ブチャラティ
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君はいつだって、俺を困らせて居たね。
お転婆なもんだから何処に行くのも危なっかしくて、目を離せなかった。
それに加えて悪戯好き。手持無沙汰になれば俺の頬をつついてみたり、俺のベッドに潜り込んでいたり。この前の、「実家に帰らせていただきます」って手紙を置いて何処かに行っちまった時は、本当に焦ったよ。心臓に悪いからもうそんな事はやらないでくれよ?
たまにヒヤヒヤするが、そんな子供っぽい所が可愛くて仕様が無い。なんて言ったら君は目に見えて不機嫌になる。それじゃあまるで親子みたいじゃない、って。そんな所も愛しいけどな、そういうと子供扱いしないでってまた怒ってさ。
こんなの、周りから見ればとんでもないバカップルだと思う。
でも周りの目を気にも留めれない位君には愛情を注いでいたい。つまり俺は、もうどうしようもない位君の虜って訳だ。
だから君にも俺と同じ位俺を愛してほしいし、何か"形に残る愛情"が欲しい。
日にちを重ねるごとに、その気持ちは強くなっていった。
だから―――
「ただいまー。」
「おかえり。なまえ」
「えっ、ブチャラティ!?珍しく今日は早いじゃない!!」
なまえは疲れた顔を一転させて嬉しそうに顔を明るくさせた。
表情が変わった理由は明白だ。少し自意識過剰な考えをするが、いつもはこういった挨拶が出来ない程に帰りが遅い俺が今日は珍しくなまえを出迎えたからだろう。
「今日は大事な日だからな。」
「大事な日?」
背中に手を回し抱き着いてくるなまえを抱き締め返して幸せな気分に浸っていたが、俺の言葉を復唱してきょとん、とした顔を浮かべられると思わず肩を落としてしまう。
「俺となまえの記念日、だろ。」
「あれー?そうだったかしら。」
「おいおい、この前俺はうっかり忘れたときは怒って三日間は口を聞いてくれなかった癖してそれかい?」
「ふふ、冗談よ。この前のブチャラティとは違って私はちゃんと覚えてるわ。」
「ほら」といってなまえから小奇麗な箱を受け取る。
上げて落として、それからのあっさりした渡し方に意表をつかれてしまった気がして、なんとなく解せない気持ちになった。
「…ありがとう。前々から思って居た事だが、サプライズやら何やらに関しては君に勝てる気がしないな。」
「あら、勝とうなんて思って居たの?早めに諦めたほうが良いんじゃない?」
ふふ、と悪戯に微笑むなまえに心を射抜かれつつ箱を開けると、そこには普段使いしやすそうなネクタイとネクタイピンが入っていた。
流石なまえのセンスと言ったところか。俺の好みぴったりの物だ。
礼を言って、それらが入った箱を一旦しまうと、俺はなまえが帰ってくるまでに準備していた晩飯を並べていった。
「わぁ、凄い。ブチャラティはなんでもできるのね。」
「そんなことない、俺なりにどうサプライズをしようか考えた結果がこれさ。やっぱり君には適わない。」
二人分のワイングラスへワインを注ぎ終えると、「乾杯」とワイングラスをぶつけあった。
「毎年思う事だけど、記念日が来るのって早い気がするわ。」
そう思わない?と同調を求めてくるなまえに対し、俺を首を縦に振った。
「嗚呼、そうだな。好きな人と居れる月日ってもんは、こんな幸せなんだって改めて思うよ。」
「…自分が恥ずかしい事言ってるって自覚はある?ブチャラティ。」
恨めしそうに此方を見てくるが、俺は思ったことを言った迄であって、なんの他意も無いので反省はせず、その言葉は聞こえなかった事にする。
「でも、案外間違っちゃあいないだろう?」
思い合って居る者同士、こういう気持ちであるのはなんら不思議な事では無い事を指摘すれば、今度はなまえが恥ずかし気に首を縦に振った。
「でも、でも狡い。いきなりそう言う事言うんだものブチャラティは。」
「なまえだっていつもいきなり可愛い事をやりだすじゃあないか。お互い様だろ?」
「そういう事を言って欲しいんじゃあないわよ!」
こんな風に、時折照れ屋ななまえを翻弄しつつ食事を進めて行くと、愛する人との食事ってのは本当に時間が経つのが早いもんで、食事を開始した時から既に2時間程時刻が経過していた。
「あー美味しかったわー!御馳走様!」
いい具合に酒も入ったなまえは別に何をやっている訳でも無いのに楽しそうに笑いながら手を合わせた。
「デザートも有るんだが…今日は止めとくか?」
「何それ聞いてないわ!食べるに決まってるじゃあないの!」
「はは、じゃあ準備してくるからちょっとだけ待ってて貰っても良いかい?」
「ええ、勿論」
料理の量を調整しておいて良かった。
俺は自分の賢さに少しばかり自惚れた考えをしつつ、冷蔵庫から薔薇をイメージにした洒落ているケーキを取り出すとなまえの元へ持って行った。
「すごーい!ケーキ?薔薇?可愛いわねー!」
いかにも女子受けしそうな見た目らしく、なまえは目をキラキラと輝かせてケーキを絶賛した。
そんな姿に安堵と、愛らしさを感じつつケーキを食べやすいように切り分けた。
「ブチャラティ!私これが良いわ!」
「そう言うと思ったよ。」
なまえが選んだのは、他のものより上のクリームが少し多く乗っているものだった。
カロリーやら何やらと、普段は口煩く気にする性格ではある癖に、本当は甘い物を鱈腹食べたいのだろう。
俺は指定されたものを皿に乗っけて遣り、自分の分も乗っければ二人でケーキを口に運んで行く。
美味しい、と表情を綻ばせるなまえを見て、心なしか俺の表情も柔らかくなった気がした。
「これも作ったの?」
「まあな、結構頑張っただろう?」
「ええ、本当にすごいと思うわ。凄く感動…あれ?」
突如なまえの表情が複雑なものに変わり、近くにあったティッシュを何枚か手に取ると、口元をそれで抑えた。
なまえはティッシュの中にある小さな違和感を凝視すると、慌てた様子へキッチンへ向かい、水で洗い流した。
「え…これ…」
綺麗に洗い流したそれを何秒も見詰めた後、今度は俺に視線を送った。
俺は珍しく固まるなまえに近付いて頭を撫でると「サプライズ大成功だな」と微笑んだ。
「これ、指輪でしょ?なんでケーキの中に入れちゃったのよ、」
「君をどうにかして驚かせたくてさ。ビビっただろう?」
正論めいた悪態を述べられると俺は笑ってなまえと今一度視線を合わせた。
「…なまえ、俺は…ずっと前々から思って居たんだが…」
いざ言葉にしようとすると何故か喉が詰まって仕舞って、少しの沈黙が産まれるが、なまえに頬を優しく撫でられると高くなった心拍数が安心からか、少し落ち着いてきた。
「ずっと思って居たんだが、俺は"愛してる"だとか"好き"だとかそういう言葉とかその場限りの行為だけじゃあなくて、形に残ったり目に見える愛情が欲しいと思っている。」
なまえは俺の話を真剣に聞こうと此方を向いているが、もう何をされるのかは勘付いているのか、瞳は少しばか涙で揺れて居た。
「例えば…その指輪だったりとか…後は、ファミリーネーム、とかさ。」
瞬きをして落っこちて仕舞った涙を親指でふき取って、俺はゆっくり跪いた。
「もし君も同じ気持ちでいてくれるなら、俺の言葉を受け止めてほしいし、これからも悪戯やらその持前の可愛さで俺を困らせてほしい。」
ぐすっ、となまえが鼻を啜る。
俺は一度大きく深呼吸してから、改めてなまえを見詰める。
「俺と、結婚してくれないか。」
なまえは嗚咽をしながら泣きじゃくってしまった。
俺はこんな泣かせるつもりはなくて少し参ってしまったが、なまえの返事をじっ、と待った。
「もち、ろん…良いに、決まってるわ。」
小さな声で言われた返事を聞き逃す訳が無く、俺ははっと、立ち上がり、なまえを抱き締めた。
「ありがとう、なまえ」
今度は俺も涙で視界が揺らいでしまった。
プロポーズってのは難しいもんだ、けど、ずっと計画していた事が成功したのは本当に嬉しいし、何よりこれからの未来がより一層明るくなった気がした。
この気持ちを今すぐにでも共有したいが、二人で会話を出来るような状況では無い為、今は抱き締め合う事でその気持ちをそっと共有することにした。
何時間かして、俺となまえは寝床についた。
一度口に含んだ指輪なんぞ使いたくないだろう、新しい物を用意すると言ったのだが、なまえは断じてその言葉を聞かず嬉々とした様子でその指輪を薬指にはめていた。
「ねえ、結婚式はいつにする?」
「そうだな…とりあえず近いうちには。今はそんな事考えられる程頭が回らないな。」
「ふふ、そうね。…ねえブチャラティ、本当にありがとう。」
「礼を言うのは俺もだ…けどその前に、」
「何?」
「なまえもそのうち"ブチャラティ"になるんだ。呼び方を変えよう。」
「なっ…まあ、それはそう、だけど…うーん…慣れるかしら…新しい呼び方で…」
悶々とするなまえの様子を見て思わず俺が笑っちまうと、なまえも不服そうに頬を膨らませていたが、俺の笑いに釣られて笑顔になった。
こうやって何年も、何十年も君とこうやって笑い合いたい。
けど、今は、将来の設計を立てられない程にこの幸せな空間に浸って居たい。
愛しい悪戯好きな君へ、俺の一世一代の悪戯を。
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