主≠監。
Be blessed II
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「忙しそう…に……。………」
「?――……名無し。そのブレイクタイムのあいだ、まるごと……これから僕が貴方と過ごしたと彼が知ったら……どう思いますかね」
「!!」
ジェイドは名無しがスマホを見るや否や、ほっこりとした表情を零した瞬間を見逃さなかった。
そんな顔を見せれば、相手がばれるのは今更だ……ただ、持ち場が複数あったトレイに対しての名無しの発言が気になるところではあった。
上手く解釈できずに頭上に小さな疑問符を浮かべ、そんな自分に少し違和感を抱き、それを掻き消すかのように新たな冗談を飛ばす。
当然、名無しはまた困惑を浮かべ、赤面と相まってくすんだ色香を纏わせる。
ジェイドが好きな彼女のそれは、ジェイドの身体の奥にゆっくりと疼きを覚えさせていた。
「ジェ……」
「冗談ですよ。ふふ……今日の結った髪…とても可愛いです。……これからトレイさんに乱されてしまうのかと思うと、少し勿体ないですが」
「っ……」
「ですから冗談ですってば。……貴方は変わらない。そうやってなんでも真に受けて顔を赤くするところも……本当に…」
腹の内側で滾るのは、予定調和が嫌いで、予想外を好む筈の自分には考えられないような、怒りにも似た感情。
連絡を寄越したトレイがこの場で水を差したことをいつもなら楽しめたけれど、今のジェイドはそう思えなかった。
再会したことで再認識して、やはりどうしても傍に置きたいと思う、ささやかな独占欲の芽生え。
ただ、きっとこんな自分はまともに彼女を愛せないだろうという自覚もあり、ジェイドは自身の一番の願いが何なのかを、今一度脳裏で考えていた。
「名無し」
「ジェイド……助けてくれてありがとう。……それと…、あのね。またこれから何度偶然が起きたって、私はずっと……」
「……そこに、僕がどんな罠を張っていても?」
「――……わたしが。……私が好きなのは…、トレイだから。…ッ……!!」
名無しはまっすぐで、素直で、すぐに感情を顔に出す。
悲しい時は涙を流し、楽しい時は満面の笑みを見せてくれる。
その後者をジェイドがあまり知らないのは、出会いから付き合い方までに起因していることは当然だった。
彼女を救った。
暗い闇から救い出し、明るい方を見て笑ってもらうために。
「名無し」
「ッ……」
身体だけの繋がりしかなかった自分たちには、恋人同士が向け合うときのような笑顔を出せなかった。
けれど名無しの心が欲しいと思って、はじめて人を想うことを知った。
「…ん……」
「!んん……ッ…、ハ…ぁ……ッ」
何処の誰にも奪われたくない。
ジェイドはそう確信したからこそ、この場で名無しを抱き寄せ、静かに彼女の唇を塞いだ。
手に入れるための手段を選ぶ気もなかった。
まずはただ、素直に名無しに触れたいと思った。
「――……あのとき。雨の日の……参考書と、傘と……は、まあ冗談として。フフ」
「っ……」
「これはいま、此処で彼から貴方を助けた分です……。このキスひとつで済むのなら……黙って、ほんの少しだけ……僕を受け入れてください。名無し」
「ジェ……、んぅ、ちゅ……ンン!」
「ん……――」
もちろん、このキスひとつで済むわけがない。
済ませるつもりもない。
全てが欲しいのだから。
「は、ぁ……ぁん……ん」
「ン……名無し…――」
「っ…、……ジェイド……」
「………」
抱き寄せられた身体を引こうとする懸命な仕草も。
触れられた唇を割られたことに感じているであろう焦りも。
絡んだ舌に抱くとろけた想いが頭に滲むのを、必死で撥ね退けようとする健気さも。
すべてが愛おしくて、ジェイドは名無しに正当めいた理由を振ることで、夢中になってキスを続けた。
「は、ぁ……」
「……」
離れる直前まで二人の唇はしっとりともたつき、その中心に光る唾液の線がふんわりと弛む。
名無しはその口吸いで瞳の奥まではとろんとさせてはいなかったけれど、受けた行為による動揺は確かに見せていた。
一瞬で崩れる息遣いに開口したまま、赤い頬のまま見上げるジェイドの顔。
その視線もまたやわらかく、優しい……けれど名無しが心を揺らすまでもなかったことは、ジェイドも彼女を見つめて察していた。
「……また…起きるといいですね、偶然が。……ね、名無し……――」
「ッ……」
「――……それでは……」
一頻り交わしたキスが終わると、ジェイドは素直に名無し自身からも離れ、着ていた制服はジャケットの皺をあらためた。
首元のネクタイにも一度手を伸ばすと、やんわりと微笑む。
心底願っている彼の望みが再び口にされたとき、名無しの眉はほんの一瞬揺らぎ、当然その瞬間をジェイドは逃さなかった。
本意じゃない……けれど望んでいないと言い切るにはその確証がない。
トレイを想っている確かな心の中に曖昧な気持ちが彷徨っていることに、名無しは戸惑いを抱えながらジェイドの背を見送った。
「ジェイド……――」
その背を追いかけるシナリオなんてないし、新たな分岐だって浮かびもしない。
ただ中庭から去る、小さくなる彼の背から視線を逸らせなかっただけだ……。
が、そんな些細なことこそが、名無しに深いため息をつかせていた。