澪→レイ
戯れ(main騰、sub録嗚未)
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殿が亡くなってから数日だというものの、淡々と日々は過ぎていき、軍事演習や鍛錬に全然身が入らずだったある日
「えっ…!きゃあ!」
ぼぅっとしていた私は、普段絶対有り得ない落馬をしてしまった。
「おい!大丈夫か?」おら手をかせと言いながら私を起こしてくれる録嗚未
「う、うん…ごめん」
「あぁ…いや。俺の方こそこの間は悪かったよ」
謝罪というのは相手の目を見て誠心誠意するものでは無いのかと思ったけど、さしづめあれは彼なりの照れ隠しなのであろうなと思うと可愛く思える
「ふふっ」
「何笑ってんだてめぇ!」
「ごめんごめん!…それに、私もこの間は取り乱したりしてごめん。皆同じ気持ちなはずなのに…」
「俺らがそう出来ない分お前が代わりに泣いて暴れてくれたんだから、気にするな」
そうだ。そうなんだ。騰様はあんな風にみんなの前で泣き喚く訳には行かなかったのに…私はなんて酷いやつなんだ。そうしたくても出来ない人に残酷すぎる事を言ったんだ。録嗚未に言われるまで気付かなかったなんて。ずっと見て来たのに…忠誠心はもちろん、特別な想いも私はずっと抱いていた。これは憧れなんかじゃないと気付いたのは少し前。
…謝りたい。しかし、あそこまで言っといてどの面下げて行けばいいと言うのだろう。
だけど…言える機会を見てちゃんと言おう。
「あ、ありがとう録嗚未、色々と…やけに優しいじゃない」
「あ?俺はいつも優しいだろ」
「はいはい、そーですね」
「感情こもってねーぞ?」
なんだかんだ言って録嗚未は、いつも元気付けて笑わせてくれるんだよね。
戦乱の世。いつかきっと私も録嗚未達も、そして騰様も、殿の様に散っていくのだろう。その時は私が最初がいい、なんて思ってしまったのは怒られるので私だけの秘密。
邸に戻り、幸い落馬の傷は大したこと無く終わったので昼餉を済ませようと近道するために庭を抜けると、軍長達と会う。
「あ、騰様…」
私に気付いてか分からないけど、どこかへ行ってしまう。
「騰?あぁ、あいつはやることがあるって昼餉は要らねぇってよ」
「そう…」
「今日はお前の好きなもんだっておばちゃんが言ってたが、早くしないと無くなるかもなぁ?」
「え!?それは困る!!行ってくる!!!」
「嘘も方便だな」
「なんだよ隆国。なら他になんて言えばよかったんだよ」
「…さぁな」
昼餉を済ましたあと今日はもう鍛錬もない日なので何をしようかと考えるが、何も思い浮かばない。
「演習の後なのに昼餉も食べず、大丈夫かな…」
他に考えることといえば騰様の事しかない上に、気付くと無意識に考えてるのでどうしようも無い。
うーんうーんと考えてるうちに眠気が来てしまい、たまにはいっか、とそのまま眠気に身を委ねた。
「…ん、んん?…!!」
はっと気づき、起き上がる。当たりが薄暗く邸が賑やかなので丁度夕餉の時間だろう事に安心する。いや…寝すぎか…?
「とりあえず腹ごしらえしなきゃ!」
落馬なんてしていないんじゃないかと言うくらい軽やかに夕餉へ向かう私の身体。
あの回廊の角を曲がると夕餉に有りつけるが、私も大人なので走らず、早歩きで角に差しかかる
「!?いて!!」
「いってーなおい!」
「ごめんなさ…て録嗚未か」
本当、よく会うわ…
「なんだってなんだよ!しかも謝るのやめるなよ!」
「あーあ、謝り損だった」
「てんめぇ…!」
「もぅ、」うるさいなと言おうとしたが、先程通ってきた庭の向こう側に騰様を見つける。
「お、おい!」
騰様を見つけてしまった私は録嗚未の攻撃を避けることも出来ずにいると、録嗚未が私を殴ってしまわないようにと避ければ、体勢が崩れて床に背中を打った
「いってぇ…!いきなりどうしたんだよ!」
とかなんとか言ってるけど何も頭に入ってこない。
だって、あんな騰様の顔みたらみんなそうなるよ。
騰様は、あの日以来目を合わせてくれなくなった。まるで私なんか存在していないかのように
確かに私が、もう話したくないなんて言ったけど、あそこまで徹底されるとさすがに傷つくな
「なぁ」
「…え?」
「騰のやつ、夕餉も食わないって言ってたからお前持っていけよ」
「な、なんで私が?」
「お前が持っていけば、食べてくれるだろ。あいつ、人にはしっかり食えって言っておきながら自分は殿が居なくなってからは殆ど口にしてねぇ」
なのにあいつに演習で勝てねぇんだよな、とか何とか言ってる
「私が持って行ったとしても食べてくれないよ」嫌われてるし…という私に録嗚未が深い深いため息をつく
「不器用同士ってこうも鈍いんだな」
「なにそれ、意味わかんない」
「いいからもっていけ!!」いつの間にか持ってた夕餉を渡される。どうやら私が騰様に釘付けになってる間に持ってきてたらしい。
「ちょ、ちょっと!」
「さっき俺を無視してた罰だ。じゃあな」
意地の悪い顔で自室へ戻っていく録嗚未の背中をこれでもかってくらいに睨みつけるが、当の本人はもちろん気付かず。
「はぁ…どうすんのよ、これ…」
どうするもこうするも、選択肢は持っていく他無いのだ。
二度、控えめに扉を叩く。すると中から
「入れ」と声がする。そして中へはいるとこちらを一瞥し、また書簡へ視線を戻す
「あ、あの…これ…」
そう言い夕餉が乗ってるお盆を騰様の前に差し出す
「…」
「あの…たべて、ください」
こちらに見向きもしてくれない。私の事本当に嫌いになっちゃったのだろうか
「どうして、目も合わせてくれないのですか…?私は騰様にとって居ないも同然ですか?」
まだ堪えるんだ。涙はまだ。
「…ずっと、見ていた」
口を開いてはくれたが、目線は書簡のままだ
「私はずっと、お前を見ていた。だが、あの日お前に夕餉を要らないと突き返された時、何故か私自身の事も拒絶されたように感じてしまった」
「そ、そんな!」
「わかっている。そうじゃない事は、百も承知だ」
「ならば何故…?」
「あの日のお前は…私自身だった」
「え?」私自身って…?
「私の中の感情を表していたんだ。…澪私は、私の立場がある」
立場…?そんなの今は考えなくていいのに。悲しかったら悲しめばいいのに。だって、一番辛かったのは貴方なんだから
「騰様…強がらないでください。せめて、せめて私の前だけでも…」
同時に先程庭先で見た騰様の顔が思い出される。
涙こそ出てないが、酷く悲しみに打ちひしがれる騰様の、初めて見るお顔だった。
「…私は、元から強い」
その声は微かに震えていた。あの騰様が初めて弱い部分を見せてくれた。その刹那堪らなく愛しく思い、気付けば座ったままの騰様の頭を私の胸へ抱え込んでいた
「戯れはよせ」
「私を見てきたのならこれが戯れじゃない事だとわかりますよね?」
そう言うと騰様は立ち上がり、今度は私が騰様の胸へ抱かれる
「と、騰様…?」
「………私は、一番近くで殿を支えてきたんだ」
「えぇ、知ってますよ…」
「なら教えてくれ。何故肝心な所で私は殿を助けられなかった」
「っ…」騰様が、震えている。私はなんと答えればいいかわからず、ただそのまま抱かれていた。
「悲しみは、計り知れないが、私に悲しむ権利などないんだ」
「……そんなこと、ないです…そんな事、ないです!!」私の言葉に少し肩を震わす騰様
「だって、殿、最後笑ってました…あれは、騰様なしでは無かったものだと思います」
「私無しでは…か」
「騰様が殿をそうさせたんです。何故なら騰様になら軍を任せられるから。安心して上に行けたんです。きっと今頃摎様とお二人で幸せですよ」
「澪…」私を抱く力が強くなる
「ふふ、騰様、苦しいです」
「すまない。つい……殿が居なくなった今、私は支えるべき者を失い失意にまみれていた。」
私は最後まで黙って聞こうと思い、敢えて相槌を打たなかった
「…だが、お前と言う守るべき者が居るという事も思い出した」
「騰様…」
「殿を守れなかった私が、お前も守れないかもしれないと思うと、怖くなった。……だが、怖さ故にお前を守る事を放棄した先に見える未来の方が怖かった」
放棄した先に見える未来…きっと私が殿のようになる事だ。
「私と同じ恐怖心を抱いていたのですね」
「お前もか…?」
「はい。いつか殿のように大事な人達が…って考えました。すごく怖くなって…そして騰様が居なくなってしまったら私は私で居られなくなる…そう思いました。だから今度は私が騰様を支えます」
「澪…参ったな。ずっと見ていたつもりだったはずなんだがな」
「きゃあっ!」
ひょいと私の両脇の下に手を入れ持ち上げられたと思えば先程まで騰様が書簡を読んでいた桌子に座らされる
「ど、どうされましーー「少し黙れ」
「へ!?っ!ん!ふぁ、んぅっ、くる、し…」
騰様の胸をどんどん叩くと、やがて酸素が取り込まれる
「どうした?生娘には早かったか?」
「なっ!?私だって口付けの一つや二つくらいっ…」口をぱくぱくする私を見て満足そうに見下ろす騰様。どことなく厭らしく見え、その先なんて知らないのに期待をしてしまい心拍数が上がる。
「ふ、背伸びをするな。そのうち私が全て貰い受ける」
「お戯れを!!」
「私をずっと見てきたんだろ?なら戯れじゃない事くらいわかるはずだ」
少し前に私が言った言葉をそっくりそのまま返される。もちろん自分で言った言葉であったから意味が理解出来、きっと顔が茹で蛸のように赤くなってるだろう。
「好きだ澪」
突然の言葉にぱっと顔を上げると、戯れでもなんでもない表情で言う彼は愛しいものを見るように私を見つめる
「私は、愛しています」
「もちろん、私もだ」
殿、摎様、見守ってくださっていますか?
ううん…
きっと見守って下さっているから、騰様と心が通じあえたんだと思います
お二人は、いつまでも私たちの中に…
fin.
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