トリッシュ
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「ねえ、その頬紅、何処の使ってるの?」
始まったのはそんな突拍子もない会話からだったような気がする。
「頬紅…?なんのこと?」
私はわざと惚けている訳ではなくて、本当にわからないことだったので何の他意もなくトリッシュに聞き返した。
「え?…そのピンク色の頬、何かつけてるんじゃあないの?」
「ううん、何もつけてないわ。」
トリッシュは酷く驚いた顔をして私を見やる。
慣れない凝視に私は少し落ち着かなくて、視線を少し下へ追いやった。
「じゃあその長い睫毛は?流石にマスカラくらいしているでしょう?」
「してないわ。あれ難しそうで怖いじゃない。」
「難しくないわよ…因みにリップとかもしてない訳?割には合わない色しているけれど。」
「ええ。というか割には合わないってそれ…喜んでいいの?」
何故だか知らないけど大きな溜め息をつかれる。
呆れたような、またそれとは違う別の感情を孕んだトリッシュの一方で、私は質問の意図がわからなくて頭上にハテナマークを浮かべたままでいた。
「どうして化粧しないの?こんなに良い素材なら、きっと絶世の美女になると思うわよ?冗談抜きで。」
「そんな簡単になれるものじゃあないと思うわ。絶世の美女って。」
するとトリッシュは私の顎を軽く持ち上げて先程よりも尚更私の顔をじっ、と見詰めてくる。
こんなにも顔が近いと本当に落ち着かない。
「なれるもんよ。なまえ位の顔立ちなら…ねぇ、リップだけでも塗ってみない?」
トリッシュは化粧ポーチを取り出すと可愛らしい容器の、恐らくリップグロスであろうものを手に取った。
何がトリッシュをそこまで行動的にさせるのか、少しの疑問を抱きつつも私は減るものじゃあないし、と安直な気持ちで承諾をした。
「じゃあ、塗るから口元変に力入れたりしないで。私の言われた通りの事をして。」
たかがリップ、と思っていたけれど何やら塗る過程だとか塗り方だとか、色々あるらしく、女の子は本当に大変ねなんて何処か他人事みたく考えてしまった。
そんな半分上の空な私だが、トリッシュに言われたことに対しては即座に対応していれば、塗り終えたのかトリッシュが満足そうに目を細めた。
「さ、どう?口元だけでも中々変わるもんでしょ?」
鏡に写る私は、まあ、どことなく変わったような気がする程度のものだが、不思議なことに心は少しばかり踊った。
「ありがとう、トリッシュ。」
「良いのよ御礼なんて。勝手にやったことだし…あ、そうだ、そのグロスあげる。」
本来ならば私がなにかしらお礼をあげるものなのに、トリッシュはいとも簡単に恐らく値は張るだろう女の子の大事な必需品を友人である私に手放した。
「さ、流石に悪いから良いわよ…」
「良いの。リップなんて私いくつも持ってるし。折角なまえにあう色なんだから、あげる。」
「でも私、トリッシュみたいに綺麗に塗れないわ。」
「わからなくなる度に教えてあげる。だから貰って?」
少し強めのトリッシュの押しに私は呆気なく負けてしまい、その日は素直にリップグロスを受け取った。
その日以来、トリッシュは私と会う度にまた別の化粧品を進めてきた。
そして私に合うものがある度に「似合ってるからあげる」の一言で私へ化粧品を流していき、ご丁寧にコツまで教えてくれた。
最初こそ、本当にトリッシュ悪くて受けるとるのに抵抗があった私だったが、トリッシュの教えがあってか、それとも私が化粧に興味を持ち始めれたおかげか、そのトリッシュの自身にとってなんの得がない行為は私にとっては天の恵みほど意味のなす行為になっていった。
「なまえ、早速私が前あげたアイシャドウ使ってくれてるの?」
「ええ!トリッシュったらセンス良いんだから…この色、凄く気に入ってるわ。」
前まではちんぷんかんぷんだった化粧品の話を、今となっては嬉々として話をできている。
どれもこれもトリッシュのせい…否、お陰?
「それは嬉しいわ…そうだ、今日も渡したいものがあるの。」
トリッシュはいつものように鞄から何かを取り出そうとしている。
私は若干申し訳ない気持ちになるが、その反面、凄く楽しみにしているのも事実なので、トリッシュの次の行動を待った。
トリッシュは変に緊張をしているようでいつもの頬紅とは違った色の頬をしていた。
そんなどうでも良い事を考えてる私の前に出されたのは、高級そうな小さな箱だった。
「何これ?開けても良いの?」
「良いわよ。」
いつもとは違うプレゼントに少しだけ困惑しつつもその小さな箱を手にとって素直に開くと、そこには可愛らしい指輪が入っていた。
「こ、これ…?」
「指輪。きっと私からのやつなら似合うと思って。」
完全に動揺をしてしまう私だが、照れてることは頬の色を見れば一目瞭然なのに、変に余裕がある振りをするトリッシュを見ると心の何処かでは安静を取り戻してきた。
「…ふふ、」
「何笑ってるのよ。」
「んーん、ちょっと段階が早いんじゃあないかなって思っただけよ。」
「…私だってそう思ってたわ。」
私に心の内が悟られていることに気がつけばばつが悪そうに目線をそらした。
「けどなまえ、私の予想以上に綺麗になってっちゃうんだもの。焦りだってするわよ。」
先ほどとはうって変わって、子供みたいにふてくされて見せたトリッシュに、私はキュン、と胸が締め付けられた。
「何それ、可愛い。トリッシュ。」
「なまえには負けちゃうわよ。」
「そんなことないわ。…ねえトリッシュ、いつもみたいにこれどんな風にすれば良いのか教えて。」
完全に主導権は私の方へ流れた気がした。だから今日は、私がトリッシュをかき乱したくて、わざと意地悪な質問をしてみた。
「…貸して。私がつけてあげるわ。」
半ば私の返答を聞かず私から指輪を取り上げると、私の薬指へと通していく。
「後は…私に永遠の愛を誓うだけ。」
奥でぴったりと指輪がはまったのを確認したあと、照れることを吹っ切れたトリッシュは私をしっかりと見詰めた。
私の答えは一つ。
「勿論、誓うわ。」
トリッシュの顔に笑顔と、緊張がほぐれたからか少しの涙が綺麗に伝う。
私はそんなあべこべなトリッシュの表情が可愛くて、それと言葉にできないくらい嬉しくて、笑みをこぼした。
二人して一頻り感情に浸った後、お互いの将来について語り合った。そして、
「ねぇトリッシュ、これから先もずっと、私に色々諸々、いっぱい教えてね。」
私の願い、叶えてね。
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