主≠監。
Be blessed II
Please input the ur name.
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「っ……」
メールをくれて嬉しかった。
トレイらしいいつもの短い内容でも、受信するものすべてに彼らしさがあって、愛おしいと思った。
そのメールを見ながら中庭から離れて、気持ち速足で指定された場所に向かったのも、ただただ会いたいと想う一心だ。
短いながらも分かりやすいトレイの説明は、元々学園に頻繁に来ていた名無しにとって把握は容易く、すぐに移動できるところでもあった。
鏡舎の近くに到着していた名無しは、そこでトレイにすぐには合流できない旨を告げられ、耳元でスマホをギュッと握り締めていた。
『――……そうなんだよ……うん、……ああ、俺から場所も指定したのにほんとにごめん……っ』
「……そ…っか…」
『!ああ……ごめんな名無し……怒ってるよな……』
「っ……、……まさか!ううん……うん、仕方ないよ…トレイは悪くないもの。……あ、それじゃあ……ちょっと歩き疲れたし食堂行って待ってるね?一時間なんてすぐだし……」
『、……分かった……、詳しいことは終わったら話すから……ほんとにごめんな……また連絡するよ。じゃあ…っ』
スマホにかかる小さな圧は、震える手の所為。
突如として降りかかる急なトラブルこそ不可抗力ともいえよう……だから誰かを、何かを責める道理はなかった。
なかったのだけれど、それでも……。
「――……はぁ……」
――名無しのため息はまた一段と大きくなっていた。
虚しさたるやの押し寄せもまた、実に酷いものだった。
悲観的にならずにいようと決めた……そんな矢先の挫かれる想いに、彼女のメンタルが徐々に削がれてゆく。
「……もう…帰ろうかな…」
指定してくれた場所にトレイが居なかったのは、彼の話したことがすべてなのだろう。
詳しくは後で、などと言われても、正直そこに強い興味はなかった。
「……っ……」
怒りも、哀しみさえも押し殺して返答した名無しの声色は空回りしていた。
通話の最中にトレイが訊き返してきたのが何よりの証拠だ。
高い音色で平静を装っても、気付いてくれたことは嬉しくとも、名無しはそれを素直に受け入れられなかった。
甘えることなんていくらでもできたのに、トラブルゆえに今はそれも叶わない。
「折角堂々と此処に居れたって……トレイと一緒じゃないならもう意味……」
名無しは早々にトレイとの通話を終えると、会話の中に含ませた文言通り、食堂へ向かおうと一度はその方角を見ていた。
が、彼女の気持ちに勝ろうとしていた疲労感はその足取りを阻み、言動をもあやふやとさせる。
そしてマイナスな思考が、気にしないでおこうと躍起していた嫉妬心を新たに孕ませる……。
「……トレイ…」
ただ、今すぐ会いたいだけなのに。
この短時間で起きた、抱えきれない感情を知って欲しかっただけなのに。
「名無し!」
「!!」
――名無しはいよいよ後ろ向きな気持ちを前面に押し出していた。
元居た指定の待ち合わせ場所は鏡舎から、食堂ではなく、もう正門に向かってしまおうか。
そして、理由を適当に考えて家に帰ろう……。
そう思った、まさにその瞬間のことだった。
「ト……」
いじけた姿だって見せられない。
残念だけれど、汚い嫉妬心がどうしたって剥がれてくれない。
こんな黒い感情、消えたと思っていたのに。
けれどそんな矢先、名無しは背後から自分を呼ぶ、今度こそ望んだその声音に目を見開いた。
それはスマホ越しの音声でもなんでもない、待ちに待ち焦がれた存在だ。
合流が先延ばしになったばかりだった筈のトレイがそこに居たことは、暗い名無しの表情を一瞬にして朗らかなるものへと変えていた。