主≠監。
Be blessed
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――少しぶりに、洗面所の鏡の中の自分と目が合った。
眼鏡は枕元に置いたままだ。
ゆえに裸眼で見るぶん、一寸ぼやけてはいたのだけれど……。
「ふぅ……」
脱衣所も兼ねたそこには、まだ未使用のバスローブが二着、専用のかごの中に入っていた。
トレイはそれを目視しながら、名無しの居る浴室のドアに手を伸ばした。
「名無し。入っていいか……?って言いながら開けてたら意味ないか……フッ」
「!!」
同じ場所、閉鎖的な空間に居て、離れ離れになった後にする再会は少し照れくさいものがあった。
それをどういう感情と喩えるべきか悩むところだけれど、まあ分かっていたのは、そんな状況で見る名無しも実に愛らしいということだ。
「名無し」
「ッ……トレイ……おはよ…」
「ん、おはよ」
「あー……っと…、起きれたんだね……結構呼んだのに、さっきはそんな気配なかったよ」
「~……ああ…悪い、本当に。けど………隣で眠ってた筈のお前が居なくなるとこのザマだ。あー…俺もそっち……入っていいか?」
「……どーうーぞー?ふふっ」
「!……フッ…」
此処での目的は文字通り入浴である。
そこにプラスアルファがあることが確定していても、ひとまずは穏やかな時間を名無しと過ごしたいと思った。
散々犯しておいて、そんな悠長なことを考えていられる時間があるのかはまあさておき、トレイは入室するや否や名無しの居るバスタブの縁にそっと手を添えた。
トレイが湯船に浸かることを見据えた名無しはそのとき、反射的に身を浮かして移動してみせる。
問いはしたものの、自分が口にするまでもなかったのだなと感じたトレイは、その無意識な配慮がただただ嬉しくてひとり静かに微笑んだ。
そして、話を切り出すこともスムーズに行えていた。
「その……さっき。……ああ……何分なのか、はたまた何時間前のことか、ちょっとすぐには計れないんだけどな……とにかくごめん」
「?…なんで謝るの……?」
「お前に無理させすぎたな……って。身体……こんなに跡も残しちまった…これは流石に反省するレベルというか……なんというか」
「~……、それなら私的に一番反省して欲しいのは……お風呂に入り損ねた二時間前のこと……かな…」
「!に、二時間……?!」
トレイが改めて幸せだなと思える時間はここにもあった。
事後のまどろみに加えて、一緒にお風呂に入る、ゆったりとしたそれが今である。
勿論名無しも同じ気持ちではあったけれど、みなまで言う必要もなく、その愛情はトレイが彼女を背後から包み込むように抱き締めている時点でじゅうぶん伝わっていた。
「二時間……」
バスタブの中では向かい合わせになることも多かったが、身体を密着させている方が味わえる安心感もまた違った。
名無しにとっても、耳元で聞こえるトレイの話し声は本当に心地好かったのだ。
体液と汗を流してぬるま湯に浸かり、好きな人を背にするということで得られるものは計り知れない。
たとえば事後の入浴にどんなに数多のシーン、既視感を覚えても、過去の罪悪感だって上手く薄められた。
「そんなに寝てたのか……俺は…」
「そうだよー…?スプリット・カード使ったときより眠ってたんだから……。やっとシャワー浴びれると思って洗面所まで行って……すぐ追いかけてくるなんて思わなかった」
「~……そのあとそこでお前のこと抱いて、またベッドまでUターンして、二時間経って今…ってこと……?だよな……。ハァ……反省してます、ホント」
「――……ふふ」
このとき、名無しが少しばかりトレイよりも優位に居られた理由など知れたことだろう。
だから口調も強気に、けれど可憐に。
歌うように言葉を連ねていた。
眉間に皺を寄せてひやひやとした表情を浮かべていたトレイは時系列を整頓し、いま現在のおおよその時刻も知って胸を撫で下ろしている様子だった。
ため息が零れたのは、自身の寝落ちていた合計時間に驚いていたからだ。
「……しょんぼりしてるトレイ、かわいい……湯気で髪がしゅんってなってるし、余計に」
「っ……ハァ、今はあんまり言い返せないな……まあ、褒め言葉としてありがたく受け取っとくよ」
「ふふ」
「…フッ……。なあ……名無し?」
――いつもの場所で待ち合わせて、食事をして映画も見た。
カフェで休憩をしていたときに初めて聞く名無しの話を知り、抑えられなくなった感情がそこに芽生えた。
受け身でいた名無しの言葉に甘えて彼女を好きなように弄ぶ。
幾度となく抱き潰しては、その身体に、自分のしるしも無数に刻んだ。
手のひらで水面を揺らし、心地の好い水音を聞きながら、トレイは名無しの濡れたうなじをじっとりと見つめていた。
冗談めいた内容とはいえ、自分と目を合わせるため、話すためにわざわざ振り向いてくれている……。
そんな健気な彼女の素振りを遮って、トレイは名無しをぎゅっと抱き締めると、耳元で優しく囁いた。