主≠監。
Be blessed
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――――。
――。
眩暈は確かなものだったけれど、変わらぬ思考は、辛くとも強かな気持ちを持ち続けるべきだということだった。
元彼……と呼ぶにも今では愚かしい。
何もなかった、結ばれることのなかった、渇いた関係の相手だ――。
「………」
「――んー……きみが来てるのは……あのときの生徒とまだ繋がってるからかな。そのまま付き合うことになったとか?そりゃあ彼氏の通う学園のお祭りなら来るよね」
「ッ……」
「!あー……。待ってよ……べつにもう取って食おうってわけじゃないんだからさ。ちょっと話そうよ?名無しー?」
「っ……どの口…が……」
別れが決定的になったあの日以降も、このとき彼が変わらずアカデミーの生徒で通学していることが分かったのは、その制服を着用したまま此処へ訪れていたからだった。
見た目も変わっていなかったし、様子を窺う限り、同級生と遊びに来ていたのであろうということも想像に容易かった。
もっとも、他校の生徒にとっては、自分と同様に服装は自由の筈だ。
わざわざ着用しているあたりが彼の自尊心の表れというか、アカデミーの名を着て歩くことに意味を感じている……とでも言えば、まああとは察するところである。
名無しはつくづく、こんな男と少しの期間でも交際していたことを恥ずかしがった。
同時に、だからこそ本性を知れて、別れられてよかったとも――。
そして辿り着くのは、それは誰のおかげだったか、ということだ……――。
「……ふーん?いいんだけどね……やっぱり気が変わっても。ココもだけど、ひと気のないところなんていくらでも探し出せるしさ。……ひとりぼっちのきみなんて、いくらでも犯れるよ?」
「っ……」
「ああ……でもまだ未経験なら、やっぱり外は面倒といえば面倒か……ココ、路地じゃないし」
「…ッ……」
名無しは彼に声をかけられてから、自分が学園の敷地で孤立している感覚に陥っていた。
周囲には沢山の人で溢れて、賑やかしい声もあらゆる方面から聞こえている筈なのに、彼を目の前にして視野を狭められていたのだ。
不安感も顔に出ていたのだろう、彼は元々驚いた表情で名無しに話しかけていただけだったけれど、ゆっくりと悪めいた様子を孕ませていたのも如実に感じられた。
これ以上同じ場所に一緒に居たくない。
そう思うのが本音であり、名無しは危機感を覚えながら彼を睨み付けた。
たとえその目つきが彼を煽るだけに過ぎなくとも、威嚇しているという事実が名無しには大切なことだった。
「ふふ。思い出した?あのときは残念だったよね……おれ、人生で一番ひどい別れ方しちゃったよ……女の子と。――……ね、ここの保健室。場所知ってるから行こうよ」
「っ……ふざけないで……だれが…」
「ああ……保健室はイヤ?まあ確かにわざわざ借りるのも……ウーン、…………いや。というかどこでもいいよね?名無し……きみ、流石にもう処女じゃないでしょ」
「ッ……!!……離し…」
名無しの姿をじろじろと、上から下まで隈なく見渡す彼の視線はいやらしかった。
この日の名無しの私服は清楚なもので、トレイの好みに合わせているとはいえ、露出も控えられたごくごく普通のワンピースだ。
膝下から伸びる肌色の脚線美が気になったのか、僅かだが、高さのあるヒールによって張る脹脛の質感に触発されたのか……。
発せられる言葉の卑猥さも相まって、彼が名無しを追い詰めるように近付く様子は、名無しにあの雨の日のことを簡単に思い出させていた。
「うん。やっぱりもう”済”だね……なんか前よりいやらしい雰囲気出てるもんね?はは」
「ッ……やめ…、…」
「ねーえ名無し……おれと別れた後どこ開発されたの?きもちいいところは相変わらず一緒なのかな。それともいい場所増えた?はは……っ」
「……やめて…ほんとに……ッ、ひと呼……!!」
「呼んでみたら?ほら……あの背の高い優男の彼氏でも……。まあそんな偶然起こらないか。ね……おれとセックスしよ?名無し……」
鞄におさめたスマホに手が伸ばせない。
半端に渦巻いた恐怖心が、名無しの手足を俄かに震わせる。
身形、雰囲気、そういった抽象的なことだけで核心をつかれ、名無しは自分の心拍数が上がってゆくのを感じていた。
わざわざ口にせずともいいような下衆い発言をゆるし、彼の言葉には嘘がないことも痛々しく突き刺さる。
名無しはそのとき、既に男に身体をゆるした後であることを否定できず、それゆえに、彼がかなりその気になっていたことに怯えた。
「ッいや……や、だ……ト……」
喉の震えが声にも表れて、上手く呼べなかったトレイの名前。
汚らわしい手で腕を掴まれ、中庭の土を、名無しの靴底が反動で抉る。
忘れた頃にまた無理やり、幾度か交わしてきたキスをこれから彼にされるのだと思うと、自然と両の目は潤んでいた。
が、近付く唇を必死で拒んでいるさなか、この場から逃れたいという名無しの求める未来は、しっかりと彼女の元に訪れていた。
「そんな偶然でいいのなら、何度でも起こしてみせますよ」
「!!」
既視感に既視感を覚える。
お約束にすら感じる機の良さに、どういう感情で対処すべきかわからなかった。
ただ、名無しがそのとき直感で思っていたのは、今この瞬間の危機から救われたということだった。
「ッ……、……」
名無しと同様に驚愕、加えてひとり、並々ならぬ苛立ちを露わにしていたのは彼だけだ。
あの雨の日と同じ。
追いやられていた名無しと、名無しの正面を向いていた彼の背後に現れたのは、ジェイドだった――。
Be blessed
20220805UP.
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