ダークヒーローが誕生した日
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キッド海賊団のアジトは、世界各地に存在する。自ら開拓した土地もあれば、海賊らしく先住民から奪った国もあって、それは彼の悪名に磨きをかけていた。
彼が所有するアジトを奪おうと、盗賊やほかの海賊が乗り込んで来る、平和とは程遠い毎日。その中で、小さな二つの影がドタバタと国中を駆け回る音が響いている。
「お頭ーっ!!レガートがまたおれの武器を無くしやがりましたーーっ!!」
「無くしてねェよ!ワイヤー!嘘つくな!おれはおやじの真似して、じしゃくの実験してただけだもん!」
まだ五歳に満たない男の子が、小さな手でズボンをぎゅっと握って抗議する。その瞳はミアと同じ、爛々とした輝きを放つ黄色だった。名を、レガートという。
「ガタガタ騒ぐな。レガート、ワイヤーの武器見つけるまでお前は飯抜きだ……おい、アリア。お前は人の頭の上をジャングルジムにするんじゃねェ」
ソファにドカリと座っているキッドが、自分のツンツンとした赤い髪を容赦なく引っ張っている女の子をを大きな手でひょいと抱き上げた。少女の名前はアリアだ。アリアは父親譲りの勝気な笑みを浮かべ、キッドの首元を指差した。
「親父の首にはなんで、ママみたいなイチゴがないのー?」
「あれはミアが好んで刻んだもんだ。俺がイチゴなんか付けるかよ」
キッドは顔をわずかにそらし、ふんと鼻を鳴らす。不器用な態度とは裏腹に、アリアを抱き上げるその左手の「義手」の動きは、壊れ物を扱うようにどこまでも優しかった。
その時、リビングの重い扉が開き、明るい声とともに影が滑り込んでくる。
「ただいまー。ねぇ聞いてよイチゴちゃん!今日の街の買い出しで変な男たちに絡まれちゃってさぁ!暇な奴がいるもんだな!」
相変わらず様子で帰ってきたのは、キッドのパートナーであり、レガートとアリアの母親――ミアだ。
「ママーっ!!」
レガートと、キッドの腕からすり抜けたアリアが、ミアの長い足元へと飛びつく。ミアは左腕で双子の姉弟の頭をぐしゃぐしゃと撫でると、まるで聖母のような優しい笑を浮かべた。
「レガート、外まで聞こえてたぜ。ワイヤーの武器で遊ぶな。使えもしねェのに、バカなことして死んだらどうするんだよ。あとアリア、キラーの仮面の中にオモチャ詰めるのはもうやめなさいね」
「アハハ!ママって心配性〜」
「えー、だってキラー面白いんだもん!」
遠くのキッチンから、皿を洗うキラーの「ファッファッファ、俺は一向に構わんがな」という気の良い笑い声が聞こえてくる。
ミアは子供たちを床に下ろすと、ソファのキッドの隣にどさりと腰掛けた。
自然と、ミアの右腕のトライバルタトゥーと、キッドの大きな手が重なり合う。
「……おい、ミア。また無茶したんじゃねェだろうな」
「してない。ンフフ、心配性だなぁイチゴちゃん。あたしたちのアジトに入ってきた輩はちゃーんとめちゃくちゃにしてやったから気にしないで」
「そのことじゃねェよ」
「え?」
ミアが「じゃあなんのこと?」と続けると、キッドの顔を覗き込んでニカッと笑う。
かつて「寂しさ」を隠すために狂気の鎧をまとっていた少女は、今や世界で一番強く、そして深い愛を持つ母親になっていた。
キッドは呆れたようにため息をつきながらも、愛おしそうにミアの短い髪をガシガシと撫で回す。
「クソ野郎をぶっ殺すのは当たり前だ。お前に怪我がねェか聞いてんだ」
「……!イチゴちゃん……!」
目をまん丸にするミアは、照れ臭そうに笑ったあと「えへへ、嬉しい」と呟いてキッドの肩に頭を置いた。
「怪我なんてしないもん。だって、あたしにはイチゴちゃんがくれた左腕があるし、護りたいものがたーくさんあるんだもん」
冷たい義手からは、感じないはずの温もりが伝わって。
キッドとミアの海賊一家は賑やかで、ほんのり治安が悪い。けれども世界一温かい一日は、今日も続いていく。
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