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南雲先輩ってどんな人ですか?

【スタプロの根性】


 ――6月15日。
 祝日という訳でもなく、なんでもない日のように思えるが俺にとっては特別な日。そのせいで朝から落ち着くことができず、目の前にある書類も全く進みそうになかった。去年は稽古に付き合ってくれた一彩くんも、今年は『準備』があるからと先に行ってしまったのだ。『部長はここで待っていてね』と念を押すように言われてしまえば、俺にここで待つ以外の選択肢は残されていなかった。
「南雲先輩!」
 不意に声をかけられ、顔を上げると見慣れた後輩が目の前にいた。夢ノ咲学院の制服に青いリボン。――彼女はプロデュース科の生徒であり、解散した今も『流星隊N』に寄り添ってくれている『プロデューサー』でもある。少し内気なところがあるものの、きちんと仕事をこなすので周りからの信頼も厚かった。
「遅くなってすいません……!」
「大丈夫ッスよ、事前に連絡もらってたッスから。それよりもお仕事お疲れ様ッス!」
 彼女が姉御から大きい仕事を任されたということは俺も耳にしていた。それがどうも俺の誕生日の企画に関するということも。内容を聞いてみても『当日のお楽しみ』と言われ、みんな口を割らなかった。
「あ、ありがとうございます。さっき先輩に提出したんですけど……無事OKを貰えました」
「おお、凄いじゃないッスか! 姉御は仕事に対しては厳しい人だから――君がちゃんとできたっていうなによりの証拠ッスよ!」
「そんな大袈裟なものじゃないですよ……? 私はただ皆さんの言ったことを文字に起こしただけですから」
 苦笑して謙遜するがそれでも大変だっただろう。ただでさえESのアイドルたちは夢ノ咲学院よりも癖が強いのだから。書類をファイルにしまい、立ち上がる。
「じゃあ、早速会場に向かうとするッスか!」
「はい。私に着いてきてくださいね」
 誕生日パーティーの会場はまちまちで、その当人には秘密にされている。そのため案内役として選ばれたのが彼女という訳だ。
 ESの人気の少ない廊下を歩きながら、彼女と談笑を続ける。
「もう準備終わってるッスかね?」
「さっき覗いて見たんですけど終わってましたよ。みんな南雲先輩が来るのを心待ちにしていました」
 人伝と言えど、そんな様子を聞かされると照れてしまう。何回やっても大勢の人に祝われるのは慣れないものだ。夢ノ咲学院に入学する前は誕生日でも家に1人でいることが多かったのにな、と心の中でぼやいた。
「……えっと、南雲先輩」
 不意に彼女が足を止め、こちらを振り向いた。その意図がわからず俺は首を傾げる。
「どうかしたッスか?」
「今回の仕事を通じて――私は南雲先輩がどんな人かわかりました」
 そう言って彼女は楽しげに、そしてどこか嬉しげな笑みを浮かべた。その瞳はどこか誇らしそうな輝きを秘めている。俺は彼女の言葉の先が気になった。
「はは、そうッスか。君にとって俺はどんな人ッスか?」
「南雲先輩は――」


 ――みんなに愛されてる人です。


 いつの間にか背中にいた彼女に背中を軽く押される。油断していた俺は少し前のめりになりながら、これまた都合良くドアが開いていた部屋に足を踏み入れた。……瞬間、クラッカーが鳴り響く音が聞こえ、色とりどりの紙吹雪が上から降り注いできた。
「「ハッピーバースデー!!」」
 たくさんの人に囲まれてお祝いの言葉を投げかけられる。毎年同じようなことをされているはずなのに、やっぱり俺は少しぽかんとして反応することができなかった。その間にあれよあれよという間に会場の中央へと誘導される。
「それでは鉄くん、主役から一言どうぞ!」
 ひなたくんが俺にマイクを向けてきた。改めて会場を見渡す。カラフルな星モチーフを中心とした飾り付けが壁を彩り、壁際には肉を中心とした料理が並べられ良い匂いがこちらまで漂ってくる。ケーキは見当たらないけど、おそらくいつも通りまだ冷蔵庫にしまっているのだろう。来てくれているのは『流星隊』の面々は勿論、サークルが同じ七種先輩たちや同室の先輩2人も来てくれている。軽く1クラスは作れそうなくらいの人たちがこの部屋に集っていた。


 ――なるほど、彼女の言葉は間違いではないらしい。


「鉄くん、はーやーくっ!」
「ああもう、わかってるッスよ! ……みんな、来てくれてありがとうッス! 今日は目一杯楽しむッスよ!」
 今日だけは、この状況に甘んじても許されるだろうか。
 そんなことを考えながら、俺は今にもハグするために突撃してきそうな守沢先輩に備えるべく少し身構えた。










【Happy birthday Tetora!】
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