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SSトレーニング

 渋谷の交差点の中心に、そいつはいた。
 深夜の東京。夜中とはいえ大都会の人口密集地であるにも関わらず、そいつ以外には誰もいない。

 奴は人ではなく、巨大な狐だった。

 体は人を悠々と跨げる程に大きく、長い四つ足を綺麗に揃え、柔らかな九尾がふわふわと揺れる。
毛並みは明るい月のように白く、鋭い瞳は深い海のように青い。

 日常とは程遠い景色に、男は息をのみ硬直した。仕事の疲れから幻でも見ているのかと目を擦るが、無人の交差点に佇む白狐の姿は変わらない。

 ふと、狐がこちらを流し見た。冷ややかな視線に刺され、額から汗が流れる。恐怖心が胸を支配していくが、金縛りにあったように足は動かない。
 狐が立ち上がり近づいてくる。先程まではそれなりに距離があったはずなのに、狐はいつの間にかすぐ目の前に立っていた。青い瞳が、男の頭上から覗き込む。

 噛まれるのか、はたまた喰われてしまうのか。

 立ち止まったまま震える男に目を細めると、狐はそのまま天高く跳び上がった。
 狐の姿を追って空を見上げるが、すでにあの白銀の毛並みは見当たらない。黒く塗られた都会の空がビルの合間から見えるだけだ。

 視線を地上に戻すと、そこは賑やかな都会の夜だった。人々が交差点を行き交い、ビルの明かりが道を照らす。
 汗で肌にまとわりつくワイシャツを引っ張りながら、あの海色の瞳を思い出し、男はまた身震いをした。

END
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