主≠監。
betray the tongue
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「………」
いつの間にか意識はなかったし、けれど目が覚めて、そこがすぐに代価を払って借りた部屋、ベッドの中だということは認識できた。
自分の隣で眠っているのが、ジェイドだったということも……。
「――……いま何時……ん、スマホ……、ああ……ダイヤって戻ったのかな……」
恐ろしいほど冷静でいられたのは、開き直っている証拠かもしれない。
慌てても仕方がないといえばまあそれまでだけれど、それでもいつもなら動揺して困惑して、ざわつきの中で気持ちよく眠る隣の男を起こしているシナリオも描けなくはなかった。
「………はぁ……」
寝落ちた時間もはっきりとは分からない。
が、名無しがむくりとベッドから起き上がっても、隣のジェイドは小さな寝息を立てたままだった。
「っ……」
こういう状況になった原因のひとつである、ベッドの正面、電源の入っていないテレビをひと睨みしながら、名無しは久しぶりに手にしたスマホを見た。
小さな画面には決して絶望的になるような時間が示されていなくとも、そのとき漏れたため息が、今の彼女の気持ちを代弁していた。
――――。
――。
「――……なんで止んでないの……?何で動いてないの……?ひと晩ここに泊まれってこと?ジェイドと……」
口から漏れる言葉の一つ一つに、負の感情が乗っていることくらい分かっている。
だから口にすべきでないことだって尚更、それでも名無しは、喉の奥から愚痴を吐かずにはいられなかった。
そんな些細なことで少しでも気が紛れるのなら、いくら話したって構わないと思えたのだ。
「……そんなの……」
時間は別に、特段焦るようなそれじゃなかった。
たとえば門限にあてはめたとしても、同じ年頃の女性が気にする必要もないような、いわば夜間に近い夕刻だ。
「………」
ジェイドとは、この部屋で引くほど長い時間を過ごした気がした。
が、実際は過ごし方がただ濃密にすぎなかっただけだった。
眠っていた時間を計算するのも馬鹿らしくなるほどには背中に嫌な汗も感じなかったし、けれどだからこそ、過ぎない時間が名無しの予定を悉く壊してゆく。
「……はぁ……」
長いため息。
困り眉と喩えるに相応しいそれ。
アプリで確認した近隣の交通機関は未だ麻痺を保っており、復旧作業に時間を要している、という文字でのアナウンスが、無情にも名無しのスマホに流れていた。
「……」
それから名無しが開いた天気アプリでも、彼女が望んだ晴れのアイコンは表示されることはなかった。
情報を視認した後は、心なしか外の雨音さえ聞こえるような錯覚に陥る。
こんな閉ざされた空間でも、だ……名無しは詰み同然の状況に言葉を失くし、後の行動をどうしても決めかねていた。
そうして襲われるのは、無言の空間での考える時間に事実を突き付けられて、浴びせられる現実だ――。
「――はぁ………。――……完全に裏切って……こんなの同じだよ……あのひとと……」
したくなくともよみがえる、反芻される身体への記憶。
少し独り言が漏れるだけで、擦れ声は寝起きの所為だけではないことも意味しているのだと思い知る。
執拗に啼き叫び、喘がなければ喉も痛まないだろう。
選択を誤った。
ああしていれば、こうしていれば。
悔いばかりが押し寄せて、まだまだズクンと疼く下半身に、隣で眠るジェイドの熱を感じる……。
「もう……――」
どうしたらいいかわからない。
誰にも助けを乞えないまま……。
が、そんな折、ふと名無しに欲のかたまりがよぎるのもまた現実だった。
雨と、ジェイドとフェイクに汚されたままだった身体を、漸く流せるときが訪れていたのだ。
止まない雨に身動きの取れない状況。
たとえ事態に悲観していようとも、できることがまだあったのなら……。
「……――ん……、……名無し……?」
そして名無しが一人で浴室へ向かったとき、ベッドに取り残されていたジェイドもまた彼女のぬくもりを求め、自然と目を覚ましていた。
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