主≠監。
dreaming island Ⅲ
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――――。
――。
シャワールームから寮の部屋までの数分間も、誰にも出くわすことなく軽やかに移動することができた。
それもまた開放日のおかげだろう。
人の流れが普段と変わっていたことがよく分かるものだと、改めて思わされた。
「名無し。ほら……乾いてない部分はあるか?」
「ん…、……大丈夫かな……ありがとうトレイ……」
「ハハ、お安い御用だよ。……さてと、……名無し?適当に座ってゆっくりしててくれ。キッチンで紅茶を作ってくる」
「!あ……うん…」
身体を洗い流して個室の扉を開けた後、トレイは再びエースとデュースの退室を確認していた。
勿論確信はあった。
けれどそこは万が一のことを考えての判断であり、実際本当に居なくなっていることが分かってから、トレイは名無しに手招きをした。
彼が個室の外で最初にしたのは、互いの身体や衣服に纏わりついた水分を魔法で蒸発させることだった。
トレイの魔法石がくすみ、風の類を操って無数のきらめきが身体の周辺に彷徨えば、名無しは目を見開くも一瞬、そののち乾いた自身のワンピースにも驚きをみせた。
「ミルクも要るだろう?すぐ準備して持ってくるから、ちょっと待っててくれ」
「ん……ありがと」
名無しが驚いていたのは、魔法そのものがはじめてだったからだとか、珍しいものを見たからだとか、そんな理由ではない。
まあ、多少は後者に偏っていたかもしれないけれど、あてはまるとすれば、それはトレイが魔法を私用で利用したことが珍しかったからだ。
彼は魔法をよく理解しているし、けれど濡れたものはドライヤーや乾燥機を使えばいずれは乾く。
……そうすることなく魔法を選んだのは、おそらくは時短を含め、残された同日、自分との時間を一秒でも無駄にしたくないと思ったゆえだろう。
それに、過去にケイトの個性さえも摸倣し駆使してみせた立場で、どこが珍しいと言えたものか。
名無しは単純に、まだトレイが今日という日を共に過ごそうとしてくれている、その為に魔法という手段を選んでくれたことが、その気持ちが嬉しかったのだ。
「……はぁ…」
名無しはトレイの部屋に通されると、すぐにまた抱き締められるとばかり思っていた。
けれど触れられたのは片方の肩だけだ。
耳元のすぐ傍で話しかけられても、少し此処で待つようにという指示のみだった。
これから少し、同じ時間をゆっくり過ごすのに必要な飲み物を用意する為とは分かっていても、一人になることはそれなりに不安である。
もしもトレイが戻らなかったらどうしようか。
トレイではなく他の生徒がこの部屋を訪ねてきたら、或いは……ジェイドが来る可能性だって、その最悪な万が一をどうしても考えてしまうのだ。
「トレイ…はやくもどってきて……ふぅ……」
きっとトレイは、うんと美味しい紅茶が注がれたティーポットを運んでくる。
それが楽しみなのも勿論事実ではある。
けれど名無しはトレイのベッドに飛び込むと、うつ伏せのまま顔を横にしてまぶたを閉じた。
懐かしく感じるベッドの寝心地、シーツの感触。
鼻を掠める香りに誘われる感情は、当然安堵だけではなかった。
「………ただ一緒に眠るだけ…わかってる。でも……わたしがトレイを欲しいよ……やっぱり…」
トレイはどこまでを見越し、紅茶を淹れに部屋を離れたのだろうか。
戻ったときに目に映るのは、彼の予想どおりの光景なのだろうか。
「ッ……キスだって全然してないのに……がまんできるわけ……ん…」
名無しはトレイの枕元に顔を摺り寄せると、香る彼のシャンプーのそれに頬を染めた。
こんなに身近に感じながらもひとりぼっち……その孤独もあと数分で終わると分かっていても、振り返った今日という日に対するトレイの足りなさを痛感する。
目を合わせて、笑い合っていったん離れて、それから地獄のような長い時間を過ごして、やっと再会まで来れてもシャワールームでは抱かれなかった。
思わず一方的にトレイを攻めて、そこに抱いた高揚感を引き摺ったまま移動して、身体や服が乾いても内側はずっと濡れたままだ。
キスらしいキスだって交わされず、残りの時間はただ眠るだけ。
それで満たされる自信など、名無しにはもうなかった。
ただただ望むのはトレイに抱かれること、たったそれだけなのだけれど……。
「……トレイ…すき……、ん……―――」
下肢へと伸ばしかけた右手を左手で押さえ込み、わざと手首を強く掴む。
言い聞かせながら囁く告白は、そこに嘘偽りは微塵もない。
名無しはその後、トレイのベッドに横になっていたことで張り詰めていた緊張の糸を自ら切り、その結果真に目を閉じていた。
ただそうする所作だけのつもりが、それだけでは済まずに睡眠という形に昇華されてしまったのは、彼女に起きた同日の出来事を思えば容易なことだろう。
「お待たせ、名無し……、っと……。――……名無し?」
「……すぅ…――」
「、……フッ……まあ…紅茶はまた魔法で温め直せばいいか……ん」
そして名無しが眠りについてからほんの二、三分後にトレイは戻ったのだけれど、彼はベッドの方を見ても、驚きよりも優しく微笑んでいた。
茶器を持つ両手を空かせるため机にそれらを置き、首元からネクタイをしゅるりと解きながら彼女の隣に腰を下ろすと、トレイは名無しの枕を自らの腕にすり替えた。
同じように横になり、後ろから抱き締めるように名無しに腕をまわすと、やがてトレイも静かに目を閉じた。
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