おいカロン、あれって」
「ハタラケーが出たカロ」
「敵には休日も関係無いのかよ…」
「休日は会社によって違うカロ」
「…確かに」
そんなやり取りをしつつ、俺ははたと気付いた。
「もしかして、変身?」
「その通りカロ!」
俺は意を決して車のドアを開けた。
「二人は早く安全な場所へ逃げてください!あいつは僕がなんとかします!」
車から勢い良く降り、敵の方へ走って行く。
俺はジャケットの内ポケットから変身アイテムを取り出しカードをセットした。
「ヒプノシスチェンジ!」
ピロンッと軽快な音が響くと、全身がまばゆい光に包まれ衣装が変わる。フリルの付いたワイシャツに緑のリボンタイ、黒いジャケットを羽織り、首元は赤いチョーカーで飾られている。下は黒の膝丈スカート(中にはショートパンツを履いている!)。靴は可愛らしいリボンがあしらわれたロングブーツだ。
周りの車に反射した自分を見ると、髪型はポニーテールになっていた。
「残業から参上!キュアスレイヴ!」
ばっちり名乗りを決めると、早速ヒプノシスマイクを起動。ケーブルを鞭の様に振るって街を破壊しているハタラケーに向かって俺は攻撃を始めた。
「─休日くらいは休ませてくれよ無情か?充実した日を過ごす為、終止符を打つ今このフロウで─」
見事奴に命中したらしく一瞬動きが止まったものの、すぐさま立て直しこちらに鞭を振るって来た。
「かわすカロ!」
「言われなくても…ッ!?」
ハタラケーの鞭が俺のマイクに当たり、バチンと払われてしまった。
あれが無いと攻撃が出来ない。取りに走ろうにも敵のケーブル鞭攻撃が行く手を阻む。
二本、三本と鞭が増え、俺は攻撃を避けきれずまともに喰らってしまった。
「キュアスレイヴ!」
カロンが俺の名前を叫ぶ。
「うぐ……っ」
しかし車や建物に全身を叩き付けられた俺は、返事すらまともに出来ず地面に突っ伏していた。
ハタラケーはじわじわと俺に近付き、大きな足で踏み潰そうと片足を上げる。
役立たずのまま俺は死ぬのか?そんな弱音が出た時、またしても俺の名前を叫ぶ声が聞こえた。
「独歩!?」
声の主は、なんと一二三だった。
「突然飛び出して行ったかと思えばこんな…!」
「ゴホッ…どうして、来たんだよ…逃げろって言っただろ…」
一二三はひどく不安そうな表情で俺を優しく抱き起こした。
「どうしてって、そんなの独歩が心配だったからに決まってんじゃんか!!」
その瞬間、見覚えがあるキラキラと輝く何かが俺達の前に現れた。
「友達を想う優しさに反応してヒプノシスマイクが誕生したカロ!」
「ヒプノシスマイク…?」
一二三が目の前のキラキラに手を触れると、ミラーボールを模したきらびやかなマイクと、黄色い薔薇を模した香水の瓶が彼の手に収まった。
「変身するカロ!」
「…よっく分かんないけど、そうするしか無さげって感じだね」
一二三は香水を自身に振り掛けて叫んだ。
「ヒプノシスチェンジ!」
辺りに薔薇の花弁が舞うと、一二三の全身はまばゆい光に包まれた。そして瞬く間に衣装が変わっていく。フリルの付いた黒シャツに、燕尾服の様に後ろが長いシルバーのジャケット。パニエでふわふわに盛られたスカートから伸びる脚はニーハイに包まれ、厚底のショートブーツを履いていた。
「123から456、7o'clock 君にロックオン!キュアシャンパーニュ!」
キュアシャンパーニュこと一二三は、長いツインテールを靡かせてハタラケーの前に踊り出た。
「そのマイクを通してラップをする事でハタラケーに攻撃出来るカロ!」
なるほど、と呟いて一二三はマイクを握り締めた。
「─ご指名ありがとうございます!奇跡の変身、美麗の戦士、友の為に戦地、赴きHypnosis change!─」
一二三がウインクを決めると、ハタラケーは呻き声を上げて動きを止めた。
「独歩くん、大丈夫かい!?」
「ありがとう、一二三。…悪いな、巻き込んだみたいで…。先生は大丈夫なのか?」
「僕が自分で決めた事さ。先生は逃げ遅れた人が居ないか見てくれているよ」
結局皆を巻き込んでしまった。やはり俺一人で格好良く戦えるはずがなかった。
自己嫌悪に陥っている俺に、一二三は笑顔で手を差し伸べる。
「協力して倒そう。いけるよね?独歩くん」
俺は一二三の手を掴み立ち上がる。
「勿論だ」
不思議と恐怖は感じなかった。
「キュアスレイヴ!マイクを受け取るカロ!」
カロンが俺のマイクを拾って投げ渡して来た。それを受け取ると、一二三の隣に立ち並ぶ。
「─幼稚な攻撃、またとない好機、いま上げる反撃の狼煙!─」
「─友と共に心合わせ、最高の眺め!刺激的なパーティー、魅せる僕等の魂、華麗に決めるvictory!─」
二人でパチンと指を鳴らす。
ハタラケーは叫びながらキラキラと輝く星屑となって消え失せた。
同時に俺達の衣装も元の形に戻っていた。
「心強い仲間が増えて安心カロ!どっぽはなんでも一人で抱え込んでしまうカロ。ひふみ、これから宜しくカロ!」
ぺこり、と頭を下げるもふもふ。そいつの頭をわしわしと撫でながら、一二三は照れ臭そうに笑った。
パチッ!ガバッ!
突然意識が夢から醒め、俺は勢い良くベッドの上で身体を起こした。
夢の中で最初にベッドから起きていたから油断していた。
それにしても、また変な夢を見ていたらしい。思わず溜息が漏れる。
幸い今日が休日である事を思い出し再び布団に潜り込もうと考えた所で、インターホンが響いた。
「あ、せんせー。さーせん、ちゃんどぽまだ夢の中なんスよ~。声掛けてるんスけど今日はなかなか起きなくて~」
しまった!今俺は完全に夢と同じ事をしているではないか。
俺はドタドタとベッドから這い出ると、部屋着のままリビングへ土下座をしに駆けて行った。
「まぁまぁ、おもてをあげい独歩ちん」
「そうですよ独歩くん、まだ時間のゆとりはありますから」
「すみません!本当にすみません!俺みたいなのがプリキュアになる夢を見た所為で!」
「キュアジゴロは活躍してたか~?」
「…キュアシャンパーニュのお蔭でなんとか乗り越えたぞ」
「独歩が見た夢にしてはネーミングセンス超シャレてんじゃーん!」
「もしかすると、次は私が変身するんでしょうか?」
─ END ─
【あとがき】
敵の出現に居合わせた主人公がなんやかんやで変身したり、主人公の友人がピンチに駆け付けて変身したりってプリキュアっぽくないですか?
麻天狼プリキュアにはプリキュアっぽいサブタイトルもつけています。
2024/06/23