ヒプノシスマイク♡プリキュア
◆しょっぴけ!MTCプリキュア
理鶯から突然、集合の連絡が来た。
こうした連絡は時折来るのだが、八割方は「珍しい食材が手に入ったので馳走しよう」という内容なので正直スルーしたい。
しかし稀に本当に緊急の事もあるので、迂闊に無視する事も出来ない。
用件も一緒に言ってくれたら助かるのだが…。そんな事を思いながら森へ向かう。
案の定、道中では左馬刻に出会った。
彼も嫌な予感はしているのだろう。渋い顔をしながら煙草を吹かしている。
そんな左馬刻と共に理鶯が住む野営地に着くと、早速焚火の音が聞こえて来た。
見ると火にかけられた鍋も確認出来る。やはり今回も八割の方だったか。
思わず立ち止まった俺の腕をがしっと掴み、左馬刻はずんずん歩いて行った。
そしてこちらに背を向ける形で焚火の元に立っている理鶯に、左馬刻が声を掛ける。
「よぉ、理鶯。来てやったぜ」
「む、左馬刻に銃兎。ようやく来たか」
振り返った理鶯の手には、何やら緑色の物体が。
「……なんですか、それは」
恐る恐る覗き見ると、片手に収まる程小さな淡い緑色の鳥が、くったりと横になっていた。
「小官も初めて目にする生物だ。二人は何か知らないだろうか?」
「あァ?俺様も初めて見るな。なんだこいつ?」
色や大きさから推測するにウグイスやメジロの類だろうが、そもそも本当に鳥だろうか?
地球上の生物とは思えない独特のフォルムは、何かのマスコットキャラを彷彿とさせる。
「この鳥はどこで捕獲したんです?」
それに詳細不明の小鳥を捕獲してどうするつもりだったのか。
まさか食用?もしくは獲物を捕獲する際の餌だとか言いそうだ。
しかし、理鶯は予想外の一言を放つ。
「こいつは何やら助けを求めて小官のもとへ飛んで来たのだ。怪我の治療も兼ねて保護した所だ」
見ると確かに、小さな翼には包帯が巻かれている。
「国が突然襲撃され逃げて来たそうだ。その際仲間とはぐれてしまったようでな。良ければ二人も捜索を手伝って欲しい」
「理鶯、お前鳥と喋れンのかよ」
「この鳥は人の言葉を話せるようなので会話は可能だ」
理鶯はおかしな奴だが、ここまで電波な不思議属性だっただろうか。
「理鶯が何を言っているのか正直よく分かりませんが、その仲間とやらはどんな方なんですか」
「ユニコーンとウサギだそうだ」
ウサギはともかく、ユニコーン?想像上の生き物をどう探せというのか。
「ユニコーンってこれか?」
その発言に隣の左馬刻に目をやると、なんと肩に小さなユニコーンが乗っているではないか。俺は思わず二度見してしまった。
「オレはシモツキ。仲間を助けてくれてありがとうシモ!」
「喋った!?」
左馬刻の肩の上で、ユニコーンのシモツキは律儀に頭を下げる。
驚く俺に対して、左馬刻はゆっくりと煙草の煙を吐き出して言った。
「残りはウサギだな。おいウサ公。お仲間の気配とかしねぇのか?」
「なるほど。小官が小鳥で左馬刻はユニコーン、残りのウサギは銃兎の相棒という事なのだな」
どうやらウサギは俺が探す事になっているらしい。
「俺様の相棒がユニコーンたぁ随分メルヘンだな」
「知らないのか?ユニコーンは七つの大罪である『憤怒』のシンボルだぞ。お前にぴったりじゃないか」
「あ゛ァ!?てめェ、ふざけた事言ってっとぶっ殺すぞ」
無自覚なのがタチの悪い憤怒の左馬刻様を無視し、俺はウサギの捜索に取り掛かる。
「そもそもこの辺りに居るのか?」
草を掻き分け、目をこらす。
すると目の前を風呂敷を背負ったピンク色のウサギが駆けて行った。
「見付けたぞ!」
俺が叫ぶと、ウサギはびくりと肩を震わせ立ち止まった。
「すみません、驚かせたかった訳ではないのでそんなに怯えないでください。お仲間が貴方の事を探しているようでしたので」
「シモツキとミナヅキが!?あの二人、無事だったサツ!?」
ぱぁっと明るい表情を見せるウサギ。そいつをそっと両手で抱き上げ、左馬刻と理鶯の元へ戻った。
ユニコーンと、目を覚ましたらしい小鳥がウサギを目にして安堵の表情を浮かべている。
「サツキ!」
「会えて良かったサツ!」
ユニコーンのシモツキ、ウサギのサツキ、小鳥はミナヅキと言うらしい。
「ボク達を助けてくれて本当にありがとうミナ!」
「そんな君達に、折り行って頼みがあるサツ!」
「プリキュアになって、この街に忍び寄る敵を倒して欲しいシモ!」
「この俺様がプリキュアァ゛!?」
隣でこいつに叫ばれると耳が痛い。
しかし叫びたくなる気持ちも大いに分かる。
「プリキュアか。イケブクロディビジョンの山田一郎が熱く語っていた事があるな。年端も行かぬ少女達だが、立派なソルジャーだと小官は解釈している」
理鶯は理鶯で、表情ひとつ変えずに居る。
「小官達で良ければプリキュアになろう」
「理鶯!何即答してるんです!」
「困った時はお互い様だろう。もとよりヨコハマの治安を守るのは小官らの役目だ。今までと何も変わりはない」
理鶯はそういう奴だった。しかし俺達を巻き込む事はないだろう。
「はぁ…私は御免ですよ。そんな暇は無いし、そもそも警察の副業は御法度なんだ」
「はっ、不良警官が今更何言ってやがる」
「そういうお前は引き受けるって事か。良かったな、妹さんに自慢出来るぞ」
「うるせェ!てめェもプリキュアになんだよ銃兎!」
未だに何がきっかけでキレ出すのか読めない馬鹿を適当にいなし、渋々この件を引き受けた。
「これを使って変身するサツ」
サツキが、背負っていた風呂敷からパステルカラーのアイテムを取り出して俺達に手渡す。
「随分と物騒なビジュアルですね」
ファンシーなデザインをしているとはいえ、見た目は明らかに拳銃だ。
「常に携行して、くれぐれも失くさないように気を付けるミナ!」
厄介事に巻き込まれ溜息をついていると、三匹の妖精達が何やらざわつき始めた。
「この気配は!ハスラーが現れたシモ!」
「皆急いで向かうミナ!」
「こっちサツ!」
ふわふわと飛行して道案内を行う三匹。その後を俺達三人が追い掛けて行く。
街中に出ると、逃げ惑う人々の中心に見た事の無い大きな化物が佇んでいた。
妖精達がハスラーと呼んだ黒い化物は、耳障りな声で叫ぶ。
「変身するシモ!」
先程渡されたファンシーな拳銃を取り出し、空へ向けてトリガーを引く。
『ヒプノシスチェンジ!』
銃口から発射されたキラキラしたものに包まれると、見る見るうちに衣装が変わって行った。
左馬刻は太腿が露わになるほどスリットが深く入った和服風の衣装に身を包んでいる。白地に青い髑髏が映える和服に、特徴的な銀髪は綺麗にまとめられていた。切れ長の瞳に真っ赤な紅を引いた唇も相俟って、その姿はさながら極道の女である。
理鶯は青い迷彩柄を基調としたセーラー服姿だ。やたら短いスカートから伸びる足元は、可愛らしい格好とは裏腹にいかついミリタリーブーツ。MTCのマークが入ったセーラー帽をかぶる頭は、ロングヘアをサイドテールにしている。
この流れでは当然俺の姿も変わっているようだが、一見すると普段のスーツ姿と変わらない。確実に違う箇所は、膝上丈のタイトスカートを身に纏っている事だ。足元は赤いハイヒールで正直バランスが取りにくい。髪型は胸元まであるロングヘアになっていた。
そして変身が終わると勝手に口が喋り出す。
「始まる討伐、てめェのタマ奪う!俺様がキュアシュヴァル!」
「野蛮な奴等の茶番を一掃!私がキュアラパン!」
「御馳走作りの片手間、貴殿を追い込む!小官がキュアロシニョル!」
『しょっぴけ!MTCプリキュア!』
「俺様が直々にぶっ殺してやんよォ!」
それぞれの名乗りを終え、左馬刻が楽しそうに叫ぶ。
「ヒプノシスマイクを通してラップをする事で、ハスラーに攻撃出来るシモ!」
「もう一度トリガーを引いてマイクを召喚するサツ!」
太腿に装着されたホルスターからパステルカラーの拳銃を取り出し、再び空へ向かって放つ。
するとマイクが召喚され、目の前にふわふわと降りて来たそれを掴む。
その瞬間、左馬刻が掴んだマイクは髑髏、理鶯はトランシーバー、俺は警察無線と、それぞれ個性的なマイクに変わった。
俺達はマイクを握る手に力を込め、敵を見上げる。
「─タマ張る覚悟がねぇ馬鹿は帰んな!ヤワな覚悟で居ねぇんだよこっちは!たかがラップと侮んなよ雑魚が!邪魔だ左馬刻様のお通りだ!─」
「─公務執行妨害で逮捕だ。妥当な対処だ国家権力には逆らうな。馬鹿でも分かるように言おうか?冗談じゃない、警察相手にゃSit downだ─」
「─海より深い罪、MTCに会った貴殿はもう詰み。小官の操艦で航海go die、後悔してもtoo late─」
「最高ミナ!」
ヒプノシスマイクを通して放たれたラップは、見事ハスラーに命中した。
俺達の攻撃を受けた敵は呻き声を上げて動きを止めるが、それも束の間、長い両手を振るい周囲の建物を薙ぎ倒して行く。
「油断せず行くサツ!」
「─命賭けてシノギ削る、ヒーロー気取りは烏滸がましいが、俺様のシマ荒らすたぁ貴様は何様なんだ、あ゛ァ!?─」
「─こちらの忠告さっさと聞かんと、ワッパ掛けて逮捕だけじゃ利かんぞ?銃口向けられても平気なサイコな聞かん坊、礼儀がなってない奴は徹底的にしばくぞ─」
「─未知の刺客蔓延、日々欠かさぬ鍛錬、聞こえぬ懺悔、士気高め戦う全開のアクセル─」
徐々に攻撃力が弱まって来たハスラーに向かい、俺達三人も改めて気合を入れて臨む。
「─気負う必要ない仲間。理鶯、銃兎と共に地獄へのルートへご案内。俺様左馬刻様が葬ってやんよ!─」
「─破壊の限りを尽くすカスは直ちに、ガス抜き代わりにサクサクしょっぴく。私と対峙なんて可哀相に。相手が悪かったな、我々の手に掛かれば悪逆滅びる─」
「─相手する小官はnavy 今日が貴殿の命日。ベストを尽くすMTC rest in peace 壊滅する 攻落だ、easy─」
「やったシモ!」
大声で叫んだハスラーは、その後キラキラと星屑のように輝いて散った。
それと同時に俺達も元の姿に戻っている。
未知の出来事の連続に溜息をついていると、三匹の妖精がふわふわと俺達の元へ飛んで来た。
「期待以上の活躍だったシモ!」
「これからもヨコハマを守る為に頑張って欲しいサツ!」
「さまとき、じゅーと、りおー、改めてよろしくミナ!」
握手を求められたのでそれに応える。
左馬刻は、本日何本目になるか分からない煙草を咥え火を点けた。
「帰るか。流石に腹減ったな。……あ」
「馬鹿!左馬刻…!」
思わず理鶯の方を見ると、いつもと変わらない無表情なその顔で予想通りの言葉を放つ。
「そろそろ煮込み上がった頃だろう。良ければ二人も食べて行くと良い」
『…い、頂きます…』
引き攣った笑顔で言う俺達は、お互いの足を踏み合っていた。
そんな事など露知らず、理鶯は妖精達を肩に乗せて嬉しそうに歩き出す。
ヨコハマの街を守った後は、理鶯の笑顔を守らねば。
そんな謎の一体感を左馬刻と感じながら、鼻唄をうたう理鶯の後を追うのだった。
「──はっ!」
俺が目を覚ますと、目の前には左馬刻と理鶯が居た。
「おうおう、ようやくお目覚めかウサ公」
「何やらうなされていたようだが大丈夫か」
理鶯に呼び出されて彼の料理が出来上がるのを待っている間、連日の激務からか居眠りをしてしまったらしい。
「うなされていた…?」
変な夢を見たような気もするが、一度眠りから覚めてしまうとすっかり記憶から消えていた。
「ストレスだろ。警察様は忙しいみてぇだからなぁ」
「どこかの馬鹿が毎回毎回、警察の厄介になった時に暴れるから大変なんだ」
左馬刻の顔を見ながら、わざとらしく溜息をついてやる。
「てめェの手なんざ借りなくたって俺様だけで話は付けれんだよ!」
「二人共落ち着け。さぁ、出来たぞ」
どん、と目の前に置かれた理鶯お手製の料理。恐らく見た事も聞いた事も無い食材が使用されているのだろう。
「プリプリした歯応えで美味いぜ理鶯……」
意を決して謎の料理を口にした左馬刻は、青ざめた顔で感想を述べている。
その言葉を耳にした瞬間、俺は先程見た夢を思い出したのだった。
「プリキュアだ!!」
「合歓が好きだったな………じゃねぇや。急にどうした銃兎」
「プリキュアか。イケブクロディビジョンの山田一郎が熱く語っていた事があるな。年端も行かぬ少女達だが、立派なソルジャーだと小官は解釈している」
「縁起でもないので、夢と全く同じ事を言い出すのはやめて頂けませんか…」
─ END ─
【あとがき】
プリキュア側が「ぶっ殺す」なんて悪役みたいな台詞、ヨコハマだから成せるわざ(?)きっと深夜帯の放送ですね。
2024/06/23
理鶯から突然、集合の連絡が来た。
こうした連絡は時折来るのだが、八割方は「珍しい食材が手に入ったので馳走しよう」という内容なので正直スルーしたい。
しかし稀に本当に緊急の事もあるので、迂闊に無視する事も出来ない。
用件も一緒に言ってくれたら助かるのだが…。そんな事を思いながら森へ向かう。
案の定、道中では左馬刻に出会った。
彼も嫌な予感はしているのだろう。渋い顔をしながら煙草を吹かしている。
そんな左馬刻と共に理鶯が住む野営地に着くと、早速焚火の音が聞こえて来た。
見ると火にかけられた鍋も確認出来る。やはり今回も八割の方だったか。
思わず立ち止まった俺の腕をがしっと掴み、左馬刻はずんずん歩いて行った。
そしてこちらに背を向ける形で焚火の元に立っている理鶯に、左馬刻が声を掛ける。
「よぉ、理鶯。来てやったぜ」
「む、左馬刻に銃兎。ようやく来たか」
振り返った理鶯の手には、何やら緑色の物体が。
「……なんですか、それは」
恐る恐る覗き見ると、片手に収まる程小さな淡い緑色の鳥が、くったりと横になっていた。
「小官も初めて目にする生物だ。二人は何か知らないだろうか?」
「あァ?俺様も初めて見るな。なんだこいつ?」
色や大きさから推測するにウグイスやメジロの類だろうが、そもそも本当に鳥だろうか?
地球上の生物とは思えない独特のフォルムは、何かのマスコットキャラを彷彿とさせる。
「この鳥はどこで捕獲したんです?」
それに詳細不明の小鳥を捕獲してどうするつもりだったのか。
まさか食用?もしくは獲物を捕獲する際の餌だとか言いそうだ。
しかし、理鶯は予想外の一言を放つ。
「こいつは何やら助けを求めて小官のもとへ飛んで来たのだ。怪我の治療も兼ねて保護した所だ」
見ると確かに、小さな翼には包帯が巻かれている。
「国が突然襲撃され逃げて来たそうだ。その際仲間とはぐれてしまったようでな。良ければ二人も捜索を手伝って欲しい」
「理鶯、お前鳥と喋れンのかよ」
「この鳥は人の言葉を話せるようなので会話は可能だ」
理鶯はおかしな奴だが、ここまで電波な不思議属性だっただろうか。
「理鶯が何を言っているのか正直よく分かりませんが、その仲間とやらはどんな方なんですか」
「ユニコーンとウサギだそうだ」
ウサギはともかく、ユニコーン?想像上の生き物をどう探せというのか。
「ユニコーンってこれか?」
その発言に隣の左馬刻に目をやると、なんと肩に小さなユニコーンが乗っているではないか。俺は思わず二度見してしまった。
「オレはシモツキ。仲間を助けてくれてありがとうシモ!」
「喋った!?」
左馬刻の肩の上で、ユニコーンのシモツキは律儀に頭を下げる。
驚く俺に対して、左馬刻はゆっくりと煙草の煙を吐き出して言った。
「残りはウサギだな。おいウサ公。お仲間の気配とかしねぇのか?」
「なるほど。小官が小鳥で左馬刻はユニコーン、残りのウサギは銃兎の相棒という事なのだな」
どうやらウサギは俺が探す事になっているらしい。
「俺様の相棒がユニコーンたぁ随分メルヘンだな」
「知らないのか?ユニコーンは七つの大罪である『憤怒』のシンボルだぞ。お前にぴったりじゃないか」
「あ゛ァ!?てめェ、ふざけた事言ってっとぶっ殺すぞ」
無自覚なのがタチの悪い憤怒の左馬刻様を無視し、俺はウサギの捜索に取り掛かる。
「そもそもこの辺りに居るのか?」
草を掻き分け、目をこらす。
すると目の前を風呂敷を背負ったピンク色のウサギが駆けて行った。
「見付けたぞ!」
俺が叫ぶと、ウサギはびくりと肩を震わせ立ち止まった。
「すみません、驚かせたかった訳ではないのでそんなに怯えないでください。お仲間が貴方の事を探しているようでしたので」
「シモツキとミナヅキが!?あの二人、無事だったサツ!?」
ぱぁっと明るい表情を見せるウサギ。そいつをそっと両手で抱き上げ、左馬刻と理鶯の元へ戻った。
ユニコーンと、目を覚ましたらしい小鳥がウサギを目にして安堵の表情を浮かべている。
「サツキ!」
「会えて良かったサツ!」
ユニコーンのシモツキ、ウサギのサツキ、小鳥はミナヅキと言うらしい。
「ボク達を助けてくれて本当にありがとうミナ!」
「そんな君達に、折り行って頼みがあるサツ!」
「プリキュアになって、この街に忍び寄る敵を倒して欲しいシモ!」
「この俺様がプリキュアァ゛!?」
隣でこいつに叫ばれると耳が痛い。
しかし叫びたくなる気持ちも大いに分かる。
「プリキュアか。イケブクロディビジョンの山田一郎が熱く語っていた事があるな。年端も行かぬ少女達だが、立派なソルジャーだと小官は解釈している」
理鶯は理鶯で、表情ひとつ変えずに居る。
「小官達で良ければプリキュアになろう」
「理鶯!何即答してるんです!」
「困った時はお互い様だろう。もとよりヨコハマの治安を守るのは小官らの役目だ。今までと何も変わりはない」
理鶯はそういう奴だった。しかし俺達を巻き込む事はないだろう。
「はぁ…私は御免ですよ。そんな暇は無いし、そもそも警察の副業は御法度なんだ」
「はっ、不良警官が今更何言ってやがる」
「そういうお前は引き受けるって事か。良かったな、妹さんに自慢出来るぞ」
「うるせェ!てめェもプリキュアになんだよ銃兎!」
未だに何がきっかけでキレ出すのか読めない馬鹿を適当にいなし、渋々この件を引き受けた。
「これを使って変身するサツ」
サツキが、背負っていた風呂敷からパステルカラーのアイテムを取り出して俺達に手渡す。
「随分と物騒なビジュアルですね」
ファンシーなデザインをしているとはいえ、見た目は明らかに拳銃だ。
「常に携行して、くれぐれも失くさないように気を付けるミナ!」
厄介事に巻き込まれ溜息をついていると、三匹の妖精達が何やらざわつき始めた。
「この気配は!ハスラーが現れたシモ!」
「皆急いで向かうミナ!」
「こっちサツ!」
ふわふわと飛行して道案内を行う三匹。その後を俺達三人が追い掛けて行く。
街中に出ると、逃げ惑う人々の中心に見た事の無い大きな化物が佇んでいた。
妖精達がハスラーと呼んだ黒い化物は、耳障りな声で叫ぶ。
「変身するシモ!」
先程渡されたファンシーな拳銃を取り出し、空へ向けてトリガーを引く。
『ヒプノシスチェンジ!』
銃口から発射されたキラキラしたものに包まれると、見る見るうちに衣装が変わって行った。
左馬刻は太腿が露わになるほどスリットが深く入った和服風の衣装に身を包んでいる。白地に青い髑髏が映える和服に、特徴的な銀髪は綺麗にまとめられていた。切れ長の瞳に真っ赤な紅を引いた唇も相俟って、その姿はさながら極道の女である。
理鶯は青い迷彩柄を基調としたセーラー服姿だ。やたら短いスカートから伸びる足元は、可愛らしい格好とは裏腹にいかついミリタリーブーツ。MTCのマークが入ったセーラー帽をかぶる頭は、ロングヘアをサイドテールにしている。
この流れでは当然俺の姿も変わっているようだが、一見すると普段のスーツ姿と変わらない。確実に違う箇所は、膝上丈のタイトスカートを身に纏っている事だ。足元は赤いハイヒールで正直バランスが取りにくい。髪型は胸元まであるロングヘアになっていた。
そして変身が終わると勝手に口が喋り出す。
「始まる討伐、てめェのタマ奪う!俺様がキュアシュヴァル!」
「野蛮な奴等の茶番を一掃!私がキュアラパン!」
「御馳走作りの片手間、貴殿を追い込む!小官がキュアロシニョル!」
『しょっぴけ!MTCプリキュア!』
「俺様が直々にぶっ殺してやんよォ!」
それぞれの名乗りを終え、左馬刻が楽しそうに叫ぶ。
「ヒプノシスマイクを通してラップをする事で、ハスラーに攻撃出来るシモ!」
「もう一度トリガーを引いてマイクを召喚するサツ!」
太腿に装着されたホルスターからパステルカラーの拳銃を取り出し、再び空へ向かって放つ。
するとマイクが召喚され、目の前にふわふわと降りて来たそれを掴む。
その瞬間、左馬刻が掴んだマイクは髑髏、理鶯はトランシーバー、俺は警察無線と、それぞれ個性的なマイクに変わった。
俺達はマイクを握る手に力を込め、敵を見上げる。
「─タマ張る覚悟がねぇ馬鹿は帰んな!ヤワな覚悟で居ねぇんだよこっちは!たかがラップと侮んなよ雑魚が!邪魔だ左馬刻様のお通りだ!─」
「─公務執行妨害で逮捕だ。妥当な対処だ国家権力には逆らうな。馬鹿でも分かるように言おうか?冗談じゃない、警察相手にゃSit downだ─」
「─海より深い罪、MTCに会った貴殿はもう詰み。小官の操艦で航海go die、後悔してもtoo late─」
「最高ミナ!」
ヒプノシスマイクを通して放たれたラップは、見事ハスラーに命中した。
俺達の攻撃を受けた敵は呻き声を上げて動きを止めるが、それも束の間、長い両手を振るい周囲の建物を薙ぎ倒して行く。
「油断せず行くサツ!」
「─命賭けてシノギ削る、ヒーロー気取りは烏滸がましいが、俺様のシマ荒らすたぁ貴様は何様なんだ、あ゛ァ!?─」
「─こちらの忠告さっさと聞かんと、ワッパ掛けて逮捕だけじゃ利かんぞ?銃口向けられても平気なサイコな聞かん坊、礼儀がなってない奴は徹底的にしばくぞ─」
「─未知の刺客蔓延、日々欠かさぬ鍛錬、聞こえぬ懺悔、士気高め戦う全開のアクセル─」
徐々に攻撃力が弱まって来たハスラーに向かい、俺達三人も改めて気合を入れて臨む。
「─気負う必要ない仲間。理鶯、銃兎と共に地獄へのルートへご案内。俺様左馬刻様が葬ってやんよ!─」
「─破壊の限りを尽くすカスは直ちに、ガス抜き代わりにサクサクしょっぴく。私と対峙なんて可哀相に。相手が悪かったな、我々の手に掛かれば悪逆滅びる─」
「─相手する小官はnavy 今日が貴殿の命日。ベストを尽くすMTC rest in peace 壊滅する 攻落だ、easy─」
「やったシモ!」
大声で叫んだハスラーは、その後キラキラと星屑のように輝いて散った。
それと同時に俺達も元の姿に戻っている。
未知の出来事の連続に溜息をついていると、三匹の妖精がふわふわと俺達の元へ飛んで来た。
「期待以上の活躍だったシモ!」
「これからもヨコハマを守る為に頑張って欲しいサツ!」
「さまとき、じゅーと、りおー、改めてよろしくミナ!」
握手を求められたのでそれに応える。
左馬刻は、本日何本目になるか分からない煙草を咥え火を点けた。
「帰るか。流石に腹減ったな。……あ」
「馬鹿!左馬刻…!」
思わず理鶯の方を見ると、いつもと変わらない無表情なその顔で予想通りの言葉を放つ。
「そろそろ煮込み上がった頃だろう。良ければ二人も食べて行くと良い」
『…い、頂きます…』
引き攣った笑顔で言う俺達は、お互いの足を踏み合っていた。
そんな事など露知らず、理鶯は妖精達を肩に乗せて嬉しそうに歩き出す。
ヨコハマの街を守った後は、理鶯の笑顔を守らねば。
そんな謎の一体感を左馬刻と感じながら、鼻唄をうたう理鶯の後を追うのだった。
「──はっ!」
俺が目を覚ますと、目の前には左馬刻と理鶯が居た。
「おうおう、ようやくお目覚めかウサ公」
「何やらうなされていたようだが大丈夫か」
理鶯に呼び出されて彼の料理が出来上がるのを待っている間、連日の激務からか居眠りをしてしまったらしい。
「うなされていた…?」
変な夢を見たような気もするが、一度眠りから覚めてしまうとすっかり記憶から消えていた。
「ストレスだろ。警察様は忙しいみてぇだからなぁ」
「どこかの馬鹿が毎回毎回、警察の厄介になった時に暴れるから大変なんだ」
左馬刻の顔を見ながら、わざとらしく溜息をついてやる。
「てめェの手なんざ借りなくたって俺様だけで話は付けれんだよ!」
「二人共落ち着け。さぁ、出来たぞ」
どん、と目の前に置かれた理鶯お手製の料理。恐らく見た事も聞いた事も無い食材が使用されているのだろう。
「プリプリした歯応えで美味いぜ理鶯……」
意を決して謎の料理を口にした左馬刻は、青ざめた顔で感想を述べている。
その言葉を耳にした瞬間、俺は先程見た夢を思い出したのだった。
「プリキュアだ!!」
「合歓が好きだったな………じゃねぇや。急にどうした銃兎」
「プリキュアか。イケブクロディビジョンの山田一郎が熱く語っていた事があるな。年端も行かぬ少女達だが、立派なソルジャーだと小官は解釈している」
「縁起でもないので、夢と全く同じ事を言い出すのはやめて頂けませんか…」
─ END ─
【あとがき】
プリキュア側が「ぶっ殺す」なんて悪役みたいな台詞、ヨコハマだから成せるわざ(?)きっと深夜帯の放送ですね。
2024/06/23