主≠監。
dreaming island
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「ジェ……ッ…やだ……もう…っ」
「貴方を此処へ置いていくのは胸が痛みます……ああ…大丈夫。今日は本当に、この周囲にひと気はありませんから……誰も此処には来ませんよ」
「……それ…で……?ねえ…やだ……かばん……」
「ええ……ですから、せめて今は……少しのお手伝いだけ。……ね?」
ジェイドは名無しの鞄を持ち上げると、慣れた手つきでその中身を探り、彼女の傍でひとつのポーチを取り出していた。
手のひらにおさまるサイズ感、艶がかったサテンの素材は、男性の手中にはなかなか映えにくいものがあったけれど、ジェイドは気にせずファスナーにも手を掛ける。
ジェイドがポーチの中に指を入れた瞬間、名無しはあきらめの表情を漏らしながら、恥ずかしげに視線を明後日へと向けていた。
「…ッ……」
「ふふふ……可愛い。……ね?名無し……ほら、替えの下着です」
「ッ……もう…」
「それにしても……こうやっていつものポーチに、今日もちゃんと持参しているあたりが……フフッ」
「……っ……」
習慣付いていた結果だと思った。
合意の上で肌を重ね合ってきた関係の、他人は知らない共通のやりとり。
ポーチから取り出した下着を手渡され、名無しはインナーを着替えることで、ある意味初めて身支度を終わらせることができたのだ。
自分でしようと思っていたものの、ジェイドのアシストが最後まで入ってしまったこともまた悔しい。
まだ身体が思うように動かなかったことも手伝っていたおかげか、下着を受け取る名無しの手は少し震えていた。
そしてそんな動揺のなか着替えていれば、鞄の中で光るスマホの画面をジェイドが見ていたことにも気付けないままだろう。
「まあ……替えないと、すぐにバレてしまいますしね……。先程まで、貴方の太腿に絡まっていた方はまだ湿って、こんなに沢山濡れて……僕に…」
「ジェイド……ッ…」
「ふふ、すみません……」
それはあくまで冗談。
けれど自らの言葉に棘が絡んでいる自覚はあった。
ジェイドは明らかに自身が苛立っており、少なからず名無しをからかうことで、腹の底にある汚い嗜虐心を満たしていることにも気付いていた。
たとえ美学に反していても、それだけ手放すこの機への未練のようなものがあったのだろう。
純粋に名無しを愛でられる、数少ない二人きりでいられる時間を邪魔されたことへの怒りも確実にあったということだ。
まあ、自身から意地悪を受ける名無しの表情や恥ずかしそうな仕草に救われているうちは、棘が芽生えても冷静さも持ち合わすことはできたけれど……。
「ん、綺麗になりましたね。――……では、……本当にもう行きます」
「……」
「………」
穿いていた下着を、鞄の中に入れていたまた別のポーチへとなおす。
ジェイドは人前に出られる身形に戻った名無しを見つめ、鞄を傍にしてもスマホに目もくれない様子にはほんの少し驚いていた。
隙のあるというか、なんというか……だからいつまでたっても自分から逃れられないのだと思いつつ、にじり上がる口角を悟られまいと自然な笑みを浮かべる。
「名無し」
誰のものにもしたくない、自分だけの存在で居て欲しい。
そういう想いを持って、どんな手を使ってでも手に入れたい。
抱いた腕の中で笑う彼女の表情を見続けたい……そう思ったことも、やはり嘘じゃない。
「?…ジェイド……、……ッ!!ン……」
「ちゅ……――。覚えていて下さいね……誰でもいいわけじゃない。僕にとっては、貴方は誰よりも…――」
いよいよ時間が迫り、退室を決意したジェイドは改めて名無しを抱き締めていた。
当然、キスもだ……唇を重ねるまでの強引な仕草は場の雰囲気に反し突然だったため、避けることのできなかった名無しはその勢いにのまれていた。
最後の最後まで触れることを望まれて、嘘か本当か分からない言葉を耳にする。
何を言われたって名無しが揺らぐとすれば、それは真偽を問うことについてだろう。
拒み切れない罪悪感を抱えつつも、それでも名無しが望むのは、ジェイドとの明日ではないのだ……。
ジェイドは最後に名無しとのキスを終わらせると、切なげな目元をしてみせた。
この場での別れを憂うかのような表情はそのまま、再び頭をひと撫でされると、潔く背を見せる。
向かった出入り口の扉が開いても廊下はしんとしており、ジェイドの言う、いま他人の気配に警戒するのは杞憂で終わりそうだというのは強ち嘘ではないようだった。
「――……また会いましょう、名無し」
そう言って、すぐに聞こえたのは扉の閉まる音。
そして踵を鳴らし、ジェイドがこの場を離れてゆく足音だった。