主≠監。
betray the tongueⅡ
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「それでも。……お前が俺の為に選んでくれた水着は、俺の為に着て欲しい」
「、…トレイ……」
「まあ……普通につけなきゃ勿体ないだろ?水着だって可哀想だ……価値がないなんて言うな」
「……っ」
「ああ……もちろん、かわりのあの下着も俺は嬉しかったけどな。フフッ……」
「ッ……、……」
「……だから、っていうのもおかしいけどな。名無し……怒ってないよ、俺は。……その嘘も、俺の為についてることが痛いほど伝わるんだよ……お前はそういう子だ」
――ああ、再びふりだしに戻るのだな。
このとき名無しがトレイを見上げながら感じた気持ちもまた概ね事実だった。
この人は自分の周りにどんなに障害があって、その障害のひとつが腹立たしいまでに目障りでも、あくまで自分を想い、愛してくれている。
諦めるという言葉を知らず、その憂さを、たとえセックスで晴らすような浅ましい言動に甘んじていても、それだけトレイにとっての自分の存在の大きさを名無しは自覚できた。
ジェイドとの縁を断てない限り、偶然を避けるしかないに道がなくとも、深まり合えたことを前進と捉えられれば、多分終わりはない。
トレイを好きだと言うきもちを三度び噛み締め、名無しはその上で彼に自身の想いを綴った。
「……伝わっ…」
「?」
「トレイは……やさしいから…やさしすぎるから……俺の為にって絶対言うって思ってた……だからそれが苦しかった。……理解が深くて納得が早くて、いつだって甘えそうになる……」
「名無し……」
「トレイが無理してなくても……甘えてしまう……どんなにジェイドを避けても、偶然の所為で……隙を突かれればきっとまた抱……力がないから、わたしはそれを拒…――」
「!、……ああ…。――……そういうことか……」
それは試す様な文言になってしまったかもしれない。
が、名無しにもまた、そこに後悔の二文字が過ぎることはなかった。
互いに知らなくていいこともある。
けれど知って欲しいことだって沢山ある。
名無しはトレイを想う自らの汚い感情さえそこで打ち明けてみせた。
それは嘘をつき、隠し続けてきた挙句、トレイに暴かれたことへの彼に対する贖罪にも少し似ていた。
嫌われる覚悟でこれくらいのことをしてみせなければ、自身の我が儘、己の汚い欲望を晒さなければ、納得できるものもきっとできないだろう。
もっともっと本心をさらけ出す……。
罰を受け入れる心積もりを示し、トレイへの恋慕をそこへ表す名無しの覚悟は、嘘偽りなく彼の目に映っていた。
「拒めないんじゃなくて、本当はあいつを拒みたくない、の間違いじゃないのか?」
「!!」
「――……なんてな。そうじゃないだろう?俺が本気でそんな意地悪を言うと思ったか」
「っ……ト……」
「物わかりの良すぎる彼氏に甘えそうになるならそうすればいい。いくらでも可愛がってやる……たっぷりとな」
「……っ」
「だから俺にとことん甘えてろ、名無し。お前は……俺の女だろ?」
「ッ……トレイ……」
それはきっと、組み伏されてなお、捨て身ともいえる改めての告白だった。
トレイが自分の両手を解きベッドから離れれば、彼とは終わるだろうという覚悟のもとだった。
が、トレイが名無しに紡いだ言葉がすべてであり、名無しはトレイが自身から離れようともしない雰囲気を感じ、身体の奥をぎゅっと熱くさせた。
こんなシチュエーションでさえ、不謹慎に。
それでも嘘がつけない身体は既に、内側から素直に彼を求めている。
トレイの彼女で在り続けられることへの嬉々に、踊る胸は鼓動がトクトクと速まった。
その優しさに今よりももっと、もっと深くもたれ込むことを許されたのならば、名無しはトレイの熱に永遠に溺れ続けられるだろうとさえ感じていた。
「俺好みに甘やかされたお前を、俺も見ていたいよ……ずっと。そんなお前の傍に、この先もずっと居たい……好きだよ、名無し」
「ト……、?!」
「――……ただ……そうだな。それじゃあ……――」
そして黒を滲ませたり、甘美な表情を漏らしたり。
トレイもまたこの数十分で様々な顔を露わにしていた。
自分が名無しにしたいこと、してもらいたいこと。
無償の愛を注ぐのも、邪な情が沸くのも、それがおそらくは男という生き物でもあった。
トレイは名無しの儚くも毅然とした態度を買い、言いづらいであろうことを打ち明けてくれたその姿勢をとても喜ばしく思っていた。
自分の選んだ女性の弱さも、そして強さも大いに見聞できた。
周囲の障害……は、主にジェイドのことだけれど、それがあろうとも乗り越えられるだけの余力を互いに持っていることも今一度知れた。
もともと一筋縄ではいかないのがその相手だ。
邪魔で仕方ないけれど、時々心が折れそうになるけれど、名無しの嘘という靄のかかった部分がクリアになったぶん、彼の感じていた不安もとうに消えていた。
「!?トレ……」
――ただ残すところは、心の奥に潜むもの。
誰しも抱える苗床のような劣悪なブロットがトレイを誘惑しなければ、きっとこの場は丸くおさまるだろう。
それは暴走ともまた違う。
トレイ自身の、名無しへと新たに孕ませるふしだらな欲望だ――。
愛しい女性の、狂った姿をもっと見たいという、狂った感情を。