主≠監。
betray the tongueⅡ
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「ッ………」
「名無し」
嘘なんて付くんじゃなかった。
優しいそれなんてどこにも存在しないのだと思い知らされた。
まるで、身を以って知ることになるまでその罪に気付けない愚かな人間であることを露呈させられているような気がして、次第に潤みゆく名無しの瞳はとても儚げだった。
「……」
今更何を言っても遅いかもしれない。
今この瞬間が来るまで、トレイはずっと、とても傷ついていたかもしれない。
そう思えば思うほど名無しは自分が許せず、挙句、非力ゆえにジェイドを拒めない自分が、本当に心底嫌で嫌でたまらなかった。
「――……トレイに、見て欲しいから……トレイの為に選んで、でも……っ、自信がなかったから、友達と行ったときに最初に着たの。慣らしたくて……でも……」
「同じ浜。同じ日に偶然、ウチのバスケ部が居た……フロイドに誘われたジェイドも。……見られたんだな?あいつに」
「ッ…――、いちばんに……トレイに見て欲しかった……!でも話したら矛盾してるって言われると思……っ、」
トレイはいつだって優しい。
それが辛いのだと分かったのは、絶対に傷ついていても、それを自分には露見しない姿勢を彼が貫くからだ。
本当は絶対にジェイドが邪魔で仕方ないくせに、偶然を盾に名無しを決して責めたりはしない。
だからいっそ責めて欲しいのに、すべてはふりだしに戻されていつまでもループが続いている。
名無しはこの場、元々の水着を纏うにあたっての事情は正直に話せていた。
けれど自身が話す前に状況を推察して、事実それを当て、先んじて物言うトレイには返す言葉を失っていた。
「名無し……」
トレイはあまりにも優し過ぎるのだ。
もっと責められたって、きっとまだまだ足りないだろうに……。
「思うわけないだろ……俺に見せるための自信をつけたかったんだろう……?別に…先にジェイドが見たからって、……ッ…」
「そのあと海に引き摺り込まれても……?浜から離れて、そこでジェイドに抱かれても……?!」
「!」
「……そんなことされて、トレイに堂々と話せるだけの勇気なんてなかった……」
「…名無し……」
「そんな汚れた水着着た姿、トレイにはもう見せたくなかった……そんなの、なんの価値もないもん……」
「ッ……」
すべてはトレイの為に。
ただただその一心で、期待を胸に膨らませて手に入れた。
それを偶然の一言でジェイドに踏み躙られ、そのジェイドを拒めないまま自らは股を開き、腰を振り、喉を震わせた。
嫌々そうしても、最後には力と、言葉巧みな甘い誘いと……そして目の前に漂う快楽に負けたのだ。
名無しがその事実を簡単に話せる方が狂っているかもしれないけれど、トレイは言葉足らずでもすべてを悟り、ただ優しく彼女の頭を撫でるだけだった。
押さえ込まれた両手は変わらず未解放のままでも、泣きそうになっていた名無しを想うトレイの表情は、瞳の色を除けば、やはり先刻よりかは優しいの一言に過ぎなかった。
「焦らなくていいって言われても……トレイがすきなのに。ジェイドの腕を振り払いたい強い気持ちがあっても、それだけの力が私にはないんだよ……こんなこと素直に話せな……ッ…」
「名無し」
後輩のスマホで見てしまった自分の姿は、トレイの目にどのように映っていたのだろうか。
裏切られたという気持ちだってないわけじゃないと思う。
すべてが明かされた今だからこそ、この瞬間までに反芻してきた数だって、きっと片手指折り如きでは足りない程に計り知れないだろう。
拒み続けても他の男にいいようにされる彼女なんて、その位置に付き続ける方が厚かましいと思った。
名無しは正視されるトレイの視線を痛ましく感じ、同時に彼の胸中もきっと悲鳴を上げているであろうことを察した。
どんなに好きでも、相手がジェイドならもう自分たちに未来はないかもしれない……そうとさえ思いながら――。
――が、名無しが危惧した暗い未来に光量を塗すのもまた、トレイだった。
もっとも、その光もただ明るいだけじゃない、違う黒を漂わせていたのだけれど……。