主≠監。
betray the tongue
Please input the ur name.
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
――――。
――。
『……今なんて…』
『だからあれは友達だよ、トモダチ。名無しにだっているでしょ?異性のさ』
『………』
そこは当時から通い慣れていた道だった。
ただ、過去と今の自分を比べた際、何処に違いがあるのかと問われれば、それは経験という言葉が一番よく当て嵌まっていたと思う。
一体何に対しての経験か――。
『………ただ歩いてるだけなら、そうなんだ……で終われたかもしれない…。でも……今歩いてるこの道を通ってるのを見ちゃったら、疑いたくもなるよ……』
『……あー…、それってこの前きみと別れた後のこと言ってる?見られてた?もしかして。でもこのホテルじゃなかったと思うけどなァー』
『!……渡そうと思ってたもの、忘れてて……。連絡しながら駅で引き返したら……知らない女の子と待ち合わせしてた……でしょ?それでそのまま、この通りまで……ふたりで…』
どんよりとした曇り空。
雨は降ったり止んだりが繰り返されていた。
ゆえに足元はところどころに水溜まりが出来ており、アスファルトの地面もよく濡れていた。
『んー……ばれちゃったかぁー……じゃあもうしょうがないね。はは!というか、あとつけたんだ?ひどいなぁ』
『っ……』
『だって見られたなら下手に言い訳したって仕方ないじゃん。無意味なことっておれ嫌いだし』
『そんな……』
触れるだけのキスをして別れたのは駅の中でのことだった。
人目があるからと断れなかったのは、嫌われたくなかったからだ。
名無しはふたりで出かけていたとある日、単身帰路を行こうとする直前、彼の持ち物を預かっていたままだったことに気付いた。
そしてその手に返却するべく、あとを追っていた。
スマホで呼び出し音を鳴らしながら引き返す駅は少し混雑気味だったけれど、持ち物を返すことと、彼の姿を再び追うことしか考えていなかった名無しにとって、
人ごみなど小事に過ぎなかった。
『そんなことするような男に見えないのに……ってカオしてる。フフ……ッ』
『……』
名無しは途中、一人の……恐らく性別は男性だろう、ぶつかりそうになっていたけれど、未遂であるがゆえに一歩も振り返ることなく彼を追った。
ロータリーの見える場所まで来て彼を見つけるも束の間、目を疑ったのは、そこに知らない女性が居たからだ。
腰にまわす手付きはいやらしく、自分たちが戻ってきた道を一緒に進んでゆく光景を見るのは正直きつかった。
それでも名無しは身を震わせながらゆっくりとあとをつけた。
速度が落ちたのは、たとえ見失っても、きっと目的地はあそこだろうと冷静に思えたからだろう。
場所はさておき、エリアは絶対そこだという確信が持ててしまった時点で、名無しが裏切られ続けていたのも事実だった。
『まあそうなのかな……RSAに通ってるってだけで勝手に優等生認定されるし……。でもまあ、おかげで女にも不自由しないけど』
『あの……ッ…』
『ま、おれが優等生なのは概ね事実だとして……裏でもそうだとは限らないよね』
『?!………』
交際相手の浮気が突然発覚しても、怒りをぶつけられない理由が名無しにはあった。
彼女自身、それをもどかしいと感じていたのは当然だ。
譲れないものがまだあって、好いているのにどうして譲れなかったのかもいまいちわからない。
許せない気持ちもある……が、並行してホッとしている自分もまたそこにいる……。
――その後名無しは、現場を目撃したその日は真っ直ぐ引き返し、見てしまったものすべてを忘れるためにひと晩泣いた。
泣けるということはまだ好きなのだろう……それでも譲れないのは、或いはセックスに対する何かに恐怖を持っていたからかもしれない。
名無しは彼とは何度もホテルに行っていたけれど、頑なに最後までは捧げられずにいた。
そしてその事実を知ってから初めて二人で会う日……それが、今の状況にあたるものだった。
『ゴメンゴメン。……そろそろばれるかもとは思ってたからさ。水面下で準備してたんだよね……こいつらには予定合うように近くで暇潰ししてもらって。で……どう?』
『、どうって……』
『あー……これでもきみ以外の子と遊んだのって、せいぜい二、三人だよ?でもさ……付き合ってて最後までヤラせてくれなかったの、きみだけだったよ』
『ッ……離…』
『だから今日で卒業しよっか。最後まで……ね?名無しが飽きないように、おれが遊んだ数より上の人数、ちゃーんと連れてきたしさ』
彼がどの店も、カフェも寄らずにまっすぐホテルに行きたいと言い出した時点で、もっと抵抗するべきだったと名無しが悔いたのは当然だ。
頃合を見謀られ、誘き出されていたようなものだろう……途中で雨が強く降ってきて、それを理由にいそいそと入口へ向かおうとする。
入口直前だった彼の後ろをついて行かずにいられた部分だけは自賛したかったけれど、名無しは雨と人目を気にして、細い路地まで後退してしまったことには再び後悔した。
名無しの言動で自身の浮気がばれている……。
そう確信した彼もまた、元の予想を立てた上で先手を切っており、スマホで連れを呼び出した直後には、薄汚い路地の壁際に名無しを追いつめていた。
名無しが抱かせてくれなかった不満から浮気をしたことを筆頭に、綺麗じゃない言葉を並べて罵る彼の表情は、好いた女性を見るそれとは到底思えなかった。