主≠監。
betray the tongue
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「ふふ……僕だって結構な汗を掻いたんですよ?貴方を抱く前にシャワーは浴びても、眠りにだってつけば、改めて流したいものです」
「ッ……あ……」
「ああ……名無しにとっては漸く待ち望んだ時間でしたね。雨に打たれたそれを流す前に、僕に抱かれてしまいましたものね、フッ」
「っ……ならひとりでゆっくり入らせてよ……もう……、……!」
今更裸を見たからと言って狼狽えるような仲ではなかったけれど、ベッドのある場とは少し違う明るい浴室、そこで見る異性の姿というのは、またどうしても視点が変わった。
ましてやジェイドだ……ローブ姿ならまだしも、何も気に留めるようなこともなく堂々としていたその立ち居振る舞いに、名無しはどうしてかしどろもどろとしていた。
恥ずかしいから……それも違う。
ではどうしてか……はっきりさせようにも、それにもまた答えが上手く見つからない。
近い回答を当て嵌めるとするならば、中途半端な関係だから、と言えばよかっただろうか。
身体だけの、歪んだ性癖にまみれた、恥辱溢れる行為に走ったその相手の……。
「ジェ、イド……んん……」
名無しはジェイドの入室、同じ浴槽に入ってきたことも仕方なく受け入れると、その湯船での過ごし方に動揺をみせた。
分かりきっていたことだ……男が背後から、女を抱き締めるように湯に浸かるのがベターだということは……。
名無しもそれをゆるし、背中にぴたりと触れるジェイドの胸板の感触に、ほんの少しだけドキドキとしていた。
寝落ちる前、嫌というほどその背にぶつかっていた。
声を何度も張り上げて、天井を見つめて、何度も何度も突き上げられたあの感覚だけは思い出すまいとしていたのは、今は彼女だけの秘密だろう――。
「フフ……このぬるさ、とても心地いいですね……名無しには冷たいのでは?」
「だいじょうぶ……私もいまはちょうどいいから……」
「そうでしたか、フッ……。――……未だに交通が麻痺していても、貴方ならどうにかして帰ると思っていました……けれど帰らなかった」
「ッ……」
既に身体を洗ったあとでよかったと名無しは思っていた。
どうという理由がなく、なんとなく感じただけだったとしても、万が一すぐに帰れることになったときを思えば当然だ。
ジェイドは自分を追ってここまできたけれど、幸い身体を解すという目的は一致していたようだった。
「目が覚めたとき、僕……隣に貴方が居なくて寂しかったんですよ?まあ、直後に服も鞄も視界に入りましたし、石鹸の良い香りがしたので、すぐ安心はしましたが」
「……」
「本当……優しいですね、名無しは。大丈夫、僕ならこのとおり……トレイさんと同じです。少し睡眠をとって回復できましたから」
名無しはなかなかジェイドと上手く言葉を交わせずにいた。
けれどそれは、気まずさ等によるものが主な原因ではなかった。
単純な疲れから……それに頭のどこかではもう既に、帰宅手段が整うことを今か今かと待ち侘びていたのも大きかったのだ。
早く帰りたい。
自分の運命を狂わせる、ジェイドの傍から離れたい。
そうだというのに入浴をゆるす浅ましさ。
こんなときにまでふいに思う身体の心配だって、変な期待をするような相手ではないと分かっていても、決して褒められたものじゃないだろう。
「――……その、……ブロットは?溜まってない……??」
「!――……貴方は……。そうやって勘違いさせるんですね……全く、ふふ。……優しいって罪だと思いませんか?名無し」
「っ……だって…、放っては……、……あ……」
変な期待を……ジェイドに限って。
それでもジェイドの声音が跳ねるようにして聞こえたのは、彼の前に居ても分かったことだった。
素直に喜んでいるのを背中で感じて、顔を見ずとも伝わるのは、その瞬間きつく抱き締められた所為でもあった。
その気が無くても耳元にかかる息遣いが、また間違いを起こそうと誘導しかけてくる。
もっと相手を振り払える意志の強さがあれば……。
「ジェイド……ほんとにやだ…もう……私…」
「名無し……貴方を抱きたい。また今すぐに」
「!」
名無しはジェイドの手首を握り締め、それを剥がそうと体動し、水面を揺るがした。
ぱしゃりと響く水音は耳心地のよいものだ。
けれど雰囲気はそうはいかなかった。
ジェイドは軽く名無しを抱き締めると、その身を両腕から解き放とうとはせず、彼女を焦らせる。
加えて言葉で誘えば、背後から見える横顔が赤らんでゆくのもみるみる伝わった。
すぐに冗談だと揶揄うつもりが引き伸ばしたくもなるのは、それだけジェイドが名無しを想っていたからに他なかった。
もっとも、想いにも色々あるけれど……。
ただの気がかり、慕うだけのそれ、或いは恋慕か――。
「フッ……」
一寸後ろから見つめると、ジェイドは静かに両腕の力を少しだけ抜き、名無しの動揺心を鎮めていた。