主≠監。
dreaming island Ⅱ
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「俺があのとき、連絡を貰ったあとすぐお前に会いに行ってたら、こんな……」
「…ちがう……!」
「、ん……?」
「うそは…だめ……トレイの所為なんかじゃない……!いつまで経っても学べない私の所為でしょう……?ジェイドを振り払えなかった私が全部悪いんだよ……っ」
「!名無し……」
きっと、いつもならすぐにベッドになだれ込んで、互いの傷ついた心を慰め合うようにセックスに耽っていたことだろう。
そうやって都度ごまかし続けてきた気がするのは、それに心当たりが大いにあるからだ。
けれどいまの二人は自分たちを求め合う気持ちはあっても、どんなに欲しくても、まだ言葉を交わす段階のみに留め合っていた。
言えないでいたことがある……。
それを伝えたいと心から思ったから。
どれだけトレイが自分を知っていても、分かってくれていても、まだ彼の知らない自分は確かに居るのだ。
絶対に話すべきなのだと、名無しはトレイを見上げ直し、そして口紡いだ。
「わたし…知ってるよ……ジェイドとの過去も今も正直に話して……いっぱいトレイが傷ついてることも。……抱かれる度に、トレイの心が擦り減ってることも……っ…」
「……っ………」
たとえば、言ってしまえば関係に亀裂が生じるかもしれない。
トレイの自尊心の何かしらを修復不可能なまでに傷つけるかもしれない。
それでも口にする必要があって、たとえそこに不安があっても、言わずに噤む後悔の方が抱えたくないと思えた。
名無しはトレイの図星をついたことを確信すると、そこに間もなく、今度は自らの弱く醜い部分があることを静かに吐き出した。
「――……今日、ね……一度別れてからトレイのところに戻って、また声かけようと思ったの……。でもそのときのトレイ、女の子に囲まれてた……」
「!……あ、……ああ…あれは…」
「写真撮って、腕組んで……なんてことない光景だよね……。普通ならきっとそうやって思える筈なのに、…無理だった……」
「ッ……」
「あんなことで……たったあれだけのことでわたし嫉妬して……どうしても耐えられなくなって声かけに行けなかった…っ……この意味、トレイなら分かるでしょう……?」
トレイにとって、それがどれだけ些細なことだったか、彼の顔を見て声音を聞いていれば分かった。
だからその些細なことを口にした名無しにトレイが驚いていることも、名無しには一瞬で見てとれた。
こんな、一歩間違えればきっとただの重い以外にない話だ……。
けれどそれを覚悟の上で告げた名無しにはやはり後悔はなかったし、トレイにひとつ話せたという事実は、彼女の抱える心の荷をことのほか軽くさせていた。
どう思われるかは分からない。
もしかしたら引いているかもしれない。
自分は性に貪欲でいるくせに、それの絡まない部分で純情を見せ、劣情を持つなど、論外だと思われればそれまでだけれど……。
「名無し……」
「わたしがあんな些細なことで動揺して、いっぱい妬いて……だからトレイの気持ち考えたら、……トレイがどれだけ私より傷ついてるかなんて……」
「名無し……顔上げて?俺は平気だから……」
「平気な筈ない……っ…私は……トレイがもし…、他の女の子のこと抱いてたらって…考えただけで……っ…、だから……」
「俺はお前のことしか抱かないし好きじゃない……知ってるだろう?初めて会って、セフレでいいと思ってたのに結局無理だった……嫌われずにいられるだけじゃだめだったんだ」
「……私は……もうジェイドには会わないって……わたし、約束したのに……なのに何度も何度も……抱…」
「、……まあ……耐えられたものじゃないさ…確かに。どうして俺の女は、あいつに初めてを奪われて……彼女になった今でも、俺の知らないところで抱かれてるんだろうなって」
「ッ……」
それはまるでふと流れた、情報を共有するための静かな時間のようだ。
こうして向き合っているだけで、自分たちがどれだけ肝心なことを話せないままで居たかがよく分かった。
理解し合えていたという思い込みだって、きっとその所為でいくらでも自然と隙を生んでいたのだろう。
ジェイドはそこを逃さないだけなのかもしれない。
言葉数の少なさはもとより、不安を吐露することの大切さ、甘え足りなさもまだまだあるのだと、名無しはそのとき思った。
醜い悋気を吟味ひとつせず言葉に乗せても、トレイはまっすぐ受け入れてくれている。
どころか、名無しの心情に触れ、初めての気持ちを抱えている節さえ見受けられた気がした。
結局はまだまだ足りていないのだ。
だからもっともっと、トレイに寄りかかっていいのかもしれない。
我が儘を見せて、トレイを困らせるほどにまで悪くなってもいいのかもしれない。
ただいい子でいるだけでは、前に進んでもきっとまた足元をすくわれる……。
「擦り減って、か……ハハ。まあ事実だよなぁ……うまく形容されたもんだ。……めちゃくちゃ擦り減ってるよ、そりゃ」
「ト……」
「けど事実は変えられない。あいつの気まぐれがなかったら、俺はお前と出会えてないんだよ……名無し」
「トレイ……」
「それでも……もし俺と出会ってなくても、お前があいつと付き合ってる未来は俺には見えないかな……きっと身体だけの関係で終わってる」
「………ッ、……あ……」
「……改めて言うのは気恥ずかしいんだけどな……その。……俺はお前を手放す気はないし、お前がこの先嫌だって言っても……何度だって俺に惚れさせる。その自信もある」
個室の中で響くトレイの声音は変わらず優しげで、名無しの言葉の意味を十分に理解している様子だった。
苦しみも、もどかしさも、卑下する彼女の気持ちを沈ませまいと選ぶ文言に、何度だって囁いてくれる決意のそれ。
こんな自分でもまだ愛されて、資格がどうこうの次元の話じゃないことを、眼鏡の奥の瞳がまっすぐ訴えてくれる。
名無しにとって、トレイが自分に愛を紡ぐその言葉はどれだけ嬉しかったことか……。
ほんの少し噛み締めた下唇に力が入り、何度も何度もこみ上げるその想いは、名無しの目元を僅かに光らせた。