主≠監。
betray the tongue
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――――。
――。
「!動いてる……雨も、小降りになって……?!」
「そのようですね……残念です。どちらもそのままなら、或いは……今夜は此処で貴方と……ふふ」
「ッ……だから…そういうのはもうやめてってば……。……先に出るね。……ほんとに帰らなくちゃ……私…」
まるでシャワーで全てを洗い流す。
過去に起きた、都合の悪いものすべてを……そういう気持ちで握ったコックを頭上に掲げた。
名無しはひとりになった浴室で身を清めたその後、洗面所で身形を整え、こういう場所特有の大きなバスタオルで水分を拭き取った。
新しい予備のものとはいえ、バスローブを羽織るのは気が進まなかった。
けれど乾燥にかけていた衣服がクローゼットにあったぶん、それは仕方のないことだ。
名無しはそれを手に取ると、腰紐をキュッと締め、静かにジェイドの元へと戻った。
そして毛先の水分をタオルに吸わせながら、伸ばした手に示される、スマホの情報に胸を撫で下ろした。
「帰って。……トレイさんに連絡して……それで?」
「――……ねえ、ジェイド」
「?」
天気のアプリも、交通情報を知らせてくれるそれも、名無しに朗報を齎してくれた。
漸くだ……長い長い時間が終わるのだなと、彼女がホッとするのも無理はないだろう。
乗車すべき交通機関は復旧し、雨もだいぶと小降りになっているようであり、名無しはクローゼットに向かう数歩の足取りさえ前向きになっていた。
「……」
そんな名無しを横目に、先に浴室から出ていたジェイドは情報を既に知っていたけれど、予想どおりだった彼女の言動には少し物寂しげな表情を滲ませていた。
当然、名無しには悟らせまいとする、寂寥感漂うそれだった。
「……偶然は、不可抗力というか……。だから仕方ないと思う……の。そう思うしかないけど……」
「名無し?」
「……それ以外では、やっぱり私はもう……ジェイドには会わない…」
「………」
「、……今日、参考書と。傘も……ありがとう……。それじゃあ…――」
スマホを操作して、誤った情報を認識させるくらいの小技なんていくらでもできたかもしれない。
が、ジェイドがそれを名無しにしなかったのは、そんなことで彼女をこの部屋に留まらせたくなかったからだ。
力ずくでも、知恵を使ってでも朝まで閉じ込めたい気持ちは決してなかったわけじゃない。
だとしても、今の場合は事実を捻じ曲げることがジェイドの美学に反していた。
「きっとまた会えますよ……偶然ね」
名無しはスマホを見た後、クローゼットの服に手を伸ばし、湿気が残っていないかを触れることで確かめた。
隣に干していたハンカチもじゅうぶん乾いている。
視界に入った瞬間はつい思い出してしまったけれど、身体も頭も正常だ……そう言い聞かせて深く息を吸った。
着替えを終え、一緒に置かれていた、ジェイドが買ってくれた参考書を素直に鞄の中にしまうと、いよいよ出入り口へ向かうために背筋を引き締める。
ジェイドを置いて先に帰ることに罪悪感はない。
けれど此処に来てしまった事実だけは、まだ名無しの胸の内を掻き毟っていた。
「貴方が……まだ彼を想いながら僕との偶然を願っている……。そんな気がしてならないのはどうしてでしょうね……名無し」
髪のみだれもきちんと直し、名無しはジェイドに最低限の礼儀と挨拶を以ってすみやかに退室した。
一人きりになったジェイドは出入り口まで名無しを見送ることはなく、マイペースを保つべく、まだベッドに腰を下ろしていた。
足を組み頬杖をつき、目を閉じて一考する。
唇が僅かに動きを示し、口角をにじり上げながら割れたその部位が漏らしたのは、たとえば悲観的なそれとは真逆の言葉だった。
「――僕も願っていますよ……だって、僕は貴方を…――」