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南雲先輩ってどんな人ですか?

【リズリンの代表】


 わざわざリズリンの事務所にまで来てもらってすまないな。――でもあんなに堂々と歩くとは中々肝が座っている。胆力もあいつ譲りか? ……そんなことはない? そうか。ならば己の力で培ったということか。……ちょっとした冗談だからそんなに慌てるな。あまり年の離れた後輩と接する機会がないから少し空気を軽くしようとしたのだが――中々上手くいかんな。
 南雲と初めて会ったのは『紅月』の加入審査だった。本当はこれ以上メンバーを増やす予定もなかったから審査を行うつもりは元々なかったのだが――『どうしても』という新入生が多くてな。形式上やることになった。どんな印象だったか? ……そうだな、『紅月』の権力や知名度目当てで志望した者が多かったのに対してあいつは本当に『紅月』――いや、鬼龍に憧れて来たというのは今でも覚えている。しかし、ただ憧れるだけでは真のアイドルにはなれない。故に俺は南雲を不合格にした。
 その後は――多くはないものの度々共演の機会に恵まれている。だが……俺はともかく南雲はあの時が未だにトラウマらしくて俺のことが苦手なようだ。これでもあいつの努力も実力も認めていない訳ではないのだが――すまん、今のことは忘れてくれ。南雲もきちんとわかっている? ……はは、まさかおまえに励まされてしまうとはな。気持ちと言葉は有難く受け取っておこう。
 俺は一に説教、二に説教と思われているかもしれんが……祝いの日に言祝ぐことくらいできる。南雲、誕生日おめでとう。1度は夢破れたおまえが『流星隊』で活躍できていることはなによりだ。それはおまえの先祖が良い行いをしてきたからだ――などと仏道じみたことを言うつもりはない。それはなによりおまえの弛まぬ努力の成果だ。当日には鬼龍が色々用意しているようだから――その時が来たら喜んで受け取ってやってくれ。


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【リズリンの風雅】


 すまない、遅れてしまった! この詫びはどうか腹を斬って――――切腹はしなくていい? ……ふふ、『ぷろでゅうさあ』殿と同じことを言うんだな。仕事が思ったより長引いてな、ここに来るまでも全速力で駆け付けたのだが……少し間に合わなかったようである。連絡はきちんと届いていただろうか? ……それならよかった。大分慣れてきたものの、まだ『すまほ』の操作には手間取ってしまうことが多いのだ……。
 南雲は鬼龍殿の1番弟子だな。鬼龍殿はよく我に対してまるで自分の子どものように接してくることがあるが――おそらく南雲にも似たような感情を抱かれているように見える。南雲が笑っていると鬼龍殿の顔も綻ぶし、逆に元気がないといつも心配そうにそわそわしておられるからな。きっと鬼龍殿にとって南雲の喜びが己の喜びになっていることは間違いない。だから2人が仲睦まじく話しているところを見ると、思わず微笑ましい気持ちになってしまうのだ。
 空手部で磨いたという動きも中々のものだな。我は幼少期から鍛錬を重ねてきたから動けるのは当然なのだが、南雲は夢ノ咲学院に来るまでは全くの初心者だったそうだ。それからたった1年で黒帯を取れたのは研鑽を積んだからでもあるだろうが、おそらく才能もあったのだろう。力を身に付けても奢らないところも好感が持てる。刀であろうと拳であろうと、それは支配するために使うべきではない。――誰かを、時には誇りを守るためにそれらはあるべきなのだ。南雲もきっと同じ考えだと信じている。
 芸能界というものに足を踏み入れると、南雲のような人間が如何に稀有かよくわかった。きっと鬼龍殿や『流星隊』の面々はそれがわかっているからこそ、大事に守ってきたのであろう。だが――南雲は何時までもその腕の中に収まっている人間でもないだろう。どれほど大きくなって我々『紅月』の脅威となるのか――はは、少し楽しみである!


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【リズリンの男気】


 よう、お疲れさん。頭を下げる必要なんてねぇよ、空手部の活動を覗きにいくついでみたいなもんだからな。……って、仕事がついでみたいな言い方になっちまった。仕事は仕事できっちりやるから安心しろよ。それにしても……懐かしいな、教室なんて。鉄も来年にはとうとうここを卒業するんだな――なんだか感慨深いぜ。
 今でも初めて鉄と会った日は忘れられねぇな。突然武道場に来たかと思えば、息を切らせながら入部届けを突き出してきやがった。その後憧れてるだの尊敬してるだの捲し立てられて……困惑しながらそれを聞くしかできなかったのを覚えてる。――正直、意味がわからなかった。お世辞にも真っ当な道を歩んできたとは言えねぇからな。こんな男のどこが憧れなんだって聞きたくなったことも1度や2度じゃねぇよ。けどさ――今まで『色々』やらかしたからこそ、あいつだけは綺麗なまま育ててやりたいと思っちまった。……まあ、結局はその次の年の冬に鉄は一人立ちしたんだがな。変に世話を焼くのはあいつのためにならないって思い知ったぜ。
 『流星隊』がゴタゴタした時――正直、少しだけ後悔した。『流星隊』に鉄を紹介したのは俺だったからよ……俺が別の居場所を用意していればあいつは悲しんだり悩んだり色々考えちまった。けどさ、さっきも言ったけど――それはあいつのためにならねぇ。傷ついているところは正直見てられなくなるし、直ぐ駆けつけてやりたくなるが――きっと鉄はそんなこと望んでいないよな。……ちょっと寂しくて、歯痒いけどよ。
 なあ、嬢ちゃん。嬢ちゃんの目から見た鉄ってどうだ? 元気にしているか? ……そうか。嬢ちゃんがそう言うなら本当なんだろうな。――なあ、鉄。俺はおまえのこと息子みたいだと思ってるし、太陽みたいだと思ってる。おまえが笑って色んなことを話してくれるとこっちまで楽しくなっちまう。……けどよ、辛くなったら何時でも周りを頼れよ。おまえは変に俺や守沢に似ちまって意地を張りがちだから心配だ。……ああ、駄目だな。やっぱり気に掛ける言葉しか出てこねぇ。誕生日はおまえの好きなカルビを焼いてやるからな、楽しみにしとけよ。
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