主≠監。
dreaming island
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「名無し」
「っ……ん…、……」
「!――……ああ…、何も言わなくていい……とりあえずはその……とにかく此処を出るぞ。……後ろめたさでお前はもう帰るつもりでいたかもしれないが……寮まで行こう」
「……っ…、……。そんな……でも…」
――ジェイドはきっと、自分の心が堕ちて名無しを諦めることをずっと待っているかもしれない。
手放す瞬間を逃す筈もないし、だからといってその瞬間を見届けた矢先、彼のシナリオはそこから先がそもそももうないかもしれない。
分かっていたから、学園内で接する際の体裁はずっと保ってきたつもりだった。
トレイの動揺する顔見たさに名無しの居場所を喋り、そこで起きたことのすべてを吐露するジェイドはとても冷静だった。
けれどすべてを話すその饒舌さに、トレイは僅かな焦りも感じ取っていた。
名無しを手に入れたい一心だろうか、焦燥ゆえの発言に、おそらくはジェイド自身が気付いていないのだ。
『魔法薬学室……名無しならそこに居ますよ。そろそろ身支度も整った頃でしょうか』
『、…身じ……、……ッ…』
『ええ……トレイさんが遅れると知って、とても……本当に寂しそうだったので……ふふふ』
手に入れたいがために自ずと逸って、らしくなく煽る。
――だからトレイは忍耐強く居続けた。
名無しは誰にも渡さない。
自分だけの大切な存在なのだから……。
「トレイ……待っ……」
「寮長の目が心配なら今は大丈夫だ……俺と一緒で、今日は忙しいことにかわりはない。……それにリドルが今誰と何処に居るか、お前が一番よく知ってるだろう」
「っ……トレ…イ……ッ…でも、わたし…」
「、……大丈夫だ、何もしない。……シャワー……まずは浴びないとだろ?ほら連れてってやるから……名無し」
頬から伝うトレイの手はあたたかくて、ずっと触れていて欲しいと思わされる確かなぬくもりを感じる。
が、そうしていて欲しいという想いにすら、今の名無しは烏滸がましさも抱いていた。
挙句齎された提案にも言葉を失い、せめて答えられる唯一は彼の名を連呼すること。
単純なことでも、少しの思考すら今は苦しかった。
名無しはトレイに甘える姿勢をすっかり見失い、どうしても気弱な態度を見せてしまっていた。
「でも……」
誘われた寮への移動に対しても胸が痛んだ。
シャワー室は幾度となく密かに二人で利用していたけれど、この雰囲気で行ける自信もはっきり言ってなかったのだ。
何もしない……そう言われたことも素直に受け入れられない。
”本当は何もしたくないの間違いでは?”
”こんな身体に……姿を装って存在を偽ったジェイドに気付けないまま、直前まで抱かれてしまった身体に今さら欲情など。”
卑屈な感情だって、どうしたって胸中に渦巻いた。
「ッ……」
――けれど、きっとそうやって考えていることすら、トレイにはこんなときでさえ読めたのだろう。
自分だって辛いのに……。
名無しの頭を何度も撫で、数本の指で毛先を愛でる。
そのときふと感じたのは、眼鏡の奥の優しい視線だった。
「、ん……俺だって……話したいことは沢山あるよ。……けど、お前の身体をまずは綺麗にしてやりたい……それが今の俺の……一番の望みだよ」
「!ッ……触…っ、でも、だめ……だって……汚れ…」
「ううん、綺麗だよ……綺麗なまま。お前は変わらない……なにがあっても、俺の大事な彼女だ」
「……ッ…」
「なあ……?だからもっと…俺が今より綺麗にしてやる。……そんなに警戒しないでくれ……な?」
「トレイ……」
「分かったか?なら、ほら……行くぞ」
「…ッ……」
――トレイはいつだって優しい。
また改めて痛感する。
絶対に苦しい筈なのに。
ぶつけたい感情も、様々溢れている筈なのに。
それでもこんなにも優しくて、抱き締めてくれる腕のぬくもりに名無しは最早折れるしかなかった。
きっとこの先も同じ場所で拒んでいれば、それは駄々を捏ねる子供と同じだと思ったし、時間の問題を見ても、そもそも前進するほかに道はなかったのだ。
「――……ッ…」
再度差し出されたトレイの手に、今度は力強く腕を伸ばしてぎゅっと握り締める。
漸く立ち上がったとき名無しは改めて抱擁を受けたけれど、その際はトレイの背に自らの腕もやんわりとまわしてみせた。
トレイの存在を、匂いを感じたいと思ったのが本音であり、それが本音であることに少しずつらしさを取り戻す。
シャワーを浴びて、そこで今日の嫌な思い出のすべてが流れてくれれば……。
そう思えるだけでも良しとしたい考えを胸に、名無しはトレイの後に続き、ともに魔法薬学室をあとにした――。
2023.02.25UP.
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