二、それは燃え上がるグロリオサのようで
波乱の入学式から一週間。クラスメイト達はもう部活を決めたようだが、私はいまだに迷っていた。というのも、元々やりたいこともなかったし、出不精気質の私の中には帰宅部という選択もあるからだ。白紙の入部届を眺めながらついそんなことを考えてしまう。
「なんだよ、お前まだ入部届出してねぇの?」
「切原くん」
前の席の椅子に反対向きに座りながら切原くんが話しかけてきた。
一週間同じクラスで過ごしてみて、彼もそんなに悪い人ではないとわかったけれど、やけに突いてくるのは相変わらずだ。もしかしてあの日のせいでライバル視でもされてるのだろうか。
「切原くんはもう出したの?」
「俺の事は別にいいだろ。それよりお前どうするつもりなんだよ? 女子で入部届出してないのお前だけらしいじゃん」
「うん……。でも迷っててさ」
「んなもん、気になってるならとりあえず入っちまえばいいだろ?」
楽観的だなぁ。後で簡単に辞めるなんてことはできないから迷っているのに。けれど、確かに迷ってるってことは裏を返せば興味があるということなのだろうとも思う。
「テニス部に行くのが怖いなら、ついて行ってやってもいいけど。別に」
「……もしかして切原くん、気まずくてテニス部に近づけないとか……」
「バーカ! そんなんじゃねーよ! ……バーカ!」
図星だな。切原くんは焦った顔をして子供のように捨て台詞を吐きながら風のように去って行った。なんだかテニス界隈は変わった人たちが多い気がするのは気のせいだろうか。
でも、とても楽しそうなのは確かなんだ。
昼休み。クラスメイトの『ぴ』と体育館へ向かう。『ぴ』というのは『すきぴ=好きなピープル』という意味だ。体育館はさすがマンモス校なだけあってそれなりの広さはあるのだが、バスケやバレーをする生徒がいる日はほぼ他の遊びが出来ない状態になる。
私達は場所を次々に変え安息の地を探した。立海生は皆、どこでどう過ごすのだろう。私達のようにやりたいことが見つけられない生徒もいるのではないだろうか。
ぴと話している中で、ふと屋上庭園の事を思い出した。運動部の強豪校で体育会系の生徒が多いためか花を愛でに行く人は割合的にそう多くはない様子だし、安息の地にぴったりである。場所の提案をしようとクラスメイトを振り返る。
「あの」
「あのさ」
ほぼ同時に、ぴが声を上げた。
「あ、どうぞ」
「あ、じゃあ……あのさ、##NAME2##って切原くんとどうやって仲良くなったの?」
「え?」
「うち同じ班なんだけどさ、話しかけるといつも『吉田に聞けよ』とか『んなもん知るか』とか言って取り合ってもらえなくてさ」
なるほど、彼女が教室をわざわざ出たのは切原くんの話がしたかったからなのだと悟る。しかし私も切原くんとは大して仲が良いわけではない。ただきっと、心を開くまでに時間がかかるのだろうというのはなんとなく感じている。
「じゃあとっておきのコツを教えるけど……」
「えっ何何?」
「テニスの話をするとめちゃくちゃ食い付いてくれるよ」
「それはうちも知ってるー! でもテニスとか全くわかんないんだよね。ナダルとか名前しか知らんし。切原くんとの共通点が無いから全然話続かない。うち班長だからさ、なんとか話したいんだけどね。最近の悩み」
ぴが延々と話しているのに相槌をうちながら、話の中に出た『共通点』というワードにとある人物を連想した。私とあの人の共通点ってなんだろう。花が好きなこと? ううん、花は好きだけどガーデニングを楽しむ程じゃない。他に彼の何を知っている? 思い付かない、テニスがとても上手だという事以外には。
机の中の白紙の入部届を思い出す。提出期限まであと僅かだ。
「ねえ、ぴはさ」
「おん?」
「どうやって部活決めた?」
「うち趣味とかないからイケメンの先輩がいる部活入った」
「うける。バスケだっけ? マネージャー?」
「そだよ。女バス入ったら先輩見れないじゃん」
なんて欲望に忠実なんだ。ぴの逞しさを見習いたい。いや、見習うべきかはわからないけれど。でも彼女の話を客観的に聞いたことによって、不純な動機で入部するのは、特段咎められるようなことではないように思えた。
そう都合よくとらえているのは、きっと私が同じく不純な動機で気にしている部活があるからなのだろう。ただ、それでも先日見た幸村さん達のテニスに心が高揚したのは事実なのだ。
「なんだよ、お前まだ入部届出してねぇの?」
「切原くん」
前の席の椅子に反対向きに座りながら切原くんが話しかけてきた。
一週間同じクラスで過ごしてみて、彼もそんなに悪い人ではないとわかったけれど、やけに突いてくるのは相変わらずだ。もしかしてあの日のせいでライバル視でもされてるのだろうか。
「切原くんはもう出したの?」
「俺の事は別にいいだろ。それよりお前どうするつもりなんだよ? 女子で入部届出してないのお前だけらしいじゃん」
「うん……。でも迷っててさ」
「んなもん、気になってるならとりあえず入っちまえばいいだろ?」
楽観的だなぁ。後で簡単に辞めるなんてことはできないから迷っているのに。けれど、確かに迷ってるってことは裏を返せば興味があるということなのだろうとも思う。
「テニス部に行くのが怖いなら、ついて行ってやってもいいけど。別に」
「……もしかして切原くん、気まずくてテニス部に近づけないとか……」
「バーカ! そんなんじゃねーよ! ……バーカ!」
図星だな。切原くんは焦った顔をして子供のように捨て台詞を吐きながら風のように去って行った。なんだかテニス界隈は変わった人たちが多い気がするのは気のせいだろうか。
でも、とても楽しそうなのは確かなんだ。
昼休み。クラスメイトの『ぴ』と体育館へ向かう。『ぴ』というのは『すきぴ=好きなピープル』という意味だ。体育館はさすがマンモス校なだけあってそれなりの広さはあるのだが、バスケやバレーをする生徒がいる日はほぼ他の遊びが出来ない状態になる。
私達は場所を次々に変え安息の地を探した。立海生は皆、どこでどう過ごすのだろう。私達のようにやりたいことが見つけられない生徒もいるのではないだろうか。
ぴと話している中で、ふと屋上庭園の事を思い出した。運動部の強豪校で体育会系の生徒が多いためか花を愛でに行く人は割合的にそう多くはない様子だし、安息の地にぴったりである。場所の提案をしようとクラスメイトを振り返る。
「あの」
「あのさ」
ほぼ同時に、ぴが声を上げた。
「あ、どうぞ」
「あ、じゃあ……あのさ、##NAME2##って切原くんとどうやって仲良くなったの?」
「え?」
「うち同じ班なんだけどさ、話しかけるといつも『吉田に聞けよ』とか『んなもん知るか』とか言って取り合ってもらえなくてさ」
なるほど、彼女が教室をわざわざ出たのは切原くんの話がしたかったからなのだと悟る。しかし私も切原くんとは大して仲が良いわけではない。ただきっと、心を開くまでに時間がかかるのだろうというのはなんとなく感じている。
「じゃあとっておきのコツを教えるけど……」
「えっ何何?」
「テニスの話をするとめちゃくちゃ食い付いてくれるよ」
「それはうちも知ってるー! でもテニスとか全くわかんないんだよね。ナダルとか名前しか知らんし。切原くんとの共通点が無いから全然話続かない。うち班長だからさ、なんとか話したいんだけどね。最近の悩み」
ぴが延々と話しているのに相槌をうちながら、話の中に出た『共通点』というワードにとある人物を連想した。私とあの人の共通点ってなんだろう。花が好きなこと? ううん、花は好きだけどガーデニングを楽しむ程じゃない。他に彼の何を知っている? 思い付かない、テニスがとても上手だという事以外には。
机の中の白紙の入部届を思い出す。提出期限まであと僅かだ。
「ねえ、ぴはさ」
「おん?」
「どうやって部活決めた?」
「うち趣味とかないからイケメンの先輩がいる部活入った」
「うける。バスケだっけ? マネージャー?」
「そだよ。女バス入ったら先輩見れないじゃん」
なんて欲望に忠実なんだ。ぴの逞しさを見習いたい。いや、見習うべきかはわからないけれど。でも彼女の話を客観的に聞いたことによって、不純な動機で入部するのは、特段咎められるようなことではないように思えた。
そう都合よくとらえているのは、きっと私が同じく不純な動機で気にしている部活があるからなのだろう。ただ、それでも先日見た幸村さん達のテニスに心が高揚したのは事実なのだ。