主≠監。
dreaming island Ⅱ
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「……、今は。……一人で浴びた方が良いと思ったから、普通にそうするつもりで居ただけなんだけどな……そこに深い意味なんて何ひとつないよ」
「ト……」
「お前は……」
名無しの元気のない声を耳にするのは辛かった。
そんな音色で吐かれた、本音とは程遠い言葉を受け入れるなど、トレイには到底無理があることだった。
物事をすぐに理解出来てしまうのも考え物だなとは思う。
けれど後ろ向きな姿勢で居る彼女の気持ちを晴らさなければ、どのみち前には進めない。
その役目は、いつだって自分にあるのだという自負がトレイにはあった。
「………」
ジェイドの触れた、抱いた、その香りも何もかも汚された。
彼の匂いが纏わりつく名無しの身体を洗い流さなければ、何も始まらないのだから……。
「トレイ……」
「ハァ……いや、違うな。――ごめん……」
「……?」
「いまはお前を、……身体。……目の前で見たくなかったのが本音かな。……俺はどんなお前を見ても、どうせすぐに欲しくなる……好きだから」
「ト……」
「見られるのも辛いだろうって勝手に思ってた……それがお前を不安にさせたんだな……。ごめんな、名無し」
「!そんな……謝らないで……わたしは…ッ……、トレ……」
ここまで来ても、トレイの優しいを体現している瞬間が訪れていることに、名無しは心底驚いていた。
勿論、その驚きは悟らせまいと、あくまで彼女の胸中だけで感じたことだったけれど……。
どこまでも見抜き、読み、欲しい言葉をいざというときに与えてくれる。
抱えた不安をいつだって払拭してくれる。
自分にはもったいないとさえ思い、同時に自分だけの人で居て欲しいと痛感もする。
「トレイ……っ…」
少し冷たいと思ったくらいがなんだというのだろう。
隙を作れば、またそこに外からつけ込まれる。
何度反芻したって、辛いのは自分よりもトレイなのだということを分かっていれば、名無しが見るべき方向はただひとつだ。
「ああ……でもやっと二人きりになれたんだよな……ハァ……。なあ……だからまだ一緒に居たいんだよ……」
「っ……」
「名無しは?……いやか?」
「ッ……あ…、私…は……、ぅ……」
「――フッ……ほんと、我が儘な男だよな……自分でも呆れるよ。こんなんじゃあ、いつお前に愛想を尽かされるか……はは」
「そんな……こんなの、全然わがままなんかじゃ……愛想だって尽……ッ!……」
「知ってる。……お前、俺のこと大好きだもんな……ぜんぶ知ってる……好きで好きでしょうがなくて、めちゃくちゃ。……俺も同じだ、名無し」
「…っ……」
大きめに設計された個室は、そこに人が二人入っていても何ら窮屈なイメージは沸かないほどの広さを有していた。
最悪、着衣したままの状態でシャワーを出しても、立つ位置によっては直接湯水を浴びるのを避けることも可能だった。
名無しとトレイは扉のすぐ傍、そこで二人近しいまま立っていたのだけれど、今この瞬間更に距離が縮まったのは、トレイが彼女を抱き締めたのが原因だ。
たとえその身に何が起きても、話すことで理解し合えれば、深まり合えれば……。
それはきっとジェイドにはできないことだろう。
そのジェイドに抱かれたままだった名無しの身体を抱き締めるトレイの両腕は、今は魔法薬学室で触れたときよりも心強く、やわらかだけれど確かに熱と力を感じた。
名無しがそう思えたのも話をしたからだ……心からの言葉を交わして、トレイを感じて、愛されているという事実に目の奥を熱くさせる。
「トレイ……」
身体はまだ汚れている。
けれど弱い自分はこれ以上本当に見せられない。
名無しは抱擁を解きながら、まだ自分が持っている想いのすべてをトレイに話すべきだと感じ、するとゆっくり顔を上げた。
が、同じ気持ちらしかったトレイの方が先に口を開くと、名無しはその唇を男らしく骨ばった指で塞がれ、彼の言葉を聞き入れた。
「……今日、ジェイドとお前が会ったのは俺の所為だよ……ごめんな、名無し……」
「!」
それはまだ、避けて通れない当然の話題という認識で相違ないだろう。
改めて身構えても互いの心は痛むばかりのものである。
けれどトレイの謝罪をする声色はとても真剣だった。
それを聞いた名無しはすかさず真剣に、そしてまっすぐ言葉を返した。