主≠監。
Pesche
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フロイドが両手いっぱいに抱えた炭酸水のボトルをキッチンまで届けると、ラウンジをあとにする予定時刻からはもう一時間ほど過ぎていた。
時間を食ってしまったのは、サムの店もそれなりに混雑していた所為である。
普段ならば、強面に目を据わらせて他の客を脅せば、順番も優先させて貰えたかもしれない。
が、暑さや紫外線の影響で重い頭だった彼にはそんな気も起こせず、珍しく順番を待っていた。
「キッチンとはいえ、営業中にいきなり大声を……。で、なんです?フロイド」
退勤したかった時間から遅れたこと。
買い出しに行かされたこと。
後者は完全にフロイド自身の撒いた種だけれど、彼がここまで時間に執着するのは、約束があったからだった。
一緒に過ごせる時間は多いわけじゃない。
だから極力待ち合わせに遅れるような真似もしたくない。
気まぐれなくせに律儀な面があるのは、それもまた気まぐれのうちなのだろう。
――フロイドは、名無しと会う約束をしていた。
「あはは。桃みーっけ!お遣いで腹減ったしコレ一個貰ってくよー」
「……ハァ。仕方ありません……アズールに見つからないように。ついでにですが、持って行くのならこちらもどうぞ。今日のフルーツポンチに桃は入れませんので……」
「………、マジ?はは……っ、サンキュージェイド!んじゃあおつかれ~~ッ」
フロイドが約束をしていた名無しは既に、この学園の近くまで訪れていた。
そういう旨のメッセージをみたとき、スマホを握る手のひらが熱くなってゆくのが分かったし、自分としても会いたい気持ちは増すばかりだった。
こっそりと正門の傍まで迎えに行くあの時間も、待ち合わせた瞬間に会えたと思えるそれも。
そして手を繋いで、部屋まで連れ込む緊張感のある時間も……何もかもが、フロイドにとっては特別だ。
そのどれもが残業の所為でお預けにされ、腹の内側がムズムズとする不快な感触は、当然早く払拭したかったに違いない。
「ええ、お疲れ様です。……フゥ…」
フロイドは略略自分に課せられた買い出しという名の罰を終え、そのメニューの全貌も把握すると、急いで裏口からキッチンを出ようとしていた。
が、途中鼻が利き、調理台の上にあったバットの中身と目が合うと、その両の目を輝かせては一瞬にして手を伸ばした。
柔らに掴みあげた、フロイドの手中におさまったのはひとつの桃だった。
ジェイド曰く、予約客のひとりが苦手な果物だということで一種あぶれていたようだったけれど、それならば他の客へのものとして別の料理にでも使用すればいいだろう。
掴みあげた桃はよく見ると少し形が歪で、ところどころに小さな傷があった。
「――……自業自得とはいえ、遅れて相手を待たせるのはよくないですしね……僕からのほんの気持ちですよ。部屋でゆっくり、お二人で召し上がってください……フフ」
キッチンをあとに、学園の正門へと向かったフロイドは、自分と名無しの分を持って行くようジェイドが指示したことから、彼が最初から桃を避けていたことを見抜いていた。