Dream
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残業を終えて帰路につく。
今日も上司の無茶振りに応え、へとへとになってシブヤの雑踏に紛れる。駅前に向かうと、人混みの雑音に混ざって誰かが何かを叫んでいるのが聞こえた。
「どうか!このイタイケな青年に慈悲を…!どうかお願いしまあああす!」
土下座をしながらそんな事を叫んでいる青年は、ことごとく通行人にスルーされている。
都会はそんなものだ。
しかし、そんな彼を少しだけ可哀想だと思うのも事実である。捨て猫に餌をあげるような気まぐれで、私は青年に声を掛けた。
「あの、大丈夫ですか…?」
「はっ!お姉さん!どうかこの俺に金…いや飯でも良いから奢ってくれ…!」
頼む!と更に深い土下座をする青年。
通行人にちらちら見られ、ひそひそ囁かれる。
「と、とりあえず土下座やめましょうか!ご飯なら奢るので!」
「まじか!ありがてぇ!!」
満面の笑みで勢いよく立ち上がり、ぐっとガッツポーズをする青年。給料日前だけど、ここまで来たら仕方無い。
「ファミレスでも良いですか…?」
「おう!いや〜実に四日振りの飯だぜ!」
「四日振り?」
空腹故の誇張表現だろうか。それにしてはいやにリアルな数字だ。気になったが、スキップする勢いで前を行く青年の背中を眺めるだけで終わる。
「いらっしゃいませ!何名様ですか?」
「二人です」
四人掛けの広い席に案内され、私と青年は向かい合って座る。彼は早速、メニュー表を眺めて悩んでいた。
「お腹空いてるんだよね?遠慮せずどうぞ」
「あんたほんと良い奴だな!んじゃあこれと、これと、あとこれも……」
前言撤回。……出来るならしたい。
テーブルいっぱいに並べられた料理に目を輝かせる青年を見て、これだけ喜んでくれたら良いか、とも思う。
「いっただきま〜す!ぐあっつ!ぐあっつ!ぐあっつ!ん~うめ〜!」
「ご飯は逃げないから、落ち着いて食べた方が良いんじゃないかな…」
私の心配をよそに、ものすごい勢いで料理を平らげていく彼。
「食える時に食っとかねーと!」
ははは、と八重歯を覗かせて笑う彼。なんとも豪快な人だ。
「あんたはそれだけで足りんのかよ?」
私の前に置かれたスープとサラダを見て、青年は信じられないとでも言うような表情を見せる。
「仕事が忙し過ぎて、正直食欲も無いというか…」
はは…と力無く笑う私を見て、彼は頬杖をついて言った。
「愚痴でもなんでも聞くぜ?奢ってもらう礼っつーか、それしか出来ねぇんだけどさ。知らねぇ奴相手の方が吐き出しやすい事もあんだろ?」
「…じゃあ、ご飯食べながら適当に聞いてくれると嬉しい、かも」
「おう!」
人懐っこい笑顔でそう返す青年。彼は目線を私にやりつつ、食事を再開させた。そして私はぽつぽつと愚痴を吐いて行く。
青年は頬をご飯で膨らませながらふんふんと相槌を打ち、アドバイスをするでもなく時折「先週のマグロ漁船の件と似てるなぁ」とか「そのやばさはこの前の治験バイトに匹敵するぜ」とか、ちょっと気になる言葉を挟んでいた。
ひと通り吐き出してすっきりした私は、冷めてしまったスープを飲み干しぷはっと息を吐く。
「聞いてくれてありがとう。だいぶ軽くなったよ」
「こっちこそ、飯ご馳走さん!気の利いた事言ったりは出来ねぇけど、気分が晴れたなら良かったぜ」
「そういえば名前とか聞いてなかったよね。今更だけど…」
「はは、名乗る程のもんでもねぇってな!言ってみたかったんだよこれ!」
楽しそうに笑う青年は、残っていたグラスの水を喉を鳴らしながら飲み干した。
「もしまたどっかで会ったら、今日みたいに愚痴聞いてやるよ。そん時金がありゃ、今度は俺が奢ってやるぜ」
にっこり笑って八重歯を見せる青年。
その屈託の無い笑顔に、私はいつの間にか癒やされていたのだった。
─ END ─
【あとがき】
この後割と頻繁に街中で土下座する帝統を見掛けそうな気もします。いつからか待ち合わせも要らない同士♪
ARBで例の「ぐあっつ」を聞いた時は衝撃を受けました。
2024/07/05
今日も上司の無茶振りに応え、へとへとになってシブヤの雑踏に紛れる。駅前に向かうと、人混みの雑音に混ざって誰かが何かを叫んでいるのが聞こえた。
「どうか!このイタイケな青年に慈悲を…!どうかお願いしまあああす!」
土下座をしながらそんな事を叫んでいる青年は、ことごとく通行人にスルーされている。
都会はそんなものだ。
しかし、そんな彼を少しだけ可哀想だと思うのも事実である。捨て猫に餌をあげるような気まぐれで、私は青年に声を掛けた。
「あの、大丈夫ですか…?」
「はっ!お姉さん!どうかこの俺に金…いや飯でも良いから奢ってくれ…!」
頼む!と更に深い土下座をする青年。
通行人にちらちら見られ、ひそひそ囁かれる。
「と、とりあえず土下座やめましょうか!ご飯なら奢るので!」
「まじか!ありがてぇ!!」
満面の笑みで勢いよく立ち上がり、ぐっとガッツポーズをする青年。給料日前だけど、ここまで来たら仕方無い。
「ファミレスでも良いですか…?」
「おう!いや〜実に四日振りの飯だぜ!」
「四日振り?」
空腹故の誇張表現だろうか。それにしてはいやにリアルな数字だ。気になったが、スキップする勢いで前を行く青年の背中を眺めるだけで終わる。
「いらっしゃいませ!何名様ですか?」
「二人です」
四人掛けの広い席に案内され、私と青年は向かい合って座る。彼は早速、メニュー表を眺めて悩んでいた。
「お腹空いてるんだよね?遠慮せずどうぞ」
「あんたほんと良い奴だな!んじゃあこれと、これと、あとこれも……」
前言撤回。……出来るならしたい。
テーブルいっぱいに並べられた料理に目を輝かせる青年を見て、これだけ喜んでくれたら良いか、とも思う。
「いっただきま〜す!ぐあっつ!ぐあっつ!ぐあっつ!ん~うめ〜!」
「ご飯は逃げないから、落ち着いて食べた方が良いんじゃないかな…」
私の心配をよそに、ものすごい勢いで料理を平らげていく彼。
「食える時に食っとかねーと!」
ははは、と八重歯を覗かせて笑う彼。なんとも豪快な人だ。
「あんたはそれだけで足りんのかよ?」
私の前に置かれたスープとサラダを見て、青年は信じられないとでも言うような表情を見せる。
「仕事が忙し過ぎて、正直食欲も無いというか…」
はは…と力無く笑う私を見て、彼は頬杖をついて言った。
「愚痴でもなんでも聞くぜ?奢ってもらう礼っつーか、それしか出来ねぇんだけどさ。知らねぇ奴相手の方が吐き出しやすい事もあんだろ?」
「…じゃあ、ご飯食べながら適当に聞いてくれると嬉しい、かも」
「おう!」
人懐っこい笑顔でそう返す青年。彼は目線を私にやりつつ、食事を再開させた。そして私はぽつぽつと愚痴を吐いて行く。
青年は頬をご飯で膨らませながらふんふんと相槌を打ち、アドバイスをするでもなく時折「先週のマグロ漁船の件と似てるなぁ」とか「そのやばさはこの前の治験バイトに匹敵するぜ」とか、ちょっと気になる言葉を挟んでいた。
ひと通り吐き出してすっきりした私は、冷めてしまったスープを飲み干しぷはっと息を吐く。
「聞いてくれてありがとう。だいぶ軽くなったよ」
「こっちこそ、飯ご馳走さん!気の利いた事言ったりは出来ねぇけど、気分が晴れたなら良かったぜ」
「そういえば名前とか聞いてなかったよね。今更だけど…」
「はは、名乗る程のもんでもねぇってな!言ってみたかったんだよこれ!」
楽しそうに笑う青年は、残っていたグラスの水を喉を鳴らしながら飲み干した。
「もしまたどっかで会ったら、今日みたいに愚痴聞いてやるよ。そん時金がありゃ、今度は俺が奢ってやるぜ」
にっこり笑って八重歯を見せる青年。
その屈託の無い笑顔に、私はいつの間にか癒やされていたのだった。
─ END ─
【あとがき】
この後割と頻繁に街中で土下座する帝統を見掛けそうな気もします。いつからか待ち合わせも要らない同士♪
ARBで例の「ぐあっつ」を聞いた時は衝撃を受けました。
2024/07/05
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