主≠監。
Pesche
Please input the ur name.
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
――――。
――。
「桃って美味しいよね~……カタチも可愛いし、オレだいすき」
ふたりきりになれる甘い時間は一分一秒でも多く過ごしたかった。
だからこそ一時間というロスは大きなものだった。
それを取り返す為に出来る方法といえばせいぜい、与えられた残りのそれを濃密に使うことくらいだろう。
「ジェイドさんにお礼、言っといてね……?それか……今度何か渡した方がいいかな」
「気にしなくていーよ。ジェイドも好きでしてくれてるからさ……それに何か渡すならオレにちょーだい?チュ」
「ん!……もう……、…ふふ」
名無しと合流したフロイドの機嫌はすっかりと元に戻っている様子だった。
まあ、元にというよりは、日中の暑さでやられていた体調不良が全快になっただけなのだけれど。
それでも嬉しそうに名無しの待っていた場所へ近付き、そこからはずっとニコニコと笑みを零していれば、見る者によっては少し小気味悪くも見えていよう光景だ。
「んん……ちゅ…」
自室では名無しを連れ込み、まずはすぐにキスをした。
存在を確かめる意味合いもあれば、いわゆるそういう気分にもまもなくなって、周囲に目もくれずにベッドに向かう。
可愛げのある触れるだけのそれがゆっくりと濃厚さを増し、名無しがフロイドの舌を同じ部位で感じた時、彼はすっかりと男の表情を零していた。
――来て早々、もう抱かれるのだな……。
そう思って名無しもフロイドを受け入れようとする。
が、キスのあと、意外にも彼女の服は弄られずに済んでいた。
「……それよりさぁ……お前ちょっと元気なくね?」
「ッ……え…?」
「オレが一時間遅刻した所為でもなさそうじゃん?ガッコーでなんかあった?ん?」
名無しがすぐに身ぐるみを剥がされなかったこたえは、いたって単純且つ簡単なものだった。
この場合は、フロイドが持っていた桃が理由のうちに入るだろう。
彼の中で、名無しを抱きたいという気持ちと並走していた、それを食べたいという気持ちが少し前者よりも上回っていたのだ。
早い話が、フロイドは二人でそれを食べ、それから甘い雰囲気にのめり込んでもいいと思っていた。
時間そのものは削られてしまった。
けれど三大欲求のうち、性欲の隣には食欲もある。
どんなに時間が限られていても、フロイドはどちらも譲る気はなかった。
そして名無しにスキンシップをとりつつ、桃があることを話し、部屋に置いていた果物ナイフでそれを切り分ければ、あとは順番に口に運ぶだけだった。
一瞬のうちに喉の奥に甘い果実が消えゆけば、その過程に使った時間など知れていた。
ついでに、美味しそうに頬張る名無しの笑顔に見え隠れしていた少しの不穏な表情だって、桃のおかげでフロイドは見逃さずに済んでいた。
「……ん…えっと……」
「名無し?」
「……―――」
切り分けた桃を食べる名無しが幸せそうにしていたのは事実だ。
が、フロイドが気になったのは、そもそも彼女に元気がなかったことだった。
多分、いきなりセックスになだれ込めば、その全容も知れずに時間が来て、また名無しを正門の外まで見送らなければならない。
次に会えるときまで何も解決できなければ、きっと自分が嫌になると自然と思えた。
だから甘えた声音でさり気なく問い、彼女の気持ちをクリーンにさせた上で、改めてその身を押し倒したかった。
「………」
フロイドは珍しく気を配ったけれど、やがて問い詰められた名無しが返した彼へのこたえは、結果としては意外なものだった。
その後、さっさと抱き倒してしまえばよかったと思うフロイドが呆気にとられる表情は、当然、なかなかの傑作でもあった。
「ええ~~……?!そんなことでヘコんでたの?それ落ち込むトコある??」
「あるよー……たった一箇所、記入がずれてるだけで満点がパァだよ……なんかもうショックっていうか…見直しした自分はどこ見てたのかなって……悲しくなって…はぁ……」
「……」
名無しが落ち込んでいたのは、その日自身のクラスで行われていた小テストについてだった。
とある問題を起点に、答案用紙への記入がすべて、ひとつずつずれ誤っていたことが原因だ。
公式的な、規模の大きな模試ならまだしも、ひとつのコマの数十分を使ってやる小テストでのミスに落ち込む名無しを前に、フロイドは軽く言葉を失っていた。
悩みを聞いた自分が馬鹿だったのか、それともそんな彼女さえも愛しいと思えるか。
いや……後者はいつだって実感していることではある。
だとしても、やはりフロイドには些細だと感じられる出来事だったのだ。
「……まあー人間なんだし。誰だってそういうこともあるって……オレなんて10点ない時あるよ?名無しよりバカ~あはは!」
「~……それはやる気がないときのフロイドでしょ……満点だってとるじゃん……もう…」
「………」
名無しの成績は良いと聞く。
遊びもほどほど、きっちりとしているだけに、自分自身のミスが許せないのだろう。
フロイドはもっとへらへらと陽気に、半端に、簡単な励ましで名無しの気を逸らそうと最初は思っていた。
が、机上に桃を切った皿を置き、ベッドで腰を下ろしてそれを食していた流れゆえか、その励ましは愚行かもしれないとひとり思案していた。
自分の気まぐれを今まさに出すならば、もっとその逆を行くべきだろう、利用すべきだろう……と。
「っ……フロイド…?」
「……。ね、名無し……そうやって落ち込んだ時にだってイイことが沢山あるってコト、オレが教えてあげよっか?」
「…ッ……え…?!」
口内に残る桃の味が今も漂い、鼻を通る香りが心地好い。
上機嫌に拍車もかかるというものだ。
ぎし、と一度軋んだベッドは、手首をぐっとついた所為。
隣で疑問符を浮かべ、こちら側の言動を窺う名無しの目を見ていれば、小テストでミスをしたことも一瞬で吹き飛ぶだろうとフロイドは予想した。
正直、ふたりでいる時には自分のことだけを考えていて欲しい。
そうさせるためなら、フロイドには何だって出来た。
「……っ…、フ……ッ…」
「はは……。――……やさしいやさしいフロイドおにいさんが、名無しチャンをよしよししてあげる~」
「っも……子供じゃないんだから…そんなに撫でなくても……」
「子供じゃん?オレだってまだまだガキだよ……おそろいだね。んー……」
「ッ……ん…」
――たとえばそれは、一度中断させていたキスを再びすることだったり。
押し倒すことで頬を染め、頭を撫でられることに目元を綻ばせ、うっとりとさせることだったり。
髪に触れ、繊細なそれを絡ませれば指先で遊び、唇を割れば息を吸うように舌を奪う。
拒みながらも完全には嫌がらない様が愛らしくて、フロイドは名無しへの熱情が体内で爆ぜ、自身に普く欲望に従おうとしていた。