主≠監。
Be blessed II
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「また…偶然……偶然って……ジェイド……ッ」
「――そうですね……貴方があのとき、あんなことを云うものですから」
「……あのとき…あんなこと……?」
「”不可抗力なら拒めない”……今もそれを利用したと、思ったままで居て貰っても構いません。ただ僕は素直に……貴方に会えてとても嬉しいです。名無し」
「……ッ…ジェイド……」
名無しが顔を上げたとき、ジェイドは見慣れた表情をしていた。
何を考えているかは分からない……とは別に、もの優しげな顔をしたそれだ。
切れ長な瞳の鋭さを調和するかのように下がらせた眉。
ゆるやかにあがった口角。
”今は”人間らしい、血色の良い赤らみを侍らせた肌色。
この場に置いての安堵感が、ジェイドへの不安感よりも勝るために欠かせない理由たちである。
「それで……怪我はありませんか?」
「、……大丈夫。…ありがとう……」
「いえ……無事で何よりです」
足の震えが止まっていたのなら、すぐにこの場からより人ごみの方へ向かわなければいけない。
トレイにも連絡をしなければいけない。
既にそれが出来る態勢でいながらも、名無しはまだスマホを手に取れていなかった。
再会を喜ぶジェイドの話に合わせていては、また飲まれてしまう危険だって大いにあるというのに……。
きっと無下に出来ないのは、救われた恩がのしかかっているからだろう。
たとえ、ジェイドがそのような恩着せがましい振舞いをとらずとも……。
名無しが自らそうなってしまうことを、ジェイドは知っているのだから――。
「……あの…」
「名無し……貴方。少し会わないあいだに痩せましたか」
「っ……痩せ……そんなことないよ…普通だよ………」
「ふむ……では、少しお太りに?」
「ッ!ば……だから普通だってば……っもう……」
「ふふ……っ。――……慌てて……漸く笑ってくれた」
「!」
緊張感がふわふわと漂う。
名無しはうっすらとジェイドの出方を見ていた。
距離の取り方も、彼との接し方も忘れかけるほど、どう話せば自然でいられるか……。
トレイに染まっていた名無しには、それが既に分からなかったのだ。
そんな心情を察したのか、ジェイドは少し寂しそうに名無しを見下ろした。
おおかた、心は動かずとも最後まで繋がった仲だというのに……とでも感じていたのだろう。
ジェイドは名無しの浮かない表情を舞い上がらせたくて、軽い冗談をその場で零した。
早い話が、笑った名無しが見たかったからである。
そしてジェイドがミスをする筈もなく、思惑通りに頬を染めた名無しが少し表情をゆるませると、ジェイドもふわりと微笑を浮かべていた。
「貴方は笑っていて下さい、いつだって……ね?」
「っ……あり…がとう。本当に……」
「……彼はRSAの生徒ですからね……うちの開放日に来るのはおかしなことではないですが…。まさか性懲りもなく、目ざとく貴方を見つけて手を出すとは……本当に予想外でした」
「、……そうだね」
「性根の問題でしょう…冗談であれ本心であれ、やはりあのような言動をとる人間の本質は下賤の類に相違ない。思い出して辛いかもしれませんが、忘れるのが一番、……?」
「――……どうして……ジェイドなの……」
名無しの視野は少しずつ戻り、耳元でも、人の声をはじめとした雑音が聞こえていた。
ジェイドの言葉も冗談として認識して、自分が笑っていることも自覚する。
気まずい空気感は多少残っていても、それは仕方のないことだろう。
彼なりに気を遣ってくれたことは素直に受け入れて、名無しは改めて、ジェイドにこの場で起きたことへの礼を告げた。
「……っ…」
――そこで終われればどんなによかったか。
ジェイドはらしくなく話を蒸し返し、名無しの付き合っていた彼の本質を口にし始めた。
当然わざとなのだろう。
掻き乱す策士の真面目な口調に、朗らかめいた雰囲気はまたじりじりと遠ざかっていた。
「名無し?」
「狙ってても……偶然でも…もうどっちでもいいよ今更……っ、なんでジェイドがいつも…トレイじゃなくて、ジェイド…なの……。なんでわたしに……」
「――……」
名無しもまた、浮かべた笑みを奥に潜め、ジェイドに真剣な表情で訴えた。
どうしたってトレイは来ない。
そもそも彼は、いつだって名無しの危機を後で知っている。
そこももう偶然だとしか言いようもないけれど、トレイが来てくれない分のすべてをジェイドが賄っていることを、名無しは素直に納得したくなかった。
張り巡らせた策ならそうだと言って欲しかったのだ。
ジェイドは名無しの訴えに応じると、一度目を閉じ、開眼と同時に彼女に一歩近付いた。
添えられなかった華奢な肩には、そのときはじめて、ジェイドの手が触れた。