ジョルノ
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※原作設定改変
日が沈んだ暗い空に響くのは、雨が強く振る音と一人の少女の我儘な言葉であった。
「嫌よ、何を言われたってこの気持ちは変わらないわ。」
「なまえ、そんな我儘言わないの。」
「絶対に嫌!お母さんとお父さんが決めた相手と結婚なんて!」
少女、なまえはどんなに両親に優しく諭されても決して首を縦には振らなかった。
好物すらわからなければ価値観もわからない相手との結婚。ロマンチックな夢を抱いているなまえからすれば、それはとんでもない仕打ちであった。
両親はそんな様子にすっかり困り果ててしまった。
両親にも、我が子には自由に生きてほしいという願望はあるがこの家は名高い貴族であり、血筋にも家柄にも拘りを持つ家系である為に、親が決めた相手との婚約が暗黙のルールとなっているのだ。
それにいつも、なまえの婚約者になりそうな者達はその地位から崩れるような事を仕出かしてしまうので、今回の相手はやっとのことで決まった婚約であるから両親は必ずその者と結婚をして欲しがっている。
「それに私!もうとっくのとうに結婚の約束しているわ!」
爆弾級の発言に思わず固まる。
一体いつ、どの男と、貴族か伯爵か…それともそれ以下の?両親、特に父親は色々と頭を回した。
「ジョルノと!」
それは、この家に前々からいる使用人の名前であった。
ジョルノとは、遊び歩く母親と気に入らないことがあれば暴力を振るう義理の父親との家庭で生まれ育ち、その家庭は対して裕福と言うわけでも貧乏という訳でもなかったが、単にジョルノが目障りであった為に、なまえの家に売られた子供だ。
ジョルノとなまえは比較的年が近かった為か主従関係を感じさせない程仲が良い。
だから幼いなまえはそんな事を口走ったのだろう。
「それは、小さい頃の約束だろう?もうジョルノも忘れてるよ。」
「そんなことないわ!私が覚えているんだからジョルノもきっと……」
「ふふ、あのときのなまえったらジョルノの仕事を邪魔ばかりして…本当大変だったわねぇ」
「…ッもうお母さんまで馬鹿にして…!」
子供の頃の"ごっこ遊び"の一貫だろう信憑性の無いプロポーズの正体がわかれば思わず小さい頃の二人を思い出して両親は和んだ。
しかしなまえ本人は至って真剣らしく、真面目に取り合ってくれない二人に嫌気がさし、まだ話は終わっていない事を告げる親の声を背に早歩きで部屋を後にしてしまった。
「もう…なんなのよ~…」
なまえは依然納得できないまま自分の部屋に着くなり直ぐ様倒れこんだ。
そして思い浮かべるのは使用人であるジョルノのことだった。
確かに両親の言う通り、ジョルノとの結婚の約束は両者共に幼い頃した単なる口約束の事だし忘れている可能性が大いにある。けれど、実際のところ、"ジョルノと結婚する"なんて口走ったのは単に親が決めた相手との結婚を避けたいが為の勢いで言ったものではなく、なまえは本気でジョルノに好意を寄せていて、本気で結婚を考えているからであった。
結婚するなら絶対ジョルノが良い。一緒にいて楽しいし、話だって合う。そう考えてはいるが、どうやったって親が決めた相手との結婚という事から逃れられないことはわかっていた。
それに、どんなになまえが「好き」とか「愛してる」だとか本気と冗談半々で言ってみても、なんとなくスルーされてしまったり如何にも従者であることを改めて認識させられる態度を取られたり、脈が無い事は明白だ。結婚はきっとできない。
貴族は貴族と、平民は平民と。
それがこの国の掟であり、それに何倍も忠実に従っているのがこの家だからだ。
「なまえ」
聞き慣れた声がノックの音と共に聞こえると、アンニュイな気持ちは少しばかり軽いものになった。
「ジョルノ…?一体どうしたの」
「…アロマテラピーを炊こうと思ったんです。きっと疲れてるでしょう。」
扉を開ければその一式をもったジョルノが優しい笑みを浮かべた。
このタイミングで来るという事は、親から何か言い付けられたのだろうか。ふとそんな事が過るがなんとなく気分は良くならない話題なのですぐに考えるのをやめれば部屋の中に入るよう促した。
「嬉しいわ。私、やっぱりジョルノの事大好き。」
「…それは何年経っても変わりませんか?」
「…え?」
「いえ…なんでもないです。」
なんだかいつもの自分の立場を理解したジョルノらしからぬ発言に、少しの疑問を抱きつつも透明な液体が徐々に水蒸気になり部屋に充満していく過程を若干上の空になりながらもなまえは見詰めた。
少しツン、とした梅雨っぽい独特な香りが鼻を掠め、なんだか気分が心地よくなって、それと同時に、ふと少しの違和感を感じた。
どうしてだかわからないし、本当に突拍子の無いことだけれど、いつものジョルノじゃあない気がする、と。
いつもはこういうときの沈黙も幸せなはずなのに、今日はむず痒く感じて、耐えきれず口を開いた。
「私何年経ってもきっと好きよ。神に誓うわ。」
「さっきの事は忘れてください。」
「忘れたくても忘れられないわ、私凄く嬉しかったのよ、やっと私に対してそういう気持ちを抱いてくれてる気がしたんだもの。だって、いつもジョルノは私に興味ないみたいな振りばかりして…」
今日はなんだか私もおかしい、若しくは私がおかしいだけなのか、なまえは細かく思考を巡らせることができなくなっていた。
いつもはこんなにまでジョルノと愛について語ってはいなかった。否、ジョルノがそれをいつも拒んでいた。
でも今日はそれをしない。
相も変わらず違和感を感じるなまえだったが、そんな余裕が無くなるほどに思考回路は段々と拙くなっていた。
どこか熱っぽい なまえの頬にジョルノは手を添える。
「今までそんな態度を取ったのは、貴女が本当に僕を好きかどうか、自信が持てなかったからなんだ。」
今まで見たことがないほど真剣な瞳で此方を見詰めるジョルノに対して、言葉が出ずなまえはじっと次の言葉を待った。
「君の言う"好き"は本当に恋愛感情のものなのか、思春期の心の迷いではないのか、しっかり判別がついてから僕は行動をしようと思っていた。けど」
「…まさかあの男から結婚の話が来てしまうなんて。予想できませんでした。」
心底悔しそうに顔を歪めるジョルノをなまえはなんとかしてあげたくなり、そっと手を伸ばすと此方からもキメ細かい頬へ手を添えた。
幾分か表情は軽くなった。
「私、嫌だわ。何も知らない相手と結婚をするなんて。…ジョルノ、お願い、私と結婚して?いいでしょう?」
そのタイミングを見計らってなまえは気持ちの勢いに任せてお互いの鼓動がわかるくらい密着するとジョルノに直接頼み込んだ。
ジョルノは少し揺らいだように見えたが、首を小さく横に降った。
「君と僕では身分が違いすぎる。だから無理なんだ。……今は。」
依然として申し訳無さそうに両者にとって辛い事実を語るジョルノであったが、さりげなく背中へ手を回すとなまえを怖がらせぬようゆっくりとベッドへ押し倒した。
「だからいつか、その時が来たら、必ず僕は君を嫁に貰う。誰に反対をされても。」
なまえは少し驚いたように目を見開くが、抵抗をする素振りは見せないでいた。
「いつかって、いつ?」
「わからない…一年後かもしれないし、十年後かもしれない。はたまた、君がこの約束を忘れたときかもしれない…けれど、僕は必ず君の元へ行くよ。約束する。」
小さな頃の様な口約束に、すがり付いても良いのだろうか。
後向きな考えがなまえの頭を過るが、ジョルノの真剣な眼差しに乙女心はいとも簡単に撃ち抜かれてしまい、素直に首を縦に振った。
「絶対よ、ジョルノ。」
「勿論です…いつか、必ず。」
ジョルノは優しくなまえの額へ口付けを落とした。
するとジョルノは、ぼそり、と「どうやらパチョリの効果が僕にも効いてきたみたいだ」と溢した。
なまえは一体なんのことだかわからず、ぽかん、とジョルノを見詰めているとジョルノが懇願するような瞳でなまえを見詰め返した。
「こんな思い、曝け出したら君は嫌になるかもしれない…けど、君も僕と同じ気持ちなはずなんだ。」
違いますか、とジョルノが同調を求める。
なまえはそういう親が顔を顰める様な事とは無縁の人生を歩んできたので、いまいちそういう"欲"がどういうものなのか、わかりはしないがそういう知識は知人からある程度拝借したことがあるので、きっとそれはこういうことなんだろうなと何となく理解していたので、小さく頷いた。
「でも、"今は"そういうの駄目なんじゃあないの?」
「それとこれとは別ってしてくれないんですか?…意地悪な人だ。」
意地悪な質問にすっかり困り果てたジョルノであったが、声色やら態度やらからは、何処か余裕を感じさせられた。
「しかし、君だって思っているでしょう?折角思いが通じあったのにこのまま終わるのは勿体無いって。…僕はそう思う。だから君を抱きたい。」
率直なジョルノの欲求に、惚れた弱味なのか、なまえはぐうの音も出なくなってしまった。
「駄目ですか?」
今度は子犬のような瞳でそんなことを訊ねられては、断るものも断れなくなってしまった。
なまえは頬を赤く染めながら、ばつが悪そうに視線をそらした。
「駄目じゃない。良い、けど…痛くしないで。」
可愛らしい頼みにジョルノは興奮から背筋を震わせた。
「勿論です…だからなまえ、僕を拒まないで。」
徐々に顔を近付けていけば、途端に貪る様な口付けていく。
部屋には梅雨の香りが満遍なく散らばっていった。
―――それは、欲情を煽るパチョリの香り。
To be continued.