主≠監。
betray the tongueⅡ
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――――。
――。
目覚め方も驚き方も、あまりに典型。
王道を行っていて、ジェイドが名無しのことを興味深いなと思ったのは勿論、彼女には今でも秘密だ……――。
『ん……、あ……』
『気がつかれましたか、よかったです』
『!!』
耳に残る連中の卑しい声音や息遣いよりも、土砂降りになった雨音の方が印象は強く残っていた。
そのことを不幸中の幸いと捉えられれば、まだ自分の傷も深々としたものではないのだろうと名無しは思った。
とはいえ恐怖に等しい体験をした後の目覚めは最悪で、あたたかなベッドに自身が寝かされていたことに彼女が気付いたのは、起床して数十秒ほどした頃のことだった。
『ふふ……あまり驚かないで?寮生以外は普段立ち入り禁止ですが、大丈夫……バレる心配なら御無用です』
『ッ……?!寮せ……、待って……帰ります、私……ッ…わ、あ……ッ』
『!ああ、ほら……立ち眩み。……ね?少し落ち着いて下さい……いま紅茶でもお持ちしましょう』
『でも……っ』
『大丈夫です。ね?落ち着いて……落ち着いて……』
『っ……、はい……』
『――……それと、此処はRSAではないですから……、それもご安心を』
『ッ……』
――名無しは目覚め後に上半身を起こすや否や、その見慣れない光景に明らかな困惑を示し動揺していた。
次いで動く咄嗟のそれは勿論、その場から離れること……つまりは帰るという選択肢をとっていた。
もっとも立ち上がった途端にふらつき、再びベッドに座り込む羽目になってしまったのは、二人の会話からも知れたことだ。
ひとまずは落ち着いて欲しい……。
そう訴える相手の言葉に甘え、名無しは大人しくその場で待機することを選び、運ばれてきたあたたかい紅茶に手を伸ばした。
『あなた…は……』
『彼らが口にしていたもうひとつの……NRC。流石にご存知ですよね?僕はその生徒です……此処はその寮部屋。貴方が横になっていたのは、……僕の使っているベッドです』
『!……、あ…の、でも……どうして……』
『?』
『その……なんで、あんな状況で……あんなに都合よく……』
言葉を交わさなければ状況も事情も分からない。
だから話すことを望み、素直にカップにも口をつけた。
名無しは一瞬、自分がまさか今NRCのとある寮の一室に居るとは思いもよらず、目の前の男性の言葉を真っ向から否定しかけていた。
が、彼の制服姿を見ている限り、同時に概ね事実なのだろうとも思っていた。
独特の雰囲気に、いかにも自身の学校やRSAとは違った、肌で感じるなにか……。
本当にNRCに居るのだと思い知らされ、それが分かれば、名無しが次に彼に求めたのはただひとつだ。
思い返したくない……それでも必要があった、少し前の出来事を――。
『僕が現れなければ、貴方は強姦されていた。違いますか……?』
『ッ……』
『――……直接的すぎましたね。すみません……あらためましょう。……酷い目に遭っていた。違いますか?』
名無しが両の手のひらでこんもりと支えていたティーカップは、その中身がみるみるうちに空へと近付いていた。
緊張から喉が渇き、ひと口ずつ飲む度に気持ちも解れていったことがその理由だ。
あとは純粋に、その紅茶をとても美味しいと思えたのも大きかった。
余裕さえあれば、どんな茶葉をブレンドしたものか聞きたかったほどだ……。
『ッ……』
ほんの少し香るハーブに癒され、ふらついた頭のごわつきも薄れてくれた。
助けるだけでなくこんな飲み物までをも用意してくれた彼には感謝してもしきれなかったけれど、逆に此処までされる理由を知りたくなるのも、おそらくは人間の持つ業の類なのだろう。
考えたくないことを思い浮かべ、名無しはまっすぐ彼にこたえを問うた。
『ッ……あなたの言ってることは多分正しいです……どっちも。だって……もしも誰かが…あなたが来てくれなかったら、わたしはきっとあのまま……、…!』
『済んだことです。それに何もされていないのなら、貴方がそれをたとえ話に出すのもよくありません……ともあれ、無事でよかったですよ、本当に』
『…っ……』
よくよく考えれば、無償で誰かに優しくされるのも久しぶりだったかもしれない。
交際相手にはここしばらく、そんなことをされた覚えもなかった。
名無しは目の前に居る彼に正論で諭され、思い出すべきでないことは無理に掘り返さなくてよいと説かれたことで、またひとつ張り詰めていた糸を一本切らしていた。
『……、どうかしましたか…?』
『……です…』
『ん……?』
『っ……』
堪えていたもの。
耐えてきたもの。
一瞬きつい文言も出たけれど、自分のことを想っての発言だったことが分かってしまえば、会ってまだ少ししか経っていなくとも、つい吐き出してしまいたくもなった。
『――……戯言、です……聞き流してもらっていいです…』
『?……』
『――半年くらい、かな……付き合ってたんです、彼と。……三ヶ月経った頃に初めてああいう場所に誘われて……でも、怖くてわたし……何もあの人にあげられなくて』
名無しは既に空になったカップを預かろうとした、伸ばされた彼の手にそれを返すと、そのタイミングで口を開いていた。
唇は少し震えている。
喉元もなんだか痞えている感触を覚えていた。
けれどどうしても聞いて欲しいと思ったがゆえに、ゆっくり彼へと言葉を続けた。
『でも、無理するなって言われて…安心してたんです……。あ、もちろん興味も、好奇心だって沢山あった、し……最後までって思ってたけど……、でも…彼には……』
何を言っているのだろう。
けれどあの場から救ってくれた。
だから何があったかを知って欲しかった。
この人には話してみてもいいと思った。
下を向いて自身の両膝を見つめながら、名無しは静かに声を発する。
その後、黙って聞いていた彼が口を開いたのは、カップを机上に置いた直後のことである。
なんとなく、本当になんとなく名無しが感じたのは、たとえ下を向いていても彼の表情はきっと、とても真剣なのだろうということだった。
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