Dream
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長期休暇を利用して、私はヨコハマに来ていた。初めての一人旅。ヨコハマの観光名所を巡って、思い切り羽を伸ばす予定だった。
しかし今私が居るのは、人気の観光地ではなく寂れた路地裏。しかも絵に描いたようなチンピラ数人に絡まれている。金品の要求などは無いものの、男の一人は私の肩に手を回し、馴れ馴れしく話し掛けて来た。
「そういや、お姉ちゃん一人?俺らと一緒に遊ぼうぜ」
にやにやと嫌な笑みを浮かべる男達に曖昧な返事をしながら、必死に頭を回転させる。だが解決策は何も浮かばず、とうとうしびれを切らした相手は、私の手首を強く引いて歩き出した。
流石に身の危険を感じたが、力の差もあり為す術は無い。助けを呼ぼうにも、恐怖からか上手く声が出せなかった。
「おう、ゴミムシ共。俺様のシマで何やってやがる」
助けが来たかと顔を上げると、前方から煙草をふかした銀髪の男が歩いて来るのが見えた。明らかに雰囲気の違う男の登場に、私の身体は更に強張る。
こいつらのボス…!?
彼は吸っていた煙草を地面に落として踏み付けると、そのままこちらに歩み寄り、私の手首を掴んでいる男の目の前に立った。
近くまで来た銀髪の男の横顔を見ると、睫毛長いな、と緊張感の無い感想が浮かぶ。それにしても誰かに似ているような…。
「お前は!碧棺左馬刻!?」
それだ!彼はMAD TRIGGER CREWの碧棺左馬刻に似ている。ってか左馬刻様本人じゃない?
チンピラ達は焦った表情で懐に手をやり、ヒプノシスマイクを取り出した。
「はっ、面白ェ。こいつは正当防衛だよなぁ!?お望み通りぶっ殺してやんよ!」
左馬刻様もヒプノシスマイクを手にして高笑いをしている。マイクを握り締めた彼らに気を取られている間に、迷彩服を着た長身の男が音も無く左馬刻様の背後に立っていた。
「左馬刻、こんな所に居たか」
「よう理鶯。丁度良い、そこの女連れてどっか行けや」
長身の彼はもしかしなくても、MAD TRIGGER CREWの毒島メイソン理鶯…!
「うむ、承知した。無理はするなよ」
彼はこの状況を見て察したらしく、僅かに顎を引いて頷くと私を肩に担いで走り出す。
「うわっ!」
「喋ると舌を噛むぞ」
土地勘の無い私は、自分が何処に居るのか分からないまま毒島さんに担がれている。しばらくして到着したのは、人通りの多い駅前だった。
「この辺りだと大丈夫だろう。多くの人目があれば危険は少ないはずだ」
そっと私を地面に降ろすと、優しく声を掛けて来た。
彼らの事はラップバトルの様子をテレビ越しでしか見た事が無いが、正直言うとMAD TRIGGER CREWが群を抜いて怖い。
特に、今目の前に居る毒島さんが一番怖かった。190程あるらしい長身に低い声、感情の読めない顔、それに元軍人という経歴。圧倒的なラップスキルも相俟って、近寄りがたい人物だというイメージが強かった。
「ありがとうございます。助かりました…」
「礼なら左馬刻に言うと良い。ところで、何故あのような場所に居たのだ?あの男達とは知り合い…という訳ではないだろう」
毒島さんはラップをしている時よりやや高めの優しいトーンで問い掛けて来る。
「私、旅行で初めてヨコハマに来たんです。道に迷ってた所を、あの人達が声掛けてくれて…」
最初は男二人組だった。気さくに話し掛けて来て、「直接道案内をするから」と半ば強引に言いくるめられて気付いたら路地裏で男数人に囲まれて居たのだ。
「それは怖かっただろう」
「…でもお二人のお蔭で無事なので。本当にありがとうございました」
「小官は何もしていない。左馬刻の指示が的確だったという訳だな」
噂をすると、遠くから左馬刻様が彼の名前を叫んでいるのが聞こえた。
「こんな所まで行ってたのか。まぁ良いや。数が多いだけで大した事ねェボウフラ共だったぜ」
「そうか。左馬刻が助けた彼女も無事だ」
煙草を取り出しながら、左馬刻様はちらと私を見やる。
「助けて頂いてありがとうございました。良ければ、何かお礼をさせて頂けませんか?」
深く頭を下げて言うと、頭上から小さな舌打ちが聞こえた。
「ゴキブリ野郎共がうざくてこっちが勝手にやった事だ。いちいち気にすんな」
「分かりにくいが左馬刻は照れているだけだ」
「理鶯、てめェ…俺様が照れる訳ねーだろ喧嘩売ってんのか」
毒島さんは、早口で捲し立てる左馬刻様をにこにこした表情で見ている。
なんだろう、このほのぼのとした微笑ましい光景は。
「チッ、てめェまで何笑ってんだよ」
「あはは…すみません」
思わず顔に出ていたらしい。彼は溜息をついて頭を掻いている。
「そういえば、旅行中に道に迷ったと言っていたが大丈夫なのか?」
思い出したように毒島さんが言った。
「あ?旅行で来て絡まれたのかよ。そりゃ災難だったな」
「そうだ…ここに行きたいって思ってたんです」
スマホの画面を二人に見せながら話すと、左馬刻様は「あぁ」と煙草の煙を吐いて歩き出した。
「着いて来い、という事だろうな」
そして毒島さんも歩き出す。
「そんな、道案内まで申し訳無いですよ!」
MAD TRIGGER CREWの方々に何をさせているんだ私は!
「礼がしたいっつってたろ。俺様が行きてェ所に付き合いやがれ」
「すまない。左馬刻は素直じゃないからな」
「うるせェぞ理鶯」
今日だけで彼らの印象が180度変わった。二人のやりとりを見ていると、自然と笑みがこぼれてしまう。
再び左馬刻様にどやされないよう、私はにやけ面を隠して彼らの後を追うのだった。
─ END ─
【あとがき】
何事もない一日なんてこの場所じゃありえないぜ!
銃兎さんもねじ込みたかったな…!
2024/06/23
しかし今私が居るのは、人気の観光地ではなく寂れた路地裏。しかも絵に描いたようなチンピラ数人に絡まれている。金品の要求などは無いものの、男の一人は私の肩に手を回し、馴れ馴れしく話し掛けて来た。
「そういや、お姉ちゃん一人?俺らと一緒に遊ぼうぜ」
にやにやと嫌な笑みを浮かべる男達に曖昧な返事をしながら、必死に頭を回転させる。だが解決策は何も浮かばず、とうとうしびれを切らした相手は、私の手首を強く引いて歩き出した。
流石に身の危険を感じたが、力の差もあり為す術は無い。助けを呼ぼうにも、恐怖からか上手く声が出せなかった。
「おう、ゴミムシ共。俺様のシマで何やってやがる」
助けが来たかと顔を上げると、前方から煙草をふかした銀髪の男が歩いて来るのが見えた。明らかに雰囲気の違う男の登場に、私の身体は更に強張る。
こいつらのボス…!?
彼は吸っていた煙草を地面に落として踏み付けると、そのままこちらに歩み寄り、私の手首を掴んでいる男の目の前に立った。
近くまで来た銀髪の男の横顔を見ると、睫毛長いな、と緊張感の無い感想が浮かぶ。それにしても誰かに似ているような…。
「お前は!碧棺左馬刻!?」
それだ!彼はMAD TRIGGER CREWの碧棺左馬刻に似ている。ってか左馬刻様本人じゃない?
チンピラ達は焦った表情で懐に手をやり、ヒプノシスマイクを取り出した。
「はっ、面白ェ。こいつは正当防衛だよなぁ!?お望み通りぶっ殺してやんよ!」
左馬刻様もヒプノシスマイクを手にして高笑いをしている。マイクを握り締めた彼らに気を取られている間に、迷彩服を着た長身の男が音も無く左馬刻様の背後に立っていた。
「左馬刻、こんな所に居たか」
「よう理鶯。丁度良い、そこの女連れてどっか行けや」
長身の彼はもしかしなくても、MAD TRIGGER CREWの毒島メイソン理鶯…!
「うむ、承知した。無理はするなよ」
彼はこの状況を見て察したらしく、僅かに顎を引いて頷くと私を肩に担いで走り出す。
「うわっ!」
「喋ると舌を噛むぞ」
土地勘の無い私は、自分が何処に居るのか分からないまま毒島さんに担がれている。しばらくして到着したのは、人通りの多い駅前だった。
「この辺りだと大丈夫だろう。多くの人目があれば危険は少ないはずだ」
そっと私を地面に降ろすと、優しく声を掛けて来た。
彼らの事はラップバトルの様子をテレビ越しでしか見た事が無いが、正直言うとMAD TRIGGER CREWが群を抜いて怖い。
特に、今目の前に居る毒島さんが一番怖かった。190程あるらしい長身に低い声、感情の読めない顔、それに元軍人という経歴。圧倒的なラップスキルも相俟って、近寄りがたい人物だというイメージが強かった。
「ありがとうございます。助かりました…」
「礼なら左馬刻に言うと良い。ところで、何故あのような場所に居たのだ?あの男達とは知り合い…という訳ではないだろう」
毒島さんはラップをしている時よりやや高めの優しいトーンで問い掛けて来る。
「私、旅行で初めてヨコハマに来たんです。道に迷ってた所を、あの人達が声掛けてくれて…」
最初は男二人組だった。気さくに話し掛けて来て、「直接道案内をするから」と半ば強引に言いくるめられて気付いたら路地裏で男数人に囲まれて居たのだ。
「それは怖かっただろう」
「…でもお二人のお蔭で無事なので。本当にありがとうございました」
「小官は何もしていない。左馬刻の指示が的確だったという訳だな」
噂をすると、遠くから左馬刻様が彼の名前を叫んでいるのが聞こえた。
「こんな所まで行ってたのか。まぁ良いや。数が多いだけで大した事ねェボウフラ共だったぜ」
「そうか。左馬刻が助けた彼女も無事だ」
煙草を取り出しながら、左馬刻様はちらと私を見やる。
「助けて頂いてありがとうございました。良ければ、何かお礼をさせて頂けませんか?」
深く頭を下げて言うと、頭上から小さな舌打ちが聞こえた。
「ゴキブリ野郎共がうざくてこっちが勝手にやった事だ。いちいち気にすんな」
「分かりにくいが左馬刻は照れているだけだ」
「理鶯、てめェ…俺様が照れる訳ねーだろ喧嘩売ってんのか」
毒島さんは、早口で捲し立てる左馬刻様をにこにこした表情で見ている。
なんだろう、このほのぼのとした微笑ましい光景は。
「チッ、てめェまで何笑ってんだよ」
「あはは…すみません」
思わず顔に出ていたらしい。彼は溜息をついて頭を掻いている。
「そういえば、旅行中に道に迷ったと言っていたが大丈夫なのか?」
思い出したように毒島さんが言った。
「あ?旅行で来て絡まれたのかよ。そりゃ災難だったな」
「そうだ…ここに行きたいって思ってたんです」
スマホの画面を二人に見せながら話すと、左馬刻様は「あぁ」と煙草の煙を吐いて歩き出した。
「着いて来い、という事だろうな」
そして毒島さんも歩き出す。
「そんな、道案内まで申し訳無いですよ!」
MAD TRIGGER CREWの方々に何をさせているんだ私は!
「礼がしたいっつってたろ。俺様が行きてェ所に付き合いやがれ」
「すまない。左馬刻は素直じゃないからな」
「うるせェぞ理鶯」
今日だけで彼らの印象が180度変わった。二人のやりとりを見ていると、自然と笑みがこぼれてしまう。
再び左馬刻様にどやされないよう、私はにやけ面を隠して彼らの後を追うのだった。
─ END ─
【あとがき】
何事もない一日なんてこの場所じゃありえないぜ!
銃兎さんもねじ込みたかったな…!
2024/06/23
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