主≠監。
Be blessedⅢ
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「、ッ……」
「はは……!ウケるよね…ジェイドでもそういうことあるんだーみたいな。でもオレきょうだいだし分かるっつーかさ。あれはマジだね……本気で惚れ込んでるわーー」
それは胸のつっかえも、違和感も苛立ちも。
何もかもが一瞬にして、一気に押し寄せるようなとても嫌な感覚だ。
にへらと笑い、楽しそうに話すフロイドに悪意は……恐らくないだろう。
そう思いたかったし、きょうだいのこととはいえ、彼が片割れに気遣いをするような男ではないと直感で思えていたのが、ほんのささやかなこの場で感じた救いだ。
「…………」
とはいえトレイの表情はまた、確実にそれを聞く前と後とで大きく変わっていた。
真に受けてはいけない。
フロイドの冗談であろう。
けれど頭のなかをぐるぐると巡る、彼の言葉に込められていたその真意。
名無しへ連絡を取る筈の、スマホを持つ手は嫌でも力んだ。
「あれえ……ウミガメくん?」
「!!ああ……すまん、やっぱりまだ疲れが……ついボーッとしてたよ、朝から動きっ放しだったしな……。というか、そんな話を俺が聞いてよかったのか?」
「!あー……たしかにー……ばれたらオレ宙吊りにされるかもね……いや、半殺しかも?だからこのコトは内緒ね!はは……!」
そのとき数秒ほどでトレイが我に返れたのは、皮肉にもフロイドの間延びした、再び耳に入った声色のおかげだった。
独特のあだ名を呼んでくれたことが幸いだったなど、一体どんな巡り合わせだろうか。
心中穏やかでなさすぎた自分を静かに省み、トレイは眼鏡をかけ直しながらフロイドに冷静に返答した。
疲労があったことを精一杯いいわけに使ってやろうという手を姑息だとも感じないほどに……。
トレイは正直、すぐにでも此処を離れたいと思っていた。
意地でも今すぐに探し出す必要性を感じたから。
一刻も早く名無しの元に行き、寂しがっているであろう彼女の身体を優しく抱き締めたかったから。
「邪魔してゴメンねウミガメくん~!んじゃあオレも持ち場戻るわーー……じゃあねー」
フロイドは言いたいことだけをすべて言い切ると、トレイの様子をその薄い笑んだ目元で見つめていたけれど、その冷たい視線は彼の僅かな異変を察していた証でもあった。
別にトレイをどうこうしたいとか、そういうわけではないのだ。
それは単にフロイド自身の気まぐれであり、我が侭であり、気ままに思ったことと真実を即座に舌の上に乗せていただけである。
実際満足げに笑うと、フロイドは漸くトレイに別れを告げ、自分の属するバスケ部の持ち場へと戻っていった。
だらけた姿勢で食堂をあとにするその後ろ姿は似ても似つかないけれど、今のトレイには嫌でも重なって、ジェイドのようにも見えていた……。
「”そんな話”ねえ……あはは。てかオレってばジェイドに優し過ぎじゃね?まあジェイドが今何処でなにしてるかなんてマジで知らねーけど……もうどうでもいいし。……ははッ」
フロイドがそう囁いたのは、トレイとかなり離れてからのことだった。
あくまで気まぐれ。
あくまで自分が楽しいと思うため。
充足感を持ったフロイドは、トレイが足早に食堂を去ったことには気付かなかったけれど、彼が受けた見えない傷口を思い浮かべ、ひとり微笑んでいた――。