澪→レイ
秘密裏(王賁)彩華さんごめんなさいな話
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初秋の夜なだけに外はさすがに肌寒く、薄い羽織一枚できたことを後悔する
好きな人が正妻を娶った日の真夜中に、自分はこんなところで一体何をしてるんだろう
ううん、何もする気は無いしただ思い出と言うより、感傷に浸りたかっただけ
ここで色んな話をしたな…
王賁が王翦様との事で悩んでたり、戦で自分の思っていた通りに戦えなかった時とか逆に上手くいった時とか…
お友達の蒙恬君や信君の話だったり…
今思えば私の身分では、否、きっと側近の人でも絶対に聞けない様な事を沢山話してくれた
色々考えてると涙が出てきて、私の頬に伝う涙の跡と肌を冷たい風が撫でる
「くしゅん!」
ずびっと鼻をすする
頭ではそろそろ戻らないと風邪引きそうと考えるものの身体はまだここに居たいみたい
あれからここへ来なかったというより来たくなかったという方が正しいか
なのにどうして今ここに来たかと言えば、王賁は今日式で忙しいし夜だしこんな所には来ないからである
だから今日で本当に最後にしようと来たものの名残惜しくて、なかなか帰れそうにない
こりゃ明日風邪確定だな
「っくしゅん!…はぁ〜…」
何度目かのくしゃみをし、またずびっと鼻をすする
「ばか、本当に風邪ひくぞ」
その言葉と共に暖かくていい匂いの召し物がふわっと背中へ掛けられる
幻だろうか
だって今私の横に座ってる美青年は今日正妻を迎えて、なんなら今は閨で子でも栄えてる頃であろう時間なのにこんな所にいるはずが無いのである
幻だ、と前に向き直し、はぁ…とため息を吐く
「俺は無視か?」
随分現実味のある且つ、しつこい幻の様だ。
早くあっちへいっとくれと、鼠でも払うかのように。しっしっとやってみる
「…いい加減にしろ」
幻は私の目の前にしゃがみこんで来て、あろうことか額にぴんっと、すらりとした長い中指が弾かれる
「痛っ!!!」
「夢から覚めたのか」
「ほ、ほんもの…??」
驚いた!!!
これは幻なんかじゃなくて生身の人間であった事に驚いてるのに更にその生身の人間は、私をこんなにぼろぼろにした張本人だと言うこと
「ほんもの?当たり前だろ。もう一回してやろうか?」
ふりふりふり、と強めに何度もかぶりを振る
「な、なんでこんな所に!?」
今は彩華さんとあれやこれやまで言ったところで口を押えられる
私の口からもごもご聞こえなくなり落ち着いたと判断した王賁は、再度私の隣に腰掛ける
「お前は恥というものを知らんのか」
女が下品な言葉を並べるな
と一喝されるが夜だから控えめに言われ全然怖くなかった
「うっ、ごめんなさい…」
「一体なんのつもりだ?」
「…へ?」
はて?何のつもりだとは?閨での彩華さんと王賁に対しての妄想の事?それともこんな夜中に何をしてるのかって事?
「…全部違う」
あらら、口に出てたみたい
「なぜあの日から突然来なくなった」
あー、それね
核心ついてきたねぇ。え?もしかしてわからないのかな
我ながら分かりやすいと思ったんたけど、いや気付くでしょ普通
「意外と野暮なこと聞くんだね」
そう言うと眉と眉の間が寄る
「なんの事だ」
なんかこの件(くだり)、さっきもやったような気がするけど…まぁいいか
「なんでかわからないの?」
さぁ考えるがいい、君の頭ならわかるはずだよ王賁君
「さぁ?わからんな」
くぅー!絶対わかってるじゃん。私知ってるよその顔。王賁の意地悪する時の顔。
臨むところだ
「ふーん、王賁って意外とお馬鹿さんなんだね。馬に乗れる鹿だね、ふん」
精一杯皮肉を込めて言う
さぁ、どう出てくるかな?えぇ?
「ふっ、わかり易すぎだぞ、そんな手には乗らん。第一煽り方が餓鬼なんだよ」
「なっ!?」
ムッと膨れる私を見て、釣れた釣れたなんて笑いながら言うもんだから私もつられて笑ってしまった
「お前の事何年見てきたと思ってるんだよ」
「それはお互い様です!」
不覚にも、どきっとしてしまった自分がいて必死に隠した…つもり
「……」
「……」
いきなりの沈黙…気まずい
「…あっ、そうだ」
ん?とこちらへ顔を向ける王賁
私はある事を言い忘れてたのを思い出した
「結婚、おめでとう!」
精一杯の笑顔で伝える
「……」
「なにー?無視?せっかく人がおめでとうって言ってるのに」
そんなにまじまじと見つめられたら恥ずかしいよ
「本当に思ってるのか?」
「…あたりまえじゃん!大切な友達のめでたい日だよ?」
そう言い前に向き直る
「なら…なぜ泣いている?」
「えっ…?」
私は頬に手を当てて確かめる
「あ…」
なんで?せっかく上手くやれてたと思ったのに
私おかしいよ
「お前に…」
王賁が言いあぐねる
「…なに?」
「お前に言われると一番きついんだよ」
前に向き直した王賁は、長い睫毛の乗った目を伏せがちに話す
「ど、どうして…」
「俺の…俺の好きな女だからだ」
だからお前にだけは言われたくないんだよと言って
私とは反対の方向に顔を少しだけ背ける
綺麗な横顔は、今にも泣き出しそうでもあり、恥ずかしさに耐えきれないような顔でもあり
見蕩れてしまってた
「あの…」
わ、私の事好きって言ったの?
彩華さんは?どういうことなの?
「…も、もう!何言ってるの王賁、からかいすぎだよっ、あはは…」
ばかばか!!澪の大ばか野郎!!
王賁がからかってないことなんて顔を見て分かってるくせに!
でも…これでいいんだ
私達が互いに想いあおうとその先は無いのだから
「…っ、わかってる、どうにもならない事なんて、わかってるんだよ」
そんな悲しそうな顔しないでよ
王賁のその顔は、まるで私の心を映し出してるように見えて苦しかった
だけどそれは、本当に王賁が私と同じ気持ちだって証でもあった
「なら…わかってるなら尚更気持ちを伝えちゃ駄目だよっ…諦められなくなっちゃうじゃないっ…!」
その瞬間王賁の腕の中におさまった私はたがが外れたかのように涙が止まらなくなった
「澪…お前今諦めきれなくなるって言ったな?」
「あっ…」
もうこんなの私の気持ちを伝えてしまったようなもん
気持ちを伝えるなと言った矢先から、自分がこれだもん笑えるよね
「ならばっ…ならばまたここで今までのように会えばいいだろう…!」
「それはだめ…それはだめなの」
「なぜなんだ…!」
「…出来れば私が王賁と結婚したかった…でも仕方の無いことなんだよ。王賁は王家の嫡男で跡継ぎを、私は私でどこかに娶ってもらって子を成す。それがこの乱世に生まれた者の宿命なんだよ」
何もかも考えないでよくて、自分勝手に動いていいなら今すぐにでも王賁とどこかへ行って一緒になりたい
でもそれはお互いにとって絶対に良くない事
「澪…俺はこれまでもこれからもお前だけを愛す。お前も同じ気持ちでいてくれとは言わない…ただ覚えておいてほしいんだ」
そう言って私を押した王賁の熱を持った双眸で見つめられると、抗うことなどできず受け入れてしまった
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