主≠監。
dreaming island Ⅲ
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「……、はは……お前いま、意外って思ったろ。ホントに紅茶飲むんだって思ってる」
「!う……」
「俺は俺に変わりないんだ……本体の気持ちだっていつも尊重してる。これは当然だろう?それに美味いと感じる温度になった紅茶はちゃんと嗜まないとな……大事な人と」
「ッ……ト……」
「フフ……なんだ?顔……ほんのり赤くなって。お前がどんな表情したって、俺はお前をかわいいと思って終わるだけだぞ?」
「~……ッ…もう……」
「フッ……ほら、飲もう?名無し」
それは少し緊張が解れた瞬間でもあった。
鼻に通る茶葉の香りと、心身をリラックスさせてくれることが分かっている、それぞれのカップに注がれた温かな紅茶。
とはいえ、変わらず未来は概ね読めているのだけれど……。
待っている”それ”が先延ばしになっただけという事実は、恐らく変わることはない。
彼がただ、この部屋で護衛の為だけに一緒に居てくれているなんて思ってもいない。
それでも、この状況を作ってくれたことを純粋に嬉しいと思えたのは確かだった。
名無しはフェイクと共に口にした紅茶をひとまずは心から味わいながら、いっときのゆるりとした時間を過ごした。
「あ……ねえ。変なこと聞いてるかもしれないけど……その…味覚もちゃんとトレイなんだよね……?」
「!はは…まあ、細かい部分まで並べたらキリはないが……俺は概ねあいつだよ。それに今回は分体が俺しか居ないんだ…おかしな形容かもしれないが、前より感度は上だよ」
「っ……そうなんだ…」
「フフ。ん……ほんと、あいつの淹れる紅茶は美味いよな……よく見たら差し湯もちゃんと置いてある…。さすが俺、ハハッ」
名無しがカップを手にしている時間を思いの外長く感じていたのは、フェイクと二人きりでいることに違和感を持たなくなっていたことが原因にあったからだろう。
余所余所しさの何ひとつない、殊の外弾む会話に忘れていた笑みも戻る。
フェイクも紅茶を楽しんでおり、間接的に自身を褒めながらトレイを称え、みるみるうちにカップはその水嵩を減らしていった。
やがて名無しもまた同様に飲み終えようとしていたのだけれど、フェイクの方から差し湯用のポットの話題が出たものだから、名無しは気遣いのつもりで立ち上がった。
そっと器に手を伸ばし、そして指先に熱を感じる――。
「あ……私ももう飲み終わって…差し湯使うなら少し蒸らさなくちゃだし、ちょっと待っ……、……!!トレイ…く……、ッ……?」
立ち上がったのは、互いの二杯目をカップに注ぐ為だ。
そのためには差し湯を足す必要があったのだけれど、名無しはポットに触れたとき、ふたつの熱をその手に感じていた。
純粋な、高温による湯が器を熱していたことがまずひとつ。
もうひとつはほんのりと温かい、いわゆる人肌の淡い熱だ。
ポットを持ち上げる所作を阻むより他ない手段として、名無しの手に重なったのはフェイクのそれだった。
ゆるりとした時間が終わったのだと、名無しがそう感じた瞬間でもあった。
「ト……」
「ああ……紅茶はもういいよ、ごちそうさまだ。……なあ名無し。あいつは…”俺くん”がこうすることは想定内の筈だよな。こうしてお前の傍に置いて行ったのがいい証拠だ」
「っ……トレイくん?ッ……んん!ん……」
機の訪れは必然だった、それは分かっている。
けれど実際に目の当たりにすることで、少なからず名無しは再び僅かな緊張感を孕ませていた。
覚悟はしていても、低くなったフェイクの声音に動揺し、同時に胸をどきどきと高鳴らせる。
器を倒すまいと従順にフェイクの所作に手の動きを合わせた名無しは、立ち上がっていたそののち、自らの身を彼の膝上に委ねていた。
跨る類とは違った横座りで、近付いた上半身は腕を伸ばされ、軽く抱き締められる。
真剣な眼差しはトレイと変わらないそれをしていて、名無しが見た眼鏡の奥はあまりにもまっすぐだった。
なにより、その日トレイともろくに交わせなかったキスでさえ不意打ちとはいえあっさりと許してしまうほど、その瞬間の名無しには隙があった。
フェイクの仕草はトレイそのものであり、動揺と緊張を持つ彼女の感情をみるみるうちに波立たせていた。