ダークヒーローが誕生した日
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双子がいる時のヴィクトリアパンク号の朝は、船長室から響いてくる、爆音で始まる。
「おい! 誰だ!おれの義手のパーツを隠した奴ァ!」
船の先頭から端まで伝わるキッドの怒鳴り声。寝起きの一発とは思えぬ声量に、彼の隣で眠っていたミアは「もう朝ぁ?」と眠そうな声を出す。
「あのクソガキ共!!」
汚い言葉を使うが、その声には殺気よりも困惑が滲んでいて、微かに幸福の色も滲んでいた。
額に太い血管を浮かべている彼が射抜くような目で見ているのは、まだ幼い双子。自身と同じ真っ赤な髪ミアと同じ紅茶色の髪をした男女の双子が、部屋の隅にあるスペースで、鉄屑を積み木代わりにしているのだ。
「マーマ!みーてー!おしろー!」
「パパのて、かっこいー!」
しかも、ケラケラ笑いながら遊んでいる。父親に睨まれてもちっとも泣かない二人には、母親譲りの尖った犬歯がある。
「ンフフ、あれぐらい貸してあげたっていいじゃん。将来は立派なメカニックか、あるいは……」
口をひん曲げているキッドと違って、ミアは穏やかだ。
「あんたそっくりの海賊になるかも。そのうちイチゴちゃんより強くなったりして!」
「おれを超えるなんざ百年早ェんだよ」
そう毒づきながらも、キッドはベッドから降りると義手のパーツを積み上げている、「怪獣たち」の襟首を大きな手でひょいと掴み上げ、自分の肩に乗せた。新世界を震撼させた大海賊の肩は、今や、まだか弱い双子の「特等席」なのだ。
甲板に出れば、さらにカオスは加速する。
「ミア姐さん! 坊ちゃんたちがまた大砲の導火線に結び目作ってやす!」
「頭! 嬢ちゃんがおれのナイフを『苺を刺すのにちょうどいい』って持って行っちまいました!」
「ミアー!!アリアちゃんがレガートくんのこと噛んだわよ?!」
右往左往するクルーたち。キラーが溜息をつきながら、妖怪の血を引く双子のため、栄養バランスを考えた肉々しい離乳食を黙々と作っている光景は、もはやこの船の日常茶飯事だ。
かつては殺戮と破壊の象徴だった残酷な男の周りには、今、二人の子供たちの笑い声と、それを見守るミアの温かな視線がある。
クルーからの「おはようございます、今日もチビたちは元気ですね」と海賊らしからぬ挨拶に「ありがとう」と柔和な笑顔で返すぐらい、ほのぼのしている。
「おい、ミア。……少しは休め。こいつらは、おれが見ててやる」
夕暮れ時、遊び疲れてキッドの膝の上で寝落ちした双子を眺めながら、彼は静かに言った。
「ンフフ、イチゴちゃん優しい。別人みたい……じゃないか、イチゴちゃんは出会った時からずーっと優しい」
「……うるせェ。とっとと寝ろ」
キッドはミアを片腕で引き寄せ、自分と同じ赤色の毛布を家族全員にかける。すぅすぅと規則正しい寝息を立てて眠る3人の寝顔はそっくりで、彼は自然と口角が上がった。
外は相変わらず、地獄のような新世界の嵐が吹き荒れている。
けれど、この真っ赤な船の中だけは、どんな財宝を積み上げた宝物庫よりも輝く、めちゃくちゃで、残酷で、最高に幸せな「聖域」だった。