主≠監。
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「?フーン、気のせいか……まあいいや!……ね、実は今あんまり時間ないんでしょ?ゴメンね、トレイくん」
「~……お前なぁ……ホント、分かってて紅茶ねだって……まったく……フフ。まあいいさ……俺もいい気分転換になった。お前のおかげでリフレッシュできたよ」
「そ?フフッ……だからさ、今度ゆっくり聞きたいな、トレイくんのカノバナ」
「はは……分かったよ、今度な。お前のことも多少は話題に出てるし、そのうち会ってやってくれよ」
「マジ……?それって緊張しちゃうかも~……でも楽しみっ。……じゃあさ、それまでに美味しいお店、オレ探しとくね」
「映える店か?ハハッ……。頼んだぞ?」
トレイはそのとき、たとえ自分の中で昇華させた独り言だったとしても、ケイトが無自覚でその対象を形容した言葉が、自身にとっても一番危惧するものなのだろうと確信していた。
悪いムシ……実にごもっともだ。
名無しはもう共通の玩具じゃない。
願わくば今すぐにでも縁の切れて欲しいと捉える、元は身体だけで繋がった相手である。
まだ出会いのきっかけも知らない。
思えばそれも軽く流されたし、当時は気にすることも追及する理由もなかった。
自分の性欲処理のことだけを考えて、赴くままに抱きまくって、気が付けば真剣に惚れていたのだからとんだ笑い話だ。
「………」
いつかは向き合わなくてはいけない。
知らなくていいことを知る必要を感じ、名無しのすべてを受け止めてやりたい。
それが終われば、初めて名無しも完全に”彼”と切れることだろう……そう信じたかった。
「ごちそうさま!トレイくん。ちょー美味しかった」
「それはよかった……ああ、カップはそのままでいいよ、俺が洗っておくから」
「ありがとッ……それじゃあオレはもう退散するね!――……会えない時ってさ、不安になることもあるだろうけど、肩の力抜いてね?トレイくん」
「!……了解です、ダイヤモンド先輩?」
――やがて小さな嵐の如く訪れ、去り行こうとしていたケイトとの時間に幕が下りる。
はじめこそ驚いたけれど、結果数分相手をして、トレイが救われていたのは紛れもない事実だった。
名無しの存在が気になっていた様子や、興味津々な有様などは如何にもケイトらしい。
最後まで自分に気を配るあたりも……他人に励まされることほど身に沁みる、こんなに嬉しい気持ちはないだろう。
トレイは、ケイトがキッチンから離れる最後ぎりぎりまで苦笑いと、謝意をこめた柔和な表情で彼を見送った。
洗い場に運ぶ為に手にしたカップの中身は綺麗な空っぽで、短時間のあいだに快く紅茶を嗜んでくれたことも素直に嬉しかった。
「……」
何より、トレイは本当に救われていた……。
自分一人では処理しきれなかったかもしれない。
負に汚されかけた想いを吐き出しあぐねていたところに、絶妙な機でケイトは来てくれた。
「………」
キッチンを去ったケイトの気配が周囲から完全になくなると、トレイは彼に改めて礼を告げた。
まあ、所詮声を出したのは胸中でのことに過ぎないのだけれど……。
そして救われたと同時またひとりになり、トレイが感じたのは再び自分を襲う虚無だ。
ケイトがトレイを和やかにさせていたのは、彼の中に引かれた一線の、あくまで片側だけだった。
「会えないとき、不安に……か。……なったことなんてなかったよ、ついさっきまでな……」
持ち直したって、結局後ろ向きな気持ちは完全に消えてはくれない。
こういうときにすぐに会えない、忙しくて声も聞けない……それがどんなにトレイのメンタルを削いでいたことか。
けれどケイトの顔を立てる意味も込め、トレイはその日最後まで耐えていた。
耐えたその先に、望ましい未来が待っているのならば、と……。
「……映画の時間、調べるんだったな……ついでに声が聞ければ――……いや、ここは我慢かな……フゥ…。――……早く会いたいよ、名無し……」
蛇口を捻り、洗い場の乾いたスポンジに手を伸ばす。
洗剤を付けて、紅茶を飲み干した二人分のカップを洗いながら、トレイは小さく名無しの名を囁いた――。