君との13日研修


 人間というのは多かれ少なかれ、夢見がちな生物なのかもしれない。

 自覚の有り無しの程度に関わらず、普段はぼんやりと酒の酔いに似た酩酊が脳にじんわり染みていて、そのお陰で現実がぼやけて見える。

 明日も今日と変わらず衣食住があり、仕事があり、命と身体があり、病や怪我に突然倒れることもなく、事件や事故に巻き込まれず、手放したくない大切な人は明日も明後日も隣にいてくれる――心のどこかで信じ込んでいるそれは、その現実は本当に真実だろうか――。

 ふと酔いが醒めた目で隣を見た時、そこにいると信じていた相棒はいないのかもしれない。



 まさにそれは夢見心地のようだった。

 どこまでも青く、高く晴れ渡った空の元、颯爽と駆けるオープンカーの助手席で頬に当たる風は煌めいて見えた。
 しかも隣でハンドルを握っているのは彼――自分の店の親愛なる部下、サーティーン。
 今まで内心、彼の整った顔とクールな目つきには密かにときめくものを感じていたが、助手席から見るその横顔はいつにも増して凛々しく見える。

「――私、リーガーの車に乗るなんて初めて!」

 今朝念入りにセットした前髪が風に崩されるのも構わず、高鳴る胸に合わせ弾んだ声で笑った。
 あのガレージに置いた仮眠用のソファと同じか、もしかしたらそれよりもやや大きいかもしれない席にはしゃいでいると、俺も、と隣から言われる。

「俺も誰かを乗せるなんて初めてだ」

 目元はぎらつく陽を反射させるバイザーに隠されて見えにくいが、その声と口元は普段から見慣れた優しい彼のままだった。

 まるでドライブデートみたい――と、思わず浮かれた口から出そうになったが、いけない、駄目だ、と慌てて止める。

 この車がこれから向かう先、それはビーチやプールでもなく、ましてや夏の定番から外せないキャンプ場でもない。
 サーティーンはこれからゴルフの試合を控えているのだ。
 本人は軽い練習試合のようなものだ、なんて言っていた。が、今の彼が置かれている立場を考えると、その練習試合ひとつでも勝利で終わらせたいはず――仕事の息抜きがてら見に来てくれないか、と誘われた時は飛び上がるほど嬉しかったが、だからといって彼の邪魔になるようなことは一切したくない。

 浮かれた気持ちなんて、自分だけがこっそり隠し持っているだけでいい。

 彼のボディの色に合わせたワンピースも、彼の瞳の色を似せて塗ったネイルも、全部全部、ただの自己満足でいい――「――試合、頑張ってね」

「リーガーのゴルフって初めて見るから正直ルールはよく分からないけど……でも本当に本気で応援してるからね」

 それが今のユーナが言える精一杯の応援だった。
 リーガーが試合として行うゴルフも、サーティーンがいつも大事そうに磨いているそのクラブを振るところも初めて見るのだ。

 いったいなにがどうなることか分からない――ただひとつ揺るがないことは、彼に勝ってほしいという気持ち、ただそれのみ。

「――ありがとう、店長」

 そう言われりゃなんでも勝てるさ、なんて返ってきたなんとも強気で、それでいて嬉しい言葉。それを聞き、いつの間にか誰よりも緊張していたユーナは一旦安堵に胸を下せた。



 サーティーンに連れられて来た場所は山々が景観に見える芝の場で、ユーナがおおよそイメージとして持っていた「ゴルフ場」という場にぴったりと合っているように思えた。

 サッカーや野球のように観客が座るためのシートというものはなく、観客エリアとしてロープで区切られた場に立って応援、観戦するスタイルらしい。
 しかしサーティーンからここで見ていてくれ、と案内されたエリアはどうやら関係者のみが立ち入ることができるエリアのようで、パイプ椅子に等しいが簡易な席が並ぶ中、明らかにリーガーのオーナーに見えるスーツ姿の中老と、大砲のようなカメラを抱えた記者がそこに詰め合っていた。

 明らかに自分は場違いだ。

 本当に私ここの席でいいのかな……?

 なんて不安に思うが、彼はもう出場選手として別の控え場所に行ってしまった。
 仕方なく空いていた最前列に座るが、なんだか周りからの視線が自分を刺しているようで居心地が悪い。

 早く試合始まらないかな、と何度か念じていると、ようやくアナウンスが試合開始の宣言と、来場者への挨拶をそのスピーカーから述べた。

「――えー……それでは続きまして、選手の紹介に入ります」

――ロート鉄鋼製作所属、バンカーズ。ジンクカンパニー製作所属、サンド。続きましてレッドフライズ製作所属、とアナウンスに合わせて名を呼ばれたリーガーが芝の上に進み出ては並んでゆく。

 ユーナはなにもネイルチップやアクセサリーだけを作っているわけではない。ジャンク品修理を請け負う人間の端くれとして数多の企業、メーカーを知っているが――今聞こえたアナウンスが呼んだ企業名は、どれもこれも一流、大企業と呼んでも差し支えないほどのものだ。

 ゴルフリーガーを作ってるのってそんな大きなメーカーなの!?

 どのメーカーも技術力でいったら格別のものだ。
 なにも知らずにこの場へ来てしまったユーナは驚きを隠せなかったが、次にアナウンスが呼んだ名――今度はユーナ以外の観客がそれに大きくざわついた。

――続きまして最後、無所属、サーティーン。

 ユーナには見慣れた彼が芝の上へ、観衆の前に立つが――「――馬鹿な、」

「グリーンボディが無所属だと……!?」

 ユーナの隣に座っていた、見るからに上等なスーツに身を包んだ男がその動揺を声に出す。
 狼狽の色一色のざわめく声をよくよく聞くと、皆揃って同じことを口にしている。

「あ、あの……すみません、グリーンボディってなんですか……?」

 不思議に思って首傾げているばかりじゃ埒が明かない。
 思い切って隣のスーツ男に訊くと、彼は信じられない、と目を大きくしユーナの質問を責めた。

「君、そんなことも知らないのにここに座っているのかね」

「す、すみません、ちょっと色々ありまして……その、アイアンゴルフ見るのも初めてなんですよ」

 まさかこの騒ぎの張本人、サーティーンから連れられてきた、なんて言えない。そんなこと言ったらより面倒なことになりそうだ、と厄介事を避けたかったユーナは言葉を濁した。
 その曖昧で掴みどころがない、というより場違いにも程がある質問とユーナの若さを見たスーツの彼は、そうか、どこかの企業の娘が紛れ込んだのか、と勝手に決めつけた。

「君、人間のゴルフは見たことあるかい?」

「い、いえ、全然……」

 その返答にはため息が、まずはそこからか、と呆れの意味が返ってきた。

「簡単に言うと、人間のゴルフ界にはマスターズ・トーナメントという有名な大会がある。世界中から集められた一流のゴルファーが集まる大会だ」

「はい、」

「その大会で優勝すれば地位、名誉、莫大な賞金……そしてグリーンジャケットというものが贈られる」

「グリーンジャケット?」

「ゴルファーなら誰もが夢見るジャケット、世界を制した勝者の証さ」

 そういって彼はユーナの無知に苛立ちながらも、小脇に抱えていたタブレットで画像を見せてくれた。
 色鮮やかなグリーンのスーツジャケットを羽織っている画像の中の男は、前年度のマスターズを制した男らしい。「――アイアンゴルフ界にもマスターズはある」

「ゴルフリーガーってのは車でいうとF1を走るスポーツカーに似ている。量産せず、大企業のリーガー開発部門が持つありとあらゆる技術、叡智を余すことなく詰め込んだ作品みたいなもんだ。当然試合はハイレベルなものになるが……」

――そのマスターズを制したゴルフリーガーは、名誉あるグリーンジャケットの代わりにボディを塗装するんだ。

 あの色にね、と男が指を向けた先にはサーティーンがいた。

 誰よりも、どのリーガーよりも見慣れた顔、見慣れた色、しかしその色の意味を初めて知った今この瞬間、ユーナの口は最低限の相槌すら出すことを失念した。

「そんな奴がどこの企業にも飼われてないなんて……」

 不可解極まりない、と眉間に皺を寄せるスーツ男へ、後ろの席に座っていた記者が膝に置いたノートパソコンの画面を見るように呼びかけた。
 ユーナもつられてその画面を見たが――そこには今とは違い、全身真っ黒なボディでクラブを握っているサーティーンの写真と、彼がもう随分何年も前にアイアン・マスターズで優勝を勝ち取っていたことを示す記事がそこにはあった。



 試合、とっても格好良かったよ。
 今日の優勝おめでとう――帰りの助手席でそう口にした時、自分はちゃんと笑えていただろうか?

 夜風とともに走り流れ消えていく街灯をぼんやり眺めていると、疲れただろ、と心配がひとつ返ってきた。「――ゴルフの試合ってのはどうにも長引く」

「付き合わせて悪かったな、店長」

 そんな優しい気遣いなんて、風のせいにして聞こえないふりをしたかった。
 しかし不運、間の悪いことに、信号待ちで一旦止まった車の中では無視するわけにもいかない。

「……大丈夫、もう後は寝るだけだし」

「そうか、ならいい」

 今日はありがとうな、店長。
 ゆっくり休みな――そういって彼が店まで送った後、ユーナはまず自室に行き、今日一日身に纏っていた深緑のワンピースを真っ先に脱いだ。乱暴に脱ぎ捨てた。

 なんて忌々しい色。愚かで救えない色。もう二度と着ることはないだろう。

 本当はアメジストの色に似せたネイルも落としたかったが、生憎これはオフに手間と時間がかかるジェルネイル。これはもう諦め、とりあえず適当な部屋着に着替えキッチンへ行く。

 好んで飲んでた桃の缶チューハイを買い置きしていたつもりでいたが、どうやらそれは残念な勘違いだったらしい。
 しかたなく一階のガレージに降り、作業場の隅に置いた冷蔵庫を開け漁る。
 そこには祖父である創一郎が買ったであろう缶ビール、ユーナは苦手とする銘柄しかなかったが、今は味なんてどうでもいい。欲しいのは酔いだ。


 日常では仮眠用として身を預けている小さなソファに腰掛け、缶ビールを一本開け、まるで水かのような勢いで喉へ、胃へ、そして脳へ流し込む。

「あーあ……」

 一気に一缶ほぼ飲み尽くした口から出たのは、普段の明るく気さくなユーナだけを知っている者からすれば到底想像のつかぬ、暗く、重く、それでいて投げやりなため息だった。

――グリーンボディ。名誉ある色。勝者の色。

 部屋の電気はつけ忘れた。
 開けっ放しにした扉から僅かに入る月明りと街灯だけの薄暗い空間で、再度また缶に口をつけ酒を啜る。

 彼が芝の上に立ち、いつ見ても丁寧に磨かれたクラブを振る姿はなによりも、どのリーガーよりも堂々とした誇りがあった。
 ユーナ如きが持つ安易な常識からは大きく外れた弾道に飛ぶ球や、初めて見る彼の技、あの場で見るもの全てがこの目には鮮烈に映ったが、それと同時に彼女は己を恥じた。今すぐここから消えてしまいたい、と何度胸の中で唱えただろう。

――いつの間にか私は誰よりも、あの子のことを知っていると思い込んでいた。
 誰よりもあの子に近いと、隣に並ぶのは私だと勘違いしていた。

 なにがお揃いの色のワンピースだ。
 誇りのある色。勝者の色。
 強豪ばかりのゴルフリーガーの中、それを得るまでにどれだけの努力を重ねたのだろうか――そんなことも知らず、浮かれた気分で勝手に唯一無二のバディであるかのように振舞っていた自分が忌々しくてたまらない。
 このネイルだってそうだ。
 爪の形を整え、削り、ベースを塗った上から彼の綺麗な紫の瞳を思い、色を選んだジェルで指先を飾った前日の夜、この胸にあったのは純粋たる応援の気持ちではなかった。
 まるで明日はドライブデートみたい、なんて間抜け極まる勘違いだった。

 あの子はリーガーだ。スポーツに生きるのが本命の子だ。
 自分の仕事に理解がある無二のバディでもなければ、ましてや――ましてや彼氏でもない。

 あっという間に手元の缶はもう空だ。
 しかし中途半端に酒に強い体質というのは時に不便なもので、身体は火照る感覚はあれどまだ足りない。
 
 めでたいほど独りよがりなこの頭を、自分は彼の隣にいると思い込んでいた残念な脳を揺るがすほどの酔いが、酔いが欲しい!

 ハリガネムシに神経を取られたカマキリがふらふらと水辺に寄るよう、ユーナはまた隅の冷蔵庫に寄っては開け、再度勝手に缶ビールを拝借する。
 ソファと冷蔵庫の合間の距離なんてそうない。
 しかし待ちきれなかった指先はもう缶のプルタブを開け、ソファに座った時にはもう既に何口かは喉を通っていた。

 自分こそ彼の一番の理解者だ、という夢見がちな酔いが醒めた今、代わりに胸を占めるのは自己嫌悪と反省の苦い味。本来ならばしっかりと受け止めるべきなのだろうが、今の彼女にそれを成す余裕はなかった。

 酒に逃げる。
 つまみもなく一気に流し込んだそれはようやく視界を、思考をぐらりと揺らし、この小さきソファ同様、コップを置くぐらいしか使いようのないミニテーブルへ突っ伏した。

――サーくん、君がこんなに遠いなんて思わなかったなぁ。
 優しいから勘違いしちゃった。

 我ながら軽蔑。この期に及んで思わず呟きたくなったのはそんな他責な言葉で、ああ、本当にどこまでも救えない奴、と目元に涙が滲む。

「――なんだ、帰ってたのか」

 そう呼びかけた声は二階からこの一階まで階段を降り、ユーナの対面にある客用のソファへ座った。「――おいおい、」

「電気もつけねぇでなにしてんのかと思ったら……こりゃ俺のビールじゃねぇか」

 テーブルの隅に置いた空き缶を見た祖父が驚くも、ユーナは一言も応じない。というより応じる余裕がない。
 ようやくアルコールで強引に揺らした思考がばらばらと散らばってきたのだ。ある意味自傷的なその感覚にぼうっと呆けるのが精一杯で、勝手に缶を空けたことすら一言謝れる気になれなかった。

「なんだよお前、今日はあのニードル野郎の試合見に行ってたんじゃねぇのかよ」

 そうだよ、だからこうなってんだよ、とでも言いたかったが、気づけば顔は濡れていて、喉は酒ではなく涙で揺れてまともに話せやしない。
 こんな顔を見せるのが嫌で、ユーナは創一郎から顔を背けるように身を起こし、膝を抱え、まだ飲みかけだったビールに口をつけた。

 サーティーンはこの祖父と孫に対し、いつも喧嘩ばかりだ、と心配する。
 事実その通りで、普段は少しでも顔を合わせると嫌味と嫌味のぶつけ合いになる。
 しかし今、今この夜の中ではユーナは口を閉ざし、薄暗い部屋の中でも泣いたのだと分かるその顔に対し、創一郎のほうから投げたのは嫌味ではなく質問だった。

「ユーナ、お前たしか……リーガーの試合を間近で見たのは今回で初めてだったな?」

「…………」

「……俺ァ別にゴルフリーガーに詳しいってわけじゃねぇけど、あいつは他のリーガーより一等飛び抜けて迫力あっただろ」

 今抱えている間抜けな怒りをぶつけるべきなのは自分自身だ。それは理性の部分で分かっているが、創一郎の言葉へ思わず噛みついてしまう。「――……なんで、」

「なんで見てないおじいちゃんが分かるの」

 そうだよ、凄かったよ。どの子よりも高く遠く、恰好良くボール飛ばしてて……みんな褒めてた。みんな、グリーンボディの、こんな凄いリーガーが今までどこに隠れてたんだ、って不思議がってたよ。

「ねぇ、とっくに知ってたならなんで教えてくれなかったの。なんで私はあの子の隣にいるべきじゃないって、不釣り合いだって教えてくれなかったの、なんで……」

 八つ当たりの熱に任せて怒鳴ったつもりだったが、本当は涙で掠れて言葉に成ってたかどうかも怪しい。
 それでも自分ひとりでは抱えきれなかった問いをぶつけたかった。

「なんで、って……仮にも昔はダークでリーガーいじって飯食ってたわけだぜ? 見ただけで大抵分かるよ、あの色の意味もな」

「だったらなんで、」

「俺はああいう真面目です、って野郎はからかってもつまんねぇし嫌いなんだ。酒がまずくなる。おまけにどっかのガキがでれでれしやがって……でもそれはあくまで『俺』の話だろ?」

「ねぇ、どういうこと?」

「まだ分かんねぇのか、アホ孫が。ってか俺の酒飲みすぎだ馬鹿」

 分からぬ話に戸惑っていると、手元にしていた缶ビールをさっと一瞬で取り上げられる。
 ちょっと、と抗議しようとした言葉の上から、少しは酔い醒ませ、となんとも真っ当な叱責が被さった。

「なぁ、たしかにあいつはスペックも技術も申し分ねぇリーガーだろうよ。おまけに過去にはでかい功績もある。で、お前は今回初めて見て、知ってびっくりしたってわけ。まぁそりゃ分かるぜ。そう、ここまでが途中式だ、ユーナ」

 酔い醒まして、顔洗って……で、あいつのこともう一回ちゃんと思い出してから答えを出せよ。

 普段はお互いに責め合ってばかりのふたり。
 しかしこの問いばかりは呆れの色もありつつ、それでもどこか優しく聞こえ、アルコールの暴力的な昏倒に脳を投げ入れたい、という自棄な気持ちがほんの少し、落ち着いた気がする。

 かん、かん、と階段を上る足音が背後に聞こえた。
 創一郎はもう自室に戻るのだろう、上から扉が閉まる音が一回した。

 誰もいない、酒もない、そんな静かなガレージに再び独りとなったが、今はこの空間が心地よく思えるのだから不思議だ。

――途中式……。

 祖父が言ったその一言が引っかかる。
 そう、たしかに今日ユーナが見てきたサーティーンは「部下」ではなかった。

 誰もが羨む過去の名誉と、どのリーガーよりも洗練された鋭い技を持つ一流の「選手」――そう、どうしてこんな凄い子が自分の隣にいてくれるのだろう、と終始思ってばかりだった。

 自分は彼にふさわしくない、彼の功績を表す色だと知らずに真似たワンピースなんて最悪だ、と思考が落ちれば底なし――自己嫌悪という名の台車にブレーキはない。

 しかしそれはユーナがただひとりで頭を悩ませただけに過ぎないのだ。
 一番大事な相手――サーティーンの気持ちを知らず!

 泣き疲れ、酒の酔いが指先まで染み渡り、じんわりと眠気に脳が鈍ってきた刹那、胸に思い出したのは――たった一打でホールインを決めた時、どのリーガーよりも眩しい笑顔で自分に手を振ってくれたサーティーンの姿だった。

 たしかに自分は彼と不釣り合いな部分ばかりかもしれない。
 それでも彼がそうやって笑ってくれる内は、慕ってくれている間は――たとえ自惚れた勘違いや夢でもいい。

 誰よりも近く、隣を歩む人間でありたいと思う。

 これが今の私が出せる答えだろうか――祖父からの問いに対するアンサー。それを暫し考えるも、酒にふやけて眠くなった脳は睡眠に黙る。

 そうしていつもと変わらず、この夜も小さなソファは眠る店主の体を支え守った。
 

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